190歳のおじいちゃんが語る、セレブ家族の暴露話: 古典『大鏡』
古典って本当におもしろい!
私は現代語訳で、自分が読みやすいと思えるものを選んでハマった。研究したいとかじゃなくて、ゆるーく楽しみたい。
古典を好きになったのは、その時代の人たちが恋愛、生活、社会に思うことを素直に書き綴っているから。生活や考え方は今と全く違うけど、「心」はいつの時代も同じなんだな。
当時の人も花を見てキレイと感じ、浮気されて憎いと感じ、家族が亡くなれば悲しい。
こんな思いが、心にまっすぐ響いてくる。私も誰かの心にズドンと響く文章を書きたい、と毎日思う。そんなこんなで、気になる古典を読んでいくのが楽しい。
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貴族、藤原家の暴露話
今回は、『大鏡』を読んだ。平安時代に栄華を誇った藤原家のお話。
これが面白い!芸能人のゴシップ誌や暴露本を読んでいるみたいだ。
雅で美しい世界だと思っていたのに、実は欲や愛憎が渦巻いていたなんて…。藤原家は家族が多いし、出世のために家族と争うくらいだもんな。美しさだけではやっていけないか。
それでも、どのエピソードを読んでも全然嫌な気持ちにならない。それはきっと、語り手の思い出話みたいになっているからだと思う。
語り手は、190歳の大宅世継と180歳の夏山繁樹。カメ並みに長生きやん。そんなん可能?
この時代の話の設定、ぶっ飛んでると思う。竹から女の子が生まれて来るし(もし首切ったらホラーやん)、3700人以上の女性と関係を持った男性(元気すぎやろ)とか。
ツッコミどころはそれ以外にもあるけど、話を戻そう。
世継さんは皇族に仕え、繁樹さんは藤原家に仕えていた。2人が見聞きした華麗なる一族たちの暴露話を若者たちにしていく…という設定。
仕えていた人の話だから信ぴょう性もあって、雲の上の存在である一族の裏話は非常に興味深い。物語の中でも、30代くらいの若侍や書き手が興味津々だ。
家系図まとめ
『大鏡』には藤原家の人がいっぱい出てくるし、名前も似ている。便覧で家系図を見ていたけど、誰が誰か分からない。
道長の兄弟は、道隆、道兼、道綱と「ミチミチ」している。
てことで、『大鏡』の主要人物の家系図をまとめてみた。超簡略。もっと兄弟や子供がいるけど、ここではほんの一部。
思わず笑った、印象に残ったエピソード
🌸オナラ、最強説
現在では学問の神様と言われている菅原道真。彼は頭も良く、実力で右大臣(政界No.3)となった。一方で、道真よりは経験も学もない若者の藤原時平は、道真と同じ位の左大臣だった。格は左大臣が上になる。
さらに時平は、会議で独断で色んな物事を決めていくから、道真は時平をあまりよく思っていなかったそう。
道真「時平のやり方は強引で好きになれない。たまには私が会議の決定権を得たい!」
それを聞いた書記官は、「それなら話は簡単ですよ。私に任せて下さい」と言ったそう。道真はどういうことだと疑問を持ったけれど、書記官は「まぁ、黙って見ててくださいよ」と言う。
そして会議が始まる。
相変わらず時平は独断で色んなことを決めていく。そこに書記官が書類を渡そうと、時平の前に立った。
次の瞬間、「ブボ!ブゥ〜」という豪快なオナラをした書記官。
一瞬キョトンとした時平だったが、笑い出してもう止まらない。笑いをこらえれば、手が震えて書類も受け取れない。
「ダメだ。今日は仕事にならない。あとは右大臣(道真)にお任せする。」と、言い切らずに退席した。その結果、道真は自分の思い通りに会議を進められたのだった。めでたし、めでたし。
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時平が退席した後、この書記官は道真に向かって「ね。簡単でしょ?」と、目で言ったんじゃいないかと想像した。書記官は時平が笑い上戸と知っていたからこの行動に出て、道真の望みを叶えた。デキる奴!
