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グローバリゼーションとアイデンティティを捉える絶好の一冊:世界初!アカ族が主人公の小説The Tea Girl of Hummingbird Lane

グローバリゼーションが進むについてれ、自分の親や文化が大事にしている価値観と新しく知った価値観の間でアイデンティティについて揺らぐ人が増えています。

そんな私も小学校6年生の2学期から突如日本に帰国することになり
アメリカの小学校から日本の小学校に転向し、強烈なアイデンティティ・クライシスに陥った経験があります。

ずっと自分は日本人だと思っていたのに、日本に帰国すると私は日本人にはなれていないようで、日本人ともちょっと違うらしい事実に直面しました。

けど、私はアメリカ人でもない。
だったら自分は何者なんだろう??

という状況に陥りました。今日は、そんなアイデンティティについての葛藤も丁寧にとらえている素敵な一冊をご紹介しようと思います。

グローバリゼーションで自分のアイデンティティを問い直さざるを得なくなったすべての人にもお勧めです!

1.本との出会い

娘のお友達と公園で遊んでいた時、なんとそのお母さんはコロナ前に東南アジアを中心に、美味しいお茶を買付に行くお仕事をされていらした方だったことがわかりました。

私も学生時代、タイ・ラオス・ミャンマー国境地帯に暮らす山岳民族の子どもたちのことを研究していたので、久しぶりの東南アジア談義に大盛りあがり。

私が留学していた地域の近くの雲南省でも美味しいお茶が取れからよく行っていたとのこと。この地域について書かれたすごくいい小説があるんだけど、読んだことある?と聞かれたのが、この本との出会いでした。

ちなみに、彼女の働いているお茶屋さんは、ここベイエリア発祥のお茶の会社。環境にも生産者にもできるだけ配慮した方法でブレンドされ、箱や包装にもこだわりを持ったNumi Organic Teaです。

さっそく図書館で借り、読み始めてみると、止まらなくなってしまいました。

本と出会った公園


2.アカ族を主人公にした世界初の小説

その本は、Lisa SeeのThe Tea Girl from Hummingbird Lane.

舞台は雲南省南部、ラオス・ミャンマーと国境を接し、タイ北部とも隣接しているこの地域で先祖代々お茶を栽培しながら、伝統儀式を大事にしながら暮らしているアカ族が主人公のお話しです。

世界にはその存在すら知られていなかったこの地域で暮らす人たちは、何よりも自然との調和、ご先祖さまとの繋がり、そして月、太陽、空、大地、風、滝などあらゆるものに宿っていると信じられていれる精霊と共に暮らしていました。そして、貧しいながらも、山奥に生えるお茶を摘み、売り、僅かな現金収入を得ながら、自給自足の暮らしをして暮らしていました。

そんな土地に、ある日、世界でも最高級のプーアール茶が取れるという噂を聞きつけたお茶のバイヤーが香港からやってくるのです。

そのお茶の木は、主人公の女家系によって代々受け継がれてきた、たとえ、旦那さんにも明かされていない秘密の場所にある古い大木から取れたお茶だったのです。そのお茶の木のありかをお母さんから教えてもらった主人公は、禁断の恋の末授かった女の子をこっそりとその木の麓で出産します。アカ族の掟に反し、その女の子の命を護る唯一の方法は、村の誰にも見つからないようにその子を孤児院のドアの前に置き、何もなかったかのように、村に戻ってくること。その時に、赤ちゃんと一緒に置かれたのがその木から取れたプーアール茶の散茶だったのです。

と、どんどんネタバレしてしまいたくなりますが、グローバル化によって手つかずの自然の中で育つお茶に価値が見いだされることによって、自然と共に代々暮らしてきた人たちの暮らしがどう変わっていくか。「可能性」という名のもとに、外国の価値観、教育、ビジネスのアイディアが紹介され、人々はどう選択していくか。そんなことが詳細に紡がれていく小説でした。

