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広大な世界にひとり、その全てを受け止めることができなかった

その日は全てが予想外であった。

ジョンミューアトレイル13日目、この日は12km歩く予定だった。目的地は綺麗と噂のWanda Lake。ただ、もし歩けそうなら少し先まで歩きたい。いつもはカチッと決める行程が、この日は曖昧だった。

前の晩はあまり眠れなかった。標高が上がって、寒かったのもある。夜中にトイレでテントから出ると、鹿のシルエットが見えた。眠れない。眠れないからこれからの人生を考える。いつもとは違う、変な日だった。

朝から体調が悪い。ご飯が美味しいと感じない。お腹はペコペコなのに、少し食べたら気分が悪くなってしまう。仕方なくあまり食べずに出発する。しばらくは登り。急登ではないけど、つづら折りの登りがずっと続く。

こんなに余裕がないのは久しぶりだ。湖を見ても、いつもより感動が薄い気がする。エンジンがかからない。

まだ着かないのー?
いつもなら思わないネガティブなことを、歩きながら考えてしまった。

◇ ◇ ◇

歩きだして4時間、目的地のWanda Lakeに着いた。標高3300m、周りには岩しかない。そこに佇んでいる青い湖。

すごく綺麗だ。もしかしたら今までの湖のなかで一番かもしれない。良かった。ちゃんと感動する心を持っていた。

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時刻は1時半。今日はここをキャンプ地とすると思っていたけど、もう少し歩くことにした。標高が高く、風を遮る場所がない。吹きさらしのまま一夜を過ごすと、また寒くて眠れないかもしれない。

急遽、ミューアパスという峠を越えるため、先を歩くことを決めた。

◇ ◇ ◇

峠までは岩場をつづら折りに上がっていく。すれ違う人がほとんどおらず、わたし1人だけだった。

広大な世界にひとり。まるで、この世界に自分1人しかいないような、そんな錯覚に陥る。

植物たちも住めない世界に、わたし今いる。

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そう思ったらいつのまにか涙が出ていた。色んなことが浮かんでは消え、涙が溢れて止まらない。なんでここで泣いているの?まだ終わってもいないのに。

今日は感動が薄いと思っていたのに、感動の振り幅を超えてしまったのだろうか。涙か鼻水か分からない液体が顔を流れる。

この場所は私にとってパワーがありすぎた。ひとりでこの自然全てを受け止められる気がしない。広大な自然と向き合うには、わたしはあまりにも未熟でちっぽけだった。

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ミューアパスのパワースポット感は、更にわたしを変な気持ちにさせた。とてつもない、自然の恐怖を感じたのだ。

わたしはここにいて良いのだろうか。早くこの世界から出ないとダメだ。

午後3時。標高3500mを超えるミューアパスに到着したら、休む間もなく一気に駆け下りた。

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その後も靴擦れはおこるし、雪渓を歩くし、色んなことがおこった。午後5時半、やっとキャンプ地を見つけたら、ほっとして身体の力が抜けた。それと同時にどっと疲れが押し寄せてきた。

◇ ◇ ◇

色んな思いがやってきては消え、感情が忙しい。ネガティブもポジティブも、綺麗も恐いも、目まぐるしく変わった。

今、JMTを振り返ると、この日が1番印象に残っている。自然の美しさも恐ろしさも感じた、とある日の物語。

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