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#宇宙SF ココは宇宙なんだよ?

「ココは宇宙なんだよ?」

「ナアニを夢みてるんだ。授業に集中しろ」

「でも……」

「なあ、面白くないよ?」

「……」

私はただ素朴な感想を言っただけだった。けれど、みんなには夢をみてウケをねらっただけに見られていたみたいだった。

それ以来、この不思議な思いは、ポケットに仕舞い込んで、フタをしておくことにするしかなかった。悔しさと悲しさを感じながら。小学生の頃だった。


その疑問が太古の昔からの謎の鍵だったと気がついたのは、ずいぶんと時が経ってからだった。

それは自分で図書館に通い。二階の奥の部屋の裏の階段脇にある、古ぼけた本に書いてあったから、間違いないと思う。高校一年生の頃だったと思う。


「……ココは宇宙なんだよ?」

こわごわとつぶやいてみる。何も起こらない。けれども、何かが変わったのは確かだった。

どこかの扉が開いたのか、どこかの道が通じたのか、どこかの……。いや、私の中の何かの鍵が開いたのだと思う。


「ココは宇宙なんだよ?」

「夢? いいえ、夢をも包み込むもの」

「面白くない? いいえ、常識を超えた世界」


私は本をむさぼるように読みすすめた。だけど、みんなには、言えなかった。また笑われると思ったから。自分の中に宇宙をどんどん仕舞い込んでいく日々をおくっていた。受験生の頃だった。


大学に進み、学んでも、研究を重ねても、その思いの鍵は謎の形のままだった。謎は解けないままだった。けれども、友だちづきあいやサークル活動とかもあり、なんとなく楽しい毎日で。すっかり、謎の思いを忘れていった。


社会人になり、私はいよいよ謎の思いを取り出して思いにふけることをしなくなった。

それでも、毎日に不満はなかった。いや、仕事には悩むことばかりだったけれども、謎の思いを、すっかりと忘れていて。毎日の仕事でいっぱいいっぱいだった。


そんなある日。私はSNSをはじめた。短い言葉を書いて投稿するのだ。反応が返ってくると嬉しかった。

毎日なにかしら投稿をしては、日々をのほほんと楽しんでいた。タイムラインには、沢山の人々の記事が表示される。ハートマークを押しては、コメントを書いた。そんな日々にうつつをぬかしていた。


数年経ったある日。こんな記事が流れてきた。

『ココは宇宙なんだよ?』

何だかむしょうに気になって記事を読んでみた。

「あっ……」


私は、ポケットの中にあるはずの鍵を探ってみた。

『ココは宇宙なんだよ?』

冷や汗が吹き出た。鍵はどんなに探しても見つからなかった。

私はなにか大切な思いを、大切な鍵をいつの間にか無くしてしまったのだと感じた。しかし、それが何だったのかさえ、思い出せなかった。

さて、ここで私は青ざめたのだろうか。それとも、安心したのだろうか。


『ココは宇宙なんだよ?』

この記事にハートマークを押して、当たり障りのないコメントをして、元ののんべんだらりとした世界へ戻るべきなのかもしれない。きっといつもの日常に戻れるのだろうと思う。

しかしそれは子どもの頃の自分自身を笑いとばして、無かったことにするという行為であるような気がした。


私はじっと思う。たとえ、誰に理解されなくてもいい。ただ、この大切な思いは、絶対に確かにココにあったんだ。


そう思った途端、大きな流れ星が流れた。いや、なにかそんな気がして、ポケット探った。

あ。

あった。私の大切な思い。大切な鍵。


「ココは宇宙なんだよ?」

そう。


「ココは宇宙なんだよ?」

そうだよ、そうなんだよ。


あった。


もう無くさないと誓いをたてよう。そうさ、私はそれをココに記そう。

『そうさ。ココは宇宙なんだよ?』


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