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#17「理念経営は、サグラダファミリアだ」

(この号は、約3分で読めます)


前号 では、経営理念が社内に浸透しない根本的な理由として、社員と経営者の短期的利害が一致しない点を取り上げました。

経営理念の浸透には、経営者・社員ともに相当な覚悟とエネルギー、そして時間を要します。

さらに理念経営(理念を軸にする経営スタイル)の難しいところは、中途半端な導入が何の成果も生まない点。
せっかく導入したものの、思った形で成果が出ず、途中で大きくトーンダウンしてしまったり、形骸化してしまうのは、よくある話。
そしてそのあと残るのは、徒労と「あれは何だったのか?」という後味の悪い記憶のみという、最悪の結果となります。

「それなら、ヘタに小難しい理念経営なんかに手を出すより、事業の根幹となる戦略や戦術に特化し、それに集中して取り組んだほうが、会社にも、社員にも良いのでは?」と思うのが人情です...

でも、世の経営書を開けば、必ず理念経営の重要性を説いています。
経営セミナーに参加すれば、「どうすれば理念が浸透するか」の話が必ず出てきます。

理想と現実のギャップ。
難しい問題です...

”ミッション、ビジョン、バリュー以外は、すべてアウトソーシング可能である”

「ネクストソサエティ」 ピーター・ドラッカー


経営者ならだれでも聞いたことがある、「ミッション、ビジョン、バリュー」という言葉。
実はこの「ミッション、ビジョン、バリュー」、ドラッカー氏が提唱した言葉だったんですよね。

そして、上で引用したドラッカー氏の箴言。

「ミッション、ビジョン、バリュー以外は、全てアウトソーシングが可能」と言い切るこの考え方、ある意味過激というか、大げさすぎる感はありますね。

でも、その強い言葉の裏には、「企業のミッション、ビジョン、バリューを自ら考え、明文化し、浸透させることが、経営者がやるべきことの一丁目一番地。
その努力を払わない企業は、企業自体が他の企業でも置き換え可能(アウトソーシング)な、独自性のない企業である」というのがドラッカー氏の真意だったのでは?、と私は解釈しています。

ドラッカー氏の思考は、常に「企業は社会のためにある」という大前提からスタートしています。
つまり、「企業が存続する唯一の理由は、その企業が社会から必要とされているから」というのが、氏の根本的な立脚点。

by 松下幸之助


その根本的な存在理由を正当化するため、企業が果たすべき具体的な役割として、ドラッカー氏は以下3つを掲げています。

1.独自の強みを活かし、顧客(社会)のニーズに応える【事業】
2.社員がイキイキ働ける環境を整える【組織】
3.社会が抱える問題の解決に貢献する【社会】

その3つの役割を明文化したのが、ミッション、ビジョン、バリューとも言えます。

つまり、
「自社が社会に対して果たすべき使命(役割)はなにか?」
「その役割は、自社独自の強みに立脚しているか?」
をとことん考え、明文化し、そのために今何をすべきかを導くのが ”ミッション”

抽象的でゴールのない ”ミッション” に向かって突き進む中、具体的な中間ゴール(マイルストーン)として、イメージ(可視化)できる在りたい姿を明文化したのが ”ビジョン”

その実現に向け、社員が一丸となり、チームとしてイキイキ働くために定めた価値観行動規範が ”バリュー”

建造物で喩えれば、土台であり、骨組みのようなもの。

土台や骨組みは、建物の外からは見えません。
建物の中にいても、普段は意識がそこには向かいません。

内外のヒトの目を引くのは、お洒落な外装や内装です。

しかし、土台や骨組みを軽視したお洒落な建造物は災害や環境の変化に脆く、早晩崩れます。

企業の構造も、同じなのかもしれません。
企業の土台と骨組みとなるべきミッション、ビジョン、バリューがあって、初めてその内装や外装に当たる戦略や戦術が生きてくるのだと思います。

ただし、建造物の構築と企業経営の構築で根本的に違うのは、その建付け順序の柔軟性

建造物の場合、土台と骨組みを一旦構築したら、その後の変更はほぼ不可能。
やり直しや修繕がききません。

対して企業経営の土台と骨組み作りは、かなりフレキシブル。
最初は骨組みがなかったり、弱かったりしても、その重要性に気付いた時点から、補強することも可能です。

また、企業の土台と骨組み作りは、外注(アウトソーシング)できません。
設計も着工も、最初は経営者が中心となって取り掛かり、同居する社員とともに取り組むしかありません。
みな最初はド素人。大変です。
でも自分たちで取り組むからこそ、そこに独自性も生まれ、連帯感も醸成されてきます。

そして、企業経営の土台と骨組み作りに、終わりはありません。
決して完成することのない設計図を元に、社員とともに太く、堅牢に仕立てていく、決して終わりのない工程。
でも土台と骨組みを愚直に作り続けていると、ある時点から社内の空気感が目に見えて変わっていくのを実感するようです。
また、土台と骨組みがしっかりすればするほど、内装と外装もそれに合わせてプラスに変化するから面白い。

サグラダファミリア (2026年に一旦完成予定)

そんな、会社の土台と骨組みとなるミッション、ビジョン、バリュー。
どうせやるなら、一日も早く取り掛かった方がいいですよね。

御社独自のサグラダファミリア作り。
なんだか、ワクワクしてきませんか?

~前号の「経営理念の浸透は、本当に必要なことなのだろうか?」を読み返す~


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