そして、孤児院に預けられた赤ちゃんはカリフォルニアのとても裕福な家庭の養子として愛情たっぷりに育ちます。

こっそりと子どもを産み、村から飛び出し教育を受けることで親とは違う道を切り開いていく主人公と、
自分とは違う髪の色・肌を持つ両親に育てられるその娘。

世界で活躍する中で守りきれなくなるアカ族の文化との葛藤に直面する主人公と
自分のルーツは何かと探求を始めるその娘。

お茶を通して、資本主義、環境保護、人々の生活、アイデンティティ、これでもかってくらい主人公とその周りの人の視点から重層的に描かれている小説。徹底的にアカ族の視点にたって描かれているこの小説は、物語というよりも歴史書のようにすら感じられました。


3.伝統ではなければ何を基準に選ぶのか

中でも印象的だったのが、主人公が外の世界に出ていくかを迷った時のお母さんの言葉です。

You must make correct choices for the world to remain in balance
世界の調和が保たれるように選択しないといけません。

The Tea Girl of Hummingbird Lane

世界の調和が保たれる選択。グローバルな社会に発見される前のその村では、その答えは自明でした。それは代々受け継がれていることを守り継承すること。ところが、その村が外の世界に発見され、グローバリゼーションの波に否応でも影響を受ける様になった時、「世界」の範囲が一気に広がって行きます。そして、「調和」のためと行われていた村の伝統儀式も続けられるものと続けられないものが出てきます。

そんな中、なんとしてでも伝統は護るんだと形に固執するのでもなく、そんな古い慣習はいらないんだとないがしろにするのでもなく、遠くを見ながら本質を見抜き、柔軟に形は変えながらも、生きる指針として大事にするという描かれ方、なんだか痛いほど共感してしまいました。

アメリカで養子として育った主人公の娘さんが、大学生になり、偶然にも自分の産まれた地に向かおうとする時のチームメンバーとの会話も印象的でした。中国人でもアメリカ人でもない彼女に

You’re a new kind of global citizen, he says, 
And it’s not just about you, is it?
It’s larger than any of you as individuals. 
In a way, you do have immense responsibility. 

The Tea Girl of Hummingbird Lane

自分のルーツを探すという個人的な探求は、自分だけのためじゃなくって、普遍的な何かのためでもあるということ。たしかに、グローバル化が進む今の世の中、住んでいる場所はバラバラであったとしても、同じような葛藤を共有している人たちは世界中でますます増えていくのでしょう。

そう考えると、日本に帰国した時に感じた私の葛藤は決して無駄ではなかったんだなと救われる気持ちになったのです。


3.アイデンティティという創作活動

高校生の時、家に帰る前に本屋さんに寄り道するのが好きでした。その日も、乗り換える駅の一駅前で降り、本屋さんの中をぶらぶらしていた時に河合隼雄の「日本人とアイデンティティ」という本に出会いました。

アメリカ人ではないけど、日本人にも成りきれていない自分をどう捉えたらいいのかと悩んでいた私は一気に立ち読みしてしまいました。

詳しい内容は覚えていないのですが、そこで、アイデンティティって「日本人」とか「アメリカ人」とか国に縛られなくてもいいんだよという考え方に出会い、すごく気持ちが楽になったことを思い出します。どこかの国で考えたいなら、「インターナショナル人」とかにしたらいいよって書いてあったのかなかったのか定かではないですが、そっか!自分で作っていっていいんだ!既にある枠に当てはめようってしなくてもいいんだ!と、妙に嬉しくなった記憶があります。

偶然にも今朝ライフ・シフト2を読んでいたのですが、そこには、これからの時代、

自らのアイデンティティと人生のストーリーを創造的に描くこと

アンドリュー・スコット/リンダ・グラットン、2021年『Life Shift2 100年時代の行動戦略』

の大切さが指摘されていました。
なぜなら、教育を受け、仕事をし、引退生活を送るという3ステージのこれまでの人生を支えていた要素がガタガタと変わってきているからです。

ますます長生きできる世の中、
テクノロジーの目まぐるしい進歩。
予期しないことが起きる時代に生きている私達は、
突然の失業やキャリアチェンジ、異国への移住などによって突如アイデンティティのゆらぎに直面する確立が高まっていると。

そんな時に、未来につながるストーリーを自らクリエイティブに描き、アイデンティティを作って行けるか。それが大事になってくると書かれていました。

アイデンティティが帰国子女などの一部の人たちの話題ではなく、誰もが考えておくといい時代になった今、この本はそんなアイデンティティの創り方へのヒントにもなると思いました!

今日もお読み頂きありがとうございました。

De Young Museum



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