宇宙歌:ショートショート

宇宙歌

眠れよい子よ……。

お母さんのそばで優しく眠る赤ちゃん。夜空ではお星さまがキラキラとほほえんでいる。

お母さんの愛情に包まれて、赤ちゃんはすくすくと育った。そして本が好きな少年になった。

ある日、少年は科学の雑誌を読んでいた。

無の世界から生まれたのは宇宙という仮説が、少年の心をつかんだ。

無の世界。何もない世界。物も空間も時間もなかった無の世界? そこから宇宙が生まれるって、何だ??

少年は研究を始めた。もう寝なさいというお母さんのお小言もおかまいなしに、大人用の本を開いては読みふけった。

そして少年は研究を続けた。雨の日も風の日も雪の日も星の降る夜もポカポカの日も。

いつしか少年は、青年になり、大人になり、そしてお爺さんになっていた。

お爺さんはずっと無の世界の研究を続けていた。

ある夜お爺さんは、無の世界には何もなかった。と結論づけようとした。

けれどお爺さんはふと思い直して、愛用の鉛筆を取った。

たしかに無の世界には何もなかった。だが、そこには全てがあった。

そこで、こう記した。

無の世界には何もなかったが、ただ、歌だけがあった。

その歌は、重低音であり穏やかな音であり高い音の歌でもあったという。その歌はどこか懐かしいのに、まだ何者でもなく、かつ全ての歌でもあった。

そしていつしか歌はハーモニーとなり。そして、宇宙が生まれた。

歌。それは。

母の子守歌であった。

お爺さんはそう書いて、満足げに鉛筆を置いた。

夜空にはお星さまがキラキラとほほえんでいた。

眠れよい子よ……。


(おわりりんご号泣宇宙歌)


しりとり1

しりとり3

しりとり5


この記事が参加している募集

#宇宙SF

6,030件

いただいたサポートは、本を買うことに使っていました。もっとよい作品を創りたいです。 ありがとうございます。