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まんげつライト

まんげつの光がふりそそぐ夜。
ちょっぴりふしぎで、とくべつな瞬間のおはなし。

ラジオ『おはなしのすずらん』です。
おうちにいる時間がもっと楽しく素敵になるような、心がほっこり柔らかくなるオリジナルのラジオドラマを作っています。
note:note.com/ohanashi_suzuran
Twitter:twitter.com/ohanashisuzuran


『まんげつライト』


今宵は、まんげつです。
おおきくて、まんまるな月。
きいろくて、あったかい月。
優しく光って、世界を照らす、月。


なんだか眠れない夜。
カーテンを少し、開けてみました。
四角い窓から、紺色の夜空が見えます。

そこには、グレーと水色を混ぜたような色の、薄い雲。
音もなくひかる星が い く つ か…。
その、いっとうたかいところに、
まあるい月が、ありました。

窓を細く開けると、ひんやりした空気がするりと入ってきます。
「その向こうから、透き通った光が、まっすぐにこちらを照らしました。
そこで、ふ…と、思い立ったのです。


「そうだ、これはスポットライトなんだ。
眠れないんじゃなくって、踊りたかったんだ。」


そっとおふとんを抜け出して、ちょっとだけ爪先立ち。
静かなお部屋を、透明なライトが照らします。
眠っているひとを起こさないように、
そうっと、ダンスを踊りましょう!

夜空に向かってピン、と伸ばした手を
ゆっくりおろしながら、おじぎをひとつ。
流れるようにゆらゆらと動かした腕を、
やわらかな夜の風がヴェールのように包みます。

月明かりのなか、くるりと一回転。
ふわりと着地した足に伝わる、床のひんやりとした冷たさは、甘いような心地よさです。
その温度を楽しみながら、今度はそのまま、月明かりが作った影をそっとなぞります。
さらり、するする、ひゅるん。とん、とん、ぽつん、つつつつ・・・すー・・・っ。

豪華なオーケストラはありません。でも、
夜空には星たちが、鈴の音のように
シャンシャンシャンシャン…と光っています。

それだけではありません。
窓の外からは、うっとりとなめらかな虫たちの歌声。
時々吹く風がきまぐれに枝葉を揺らし、伴奏を奏でます。
静かな、夜の音楽です。

月の光をいっぱいに浴びた、
たったひとりの、とくべつなステージ。
踊っていると、嬉しくて、嬉しくて、
胸がいっぱいになっていきました。

言葉にするには、あまりにも、美しい夜でした。

その日、あるひとは、帰り道が悲しくありませんでした。
まんげつライトが夜道を照らしてくれたからです。
いつもの道路が、輝く花道に変わりました。

また、あるひとは、一人が寂しくありませんでした。
まんげつライトがどこからでも見守ってくれたからです。
どんな時でも応援してくれるファンみたいでした。

まんげつライトに照らされて、今夜は、誰もが主役です。


今宵は、まんげつです。
おおきくて、まんまるな月。
きいろくて、あったかい月。
優しく光って、みんなを照らす、月。


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