オナラで笑うのも、1000年前の人も同じなんだな(オナラの音は想像で書いた)。
現代でも、仕事で時平と道真みたいな関係ってありそう。時平は仕事ができるらしいけど、家柄が良いというのもあって優遇されたのかな?
この後、時平は道真に関する悪い噂をでっち上げて左遷させる。そのせいで、道真が怨霊になったという話は穏やかじゃない。
🌸閉ざされた兼家の妻の心
この時代は一夫多妻。藤原道長のお父さんの兼家は、女好きだったそうだ。
彼の奥さんは『蜻蛉日記』を書き残した人。『蜻蛉日記』には兼家の浮気に悲しみ嫉妬して、諦め、息子を溺愛し、後に自分の人生を振り返るものらしい。
まずはネットで読んで印象に残った話。兼家の牛車が自分の家に近づいて来るのを見た奥さん。彼に会うために身支度を整えて帰りを待っていたのに、牛車は家の前を通り過ぎる。
「ああ…今日も彼はまた、別の女の家に行ったのだな。」って、切なすぎるよ。
『大鏡』では、こんなエピソードがある。
奥さんの待つ家に帰った兼家だが、門が閉まっている。何度「門を開けてくれ」と言ってもシーンとしている。
使用人から奥さんの和歌だけが渡された。
ああ…。もう切ない。外は寒く、独りで寝る布団はそれ以上に冷たいだろうな。私はこれは彼女なりの反撃だと思った。この門と同じく、奥さんの心もガッチリ閉ざされている感じがした。
この時代の女性は普段は色んなことを堪えているような印象だけど、許せない部分はハッキリ伝える。凛とした強さがあってかっこいい。
これに対して兼家の返歌は、
いや、兼家。全然奥さんの気持ち分かってへん。門が開くまでずっとそこで待っとけばいい。この後に門が開けられたのかは書かれていない。でも彼は懲りずにまた愛人の元に通うのだった。ダメだ、こりゃ。
🌸梅の木
これは『大鏡』の語り手、繁樹のお話。
彼が天皇に仕えていた頃、皇居の梅の木が枯れたそうだ。新しい梅の木を探してほしい、と命じられた繁樹。どこを探しても、天皇が気に入りそうな梅の木はない。
半ば諦めていた頃に、立派な梅の木を見つける。
一軒家の庭に生えた木だったため、その家の者に無理を言って譲ってもらうことにした。家の主人は、「これも天皇様のお屋敷に運んでください」と紙を木に結んだ。
繁樹は「これは何かあるな」と思いながら、お屋敷まで梅の木を運ぶ。天皇はこの木を気に入り、あの紙を見つける。
そこには女性の筆跡でこんな歌が記されていた。
誰が詠んだのか気になった天皇は、その家を捜させた。それがなんと、大歌人・紀貫之の娘の家だった。
それを知った天皇は、自分の風流のなさを恥じて「申し訳ないことをした」と照れ笑いしたそう。
鶯のことを心配して、鶯の気持ちになる女性の心の美しさにほっこりした。この梅の木を見る度に天皇も、繁樹さんも、その和歌を思い出したかもしれない。そうだとしたら、ただの木も大事にしたくなる。
何だろうな。言葉で表現しきれないんだけど、クスッとするエピソードだった。
さいご
『大鏡』を読んでいると、私も世継と繁樹の話を近くで聞いているような気分だった。物語に引き込まれて、笑ったり、苦しくなったり、感心したりと、楽しい読書体験だった。
あと、便覧がいいお供になった。しおりを挟まずとも、藤原家系図のページは勝手に開くようになった。歴史や古典にハマってから、今や便覧をファッション雑誌の感覚で見ている。
次は『蜻蛉日記』と『伊勢物語』を読んでみようかな。
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