「今日じゃなかったの?」男子発言ノート16
後にも先にも、あんなにも身悶えし部屋の床を転げ回ったことはないだろう。
職場の気になる男性と、
「今度飲みに行きましょう」
「じゃぁ、次に勤務が一緒になる月末あたりに」
なんて会話をした数週間後の月末のある日。
仕事を終えていつものように同僚何人かと職場のビルから駅まで歩いて、それぞれに電車に乗り帰宅した。
と、ケータイに知らない着信番号。出ると、気になる彼だった。
「あれ、飲みに行くのって今日じゃなかったの?」
彼の声は心なしか少し不機嫌そう。
突然の出来事に、私は完全に舞い上がり、声がぷるぷる。
そんなじぶんにもまた動揺しながら、なんとか震えを抑え、
「え、そうなの? 今日は皆んな帰りが一緒だったから……。
ていうか私の番号、どうやって知ったの?」
そう訊くと、
「それは……Aさんに訊いた」
と、後ろめたそうな彼。
へ?
Aさんというのは、バイトリーダーみたいな存在で、職務上、シフト調整をするためにスタッフ全員の電話番号を把握している人だった。
うっそ。
途端、「キヤーーー!!!」などと叫びそうになるのを全身でこらえ、床に崩れ落ちた。
ていうか、なに???
彼ってば、
私と飲みに行くの今日だと思って一日そわそわしてたってこと?
なのに、
そっけなく駅でバイバイされて「あれ?」って拍子抜けして?
だけど悶々と沸々と煮え切らずに、
Aさんにテキトーな言い訳して私の個人情報を聞き出したってこと?
で、
今、電話掛けてきてるの?
なにそれ最高すぎるんですけど!!!!!
くの字になったり、ゴロゴロと左右に回転したり。
部屋で一人、ニヤニヤと気味悪くケータイを握りしめながら身悶える女がそこに……。
「だからこの前言ってたの俺、てっきり今日かと思ってたんだけど……?」
「(転がりながら)あ、ごめんっ。じゃ、次のシフトの日、行こう!」
そうぷるぷるゴロゴロしながら約束をして、その日は電話を切ったのだった。
あの時、カーペットにこすりつけたこめかみの感触とか、カーペットの色とか、カーペットの目地の粗さとか、今でも憶えてる。
あのカーペット。……その後、彼も踏むことになったあのカーペットは、今でもあのアパートの部屋に敷いてあるだろうか。
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✒漫画『男子発言ノート』第7回「今度飲みに行きましょう」はお世辞じゃなかった?(漫画:つきはなこ/原作:大島智衣『男子発言ノート』)
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