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小説

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シュガーライン

シュガーライン

アイちゃん

 お昼に食べたメロンパンが血液に溶け出して身体中を巡っている。砂糖が私を侵蝕していき、最終的には“神宮司アイの砂糖漬け”が出来上がるわけ、なの、だ。
 心にもないことを言って見せる。
 「かあいくなりたい」
 もう十分可愛いじゃん。ここまでがセットである。
 私は可愛い。可愛いって言われても何も思わない程度に私は可愛い。それどころか、可愛いと言われるのが苦痛になってきていた。欲しくも

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gift【小説】

gift【小説】

 限界だ。よくここまで我慢した。頭がおかしくなってしまいそうなのは決して夏の暑さだけが原因ではない。

大丈夫だ、もう流石にいいはずだ。どんな漫画だって、どんな小説だって、ここまでされたキャラクターに同情しない読者はいない。口では“どんな理由があってもしていいことではない”とか言っているけど、美学を語っているにすぎない、だから嫌悪とか憎悪は発生しない。

 大丈夫、僕はもう十分可哀想だ。

 だか

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黒猫怪奇譚〜紡ぎの章〜

黒猫怪奇譚〜紡ぎの章〜

黒猫みー太の苦悶みー太

 ある日、私は青白い靄に包まれたブヨブヨの生き物によって四角い壁から連れ去られた。空の低く空気の流れがゆっくりした空間に私を連れてくると、白く濃い液体を私に差し出した。その液体はまるで生命の塊のようで弱っていた私の魂を癒した。
 おかげで、ぼんやりしていた私の視界が鮮明になっていく。ブヨブヨだと思っていた生き物は毛が少ないだけで然程ブヨブヨはしていなかった。
 「ギビバギ

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小説『ずっとモノローグ』

小説『ずっとモノローグ』


 5人のカラフルな彼らに勧められて、人生を逆走してみることにしました。
 タイムリープではなく一歩づつ過去に向かって逆走するのです。僕は帰り道を逆走して会社に向かう事にしました。会社に着くともちろん真っ暗で誰もおらず、仕方がないので出勤を逆走しようと思った時にはもう終電がありませんでした。
 どうしたものかと思っていたら大学の友人から電話があり、今からオールでカラオケでもしないかという誘いをい

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小説『ドブネズミの歌』

小説『ドブネズミの歌』


 アオイとの出会いは一昨日の月曜日、深夜の池袋、風俗街のすぐ近くの公園に暗い顔をして座っているアオイに俺が声をかけたのが始まりだった。
 退屈が怖くて一人で酔っ払っていた俺はいっそのこと未成年でも買ってみようかと思って声をかけたら随分あっさりとホテルまで行くことが出来てしまった。正直、不安と恐怖で勃ってすらいなかったが後にも引けず、一緒にシャワーでも浴びようとアオイを脱がす。
 裸になったアオ

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小説『私たちは元気です』

小説『私たちは元気です』

 拝啓、お母さん。あなたが亡くなってから一ヶ月立ちました。
 外ではお母さんの嫌いなアブラゼミがうるさく鳴いています。私はうるさく思うのですが、れいちゃんは心地よさそうに目を閉じて耳をすませます。

 れいちゃんは私と一緒に暮らしています。苦労も多いですが二人で何とかやっています。小説を書くことも続けています。夢を諦めずに日々精進していきます。それから、他に何か、、、とにかく、私たちは元気です。

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小説『コノオト』

小説『コノオト』

 関節に不快感を飼っている。その日は夕方に起きた。罪悪感と謎の開放感せいで俺は街へ出たくなった。財布と携帯だけ持って街へ繰り出す。しかし、当然何かすることもなく無意味に足に疲労を貯めることになる。満たされない、そんなこと毎日思ってはやり過ごしていることなのにこの日だけはどうしても満たされたかった。そんな俺の目に派手な電飾看板が目に入る。自動ドアが開くと音の波が心地よく皮膚を刺激する。カオルに行かな

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