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ぽんストーリー:幽霊バス《二次創作怪談》
終バスの《降ります》灯る夏の夜
部員じゃなくても
受付中です|qω・)ワタシガ
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幽霊バス《二次創作怪談》
乳飲子の亜子を抱えた母親の紗来は真夜中のバス停でボンヤリしていた。もう何処にも行く処はない。
こんな夜中に来るはずも無いバスを待ちながら、紗来はもう生きてはいけないと感じていた。
星の煌めく夏の夜空が滲んでいる。
ゴォー。
遠くから何かぼんやりした光が近づいて来た。
プシュー。
バスだった。こんな真夜中に? 紗来は何故かふらりと立ち上がり、バスに乗った。
ピッ。
ICカードをタッチし、バスの中へ進んだ。奥に酔っぱらいらしき男がグォーグォーとイビキをかいていた。
紗来は腕の中でスヤスヤ眠る亜子と、前方の席に座った。
《発車します。》
何処へ行けば良いのだろうか。行くあてなど無かった。窓の景色は町から闇へと進む。お月様が偶に見えた。
《次は……》
《次は……》
バスはどんどん山の中に入っていく様子で、少し心細い気持ちになるのだが、行くあてのない紗来には、どうすることも出来なかった。
《次は……》
何処迄行くのだろう。行き先は、《終》になっていた。聞いたことのない地名だ。もう、このまま、どうなったところで同じかな。紗来はまた涙が零れそうになった。
「あぶ」
と、今までスヤスヤと眠っていた亜子が急に起きた。と思うと、激しく泣き出した。
「よしよし」
紗来があやしても、亜子は泣き止まない。
「オイコラ! ガキを早く泣き止ませろ!」
後ろの酔っぱらいがわめいた。
「す、すみません。よしよし」
あやしてもあやしても、亜子の泣き声は激しくなるばかり。
「オイ!! ガキうっせーんだよ!」
紗来はオロオロしたが、亜子は泣くばかりであった。どうする事もできなかった。
《次は……》
《降ります》
紗来は降りますボタンを押した。赤いランプがバスのボタンに灯った。
プシュー。
紗来は亜子とバスを降りた。周りは森であり、とても人の気配のない場所であった。
ゴォー。
バスは行ってしまった。
見上げるとただ、お月様が煌煌と灯っていた。
外の風に触れて、少し泣き止んだ亜子。紗来は子守唄を歌った。
ねんねん よいこ
おつきさまにも ひはともる
ねんねん よいこ
おほしさまにも なみだおち
ねんねん ねんねん
こんやは おやすみ
紗来の優しい子守唄に、森中が聞き入っているようであった。
紗来はとりあえずお月様の照らす方向へ、子守唄を歌いながら歩いていった。
亜子も安心して、腕の中でスヤスヤと眠っていた。
遠くに光が見える。人の家だろうか。
そっと近づくと、やはり家であった。紗来は、トントンと戸を叩いた。
中から高齢の女性が出てきた。
「こんな夜更けに申し訳ありません」
高齢の女性は、にっこりと微笑んで中へ通してくれた。
高齢の女性は、お茶を淹れてくれた。紗来はほっとして、今までの経緯を話した。
娘の亜子と二人でどうやって生きていけば良いのか分からなくなったこと。夜中にバス停でバスに乗ったこと。亜子が泣き出して酔っぱらいに怒鳴られて仕方なく降りたこと。子守唄を歌ってお月様に導かれてこの家にたどり着いたこと。
黙って聞いてくれていた高齢の女性は話を全て聞いた後、教えてくれた。
「紗来さん。貴女、亜子ちゃんに救われたね」
「え?」
「そのバスは幽霊バスだよ。そのまま乗っていたら何処へ行ったか……。亜子ちゃんが、助けてくれたんだよ」
「亜子が……」
「それから、紗来さん。貴女の優しさもだよ」
「え?」
「亜子ちゃんに歌った子守唄が、この婆の家へ導いてくれたのさ。森の神様方が」
「森の神様……」
「さあ、今日はゆっくりここで眠りなさい。明日の朝にはもう、私は出掛けているから、この山を道沿いに降りて行きなさい。ただしけっして、振り返ってはいけないよ」
「はい。本当にどうもありがとうございました」
紗来は亜子とゆっくり眠りについた。こんなに安心して眠ることが出来たのは、久しぶりだった。
朝になった。高齢の女性はもういなかった。もう何処かへ行ってしまったらしい。
紗来は言われた通りに山を道沿いに降りて、振り返らずに大きな道まで降りてくることが出来た。
早朝のバスが走っている。紗来は近くのバス停でバスに乗りこんだ。
「あぶ」
亜子が笑った。紗来もつられて微笑んだ。
表示されている行き先は、《未来》だった。
(おわり)
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