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「稼がない」ことを考える

2019年の遠征費用

2019年春。私は素人の若者たち12名を率いて、カナダ北極圏600kmの徒歩遠征を行った。

2000年に私自身が初めての北極行(どころか初めての海外旅行、初めてのアウトドア)で、冒険家大場満郎さんの企画した若者たちを連れての北極圏700km徒歩遠征に参加したことが私の冒険の始まりだった。それから約20年が経ち、次は私が若者たちを連れて行こうと計画したのが、昨年の「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」だった。

この北極行は「ツアー旅行」ではなく、あくまでも「遠征」だ。リスクもあるし、参加の若者たちの家族への説明会なども行った。

若者たちの参加費用は、一人の負担が80万円ほどだった。使用する装備やウェア類などは、すべて私で人数分揃え、それを彼らが使用したため若者たちが自身で用意するものは特にない(装備類は、遠征後に私の手元に返却)

と人に話すと「それで一人80万円って、安くないですか?それで行けるんですね」と言われることもある。装備をゼロから人数分すべて揃えて、カナダ北極圏の遠征を一ヶ月行えば、どうやっても一人80万円では収まらない。この80万円は、一人にかかる現地までの往復の飛行機代、保険加入、宿泊代などの最低限の費用だ。それ以外に必要な装備代、食料代、通信費、輸送費、などなどなどなどの一切は、私が人数分を工面した。単純に、一人にかかる費用はおそらく総額で150万円ほどにはなるはずだ。つまり、一人当たり70万円を12名分(プラス同行した友人のカメラマンの全費用とギャラ、私自身の飛行機代など)で、1000万円ほど私で工面したことになる。

この1000万円のうち、700万円ほどは協賛企業からの費用で賄ったが、残り300万円は私自身の自費を使用した。

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この時は、集めようと思えば1000万円を協賛で集めることは、全く難しいことではなかった。

言ってしまえば、1000万円必要なところを協賛で1500万円集めて、私の懐に500万円入れることも、やろうと思えばできた。それ以前の南極点や北極点の時には、それぞれ2000万円ほどを集めているので、難しい話ではない。

でも、私はあえて700万円で集めるのを止めて、300万円は自費を出すつもりでいた。

私は若者たちのガイドさんではない。添乗員でもない。若者たちは、私のお客さんではない。あくまでも、同じ冒険を行う仲間であり、私は経験者として彼らの最低限の安全を守る隊長である。

大学生やフリーター、新米サラリーマンなどの20代(最年少は19歳の大学生)の若者たちにとって、80万円の壁は高い。彼らも様々な手段で、その費用を工面して参加してきているはずだ。

であれば、私自身も自分自身の資金を費やして冒険に臨まないと、筋が違うのではないかと私は思った。

ここで私がセコいスケベ根性を出して、多めに協賛を集めて「いやー、今回の遠征は儲かったな、ウヒヒヒ」なんてことをやると、確実に冒険の質が落ちる。若者たちが必死に資金を集めて参加してきている、その気持ちに報いることができない。彼らが本気で参加してきているのであれば、私も本気になる必要があると思った。

資金を集めるために、金から離れる

私は2008年に、出身地の神奈川県から北海道の鷹栖町というところに移住した。

ちょうど、次の目標として「北極点挑戦」を視野に入れ始めた頃だった。

2012年に実際に北極点挑戦を実行するのだが、それには高額な飛行機のチャーター料などを含めた2000万円ほどの資金がかかる。

私は北極点挑戦以前、イヌイットの集落を繋いで歩く冒険を主体に行い、集落に飛ぶ定期便の小さな飛行機を利用することで現地の渡航費を抑えていた。その頃の遠征費は、一回に100〜200万円ほどで、それはすべて、アルバイトを掛け持ちして工面した自費のみで10年ほど冒険活動を行なった。

全く無人の世界での活動となる北極点挑戦には、移動に飛行機チャーターが必要となるため、どうしても高額になるのだ。

北極点を視野に入れ始めた頃から、私自身の次の活動フェーズとして「スポンサー」を集めようと動き始めた。

ちょうどその頃に、神奈川県から北海道に移住した。しかも、旭川市の郊外にある鷹栖町という田んぼばかりが広がる、私は全く縁もゆかりもない、友人が一人だけ住んでいて以前から遊びに時々行っていたという、細い関係性の小さな町だった。

私は、冒険に必要な資金をこれから集めるために、全くお金の匂いがしない北海道の田舎町に引っ越した。

私はお金が欲しいわけじゃなかった。いや、人並みにお金は欲しいけども、必要な冒険資金を集めたいだけなのだ。普通に考えれば、首都圏にいた方がスポンサー集めにはより有利な気がする。私もそう思う。しかし、これからお金を集めるためにお金が存在している近くに居続けてしまうと、本当に「お金を追い続けてしまう」ような危機感があった。

もちろん、北海道に来たらお金が集まる勝算があったわけではない。全くない。でも結果的には、北海道に来て大正解だった。北海道にいたからこそ、2012年と2014年の北極点挑戦、2017年の南極点が実現したと思っている。

お金は必要だから、必要なだけ集め、必要なだけ使う。それが私の中では正しい集め方と使い方だと思っている。

最近では、講演などに声掛けしていただくことも多い。そんな時には、しっかりと講演料は頂く。それも、対象によって様々だが。出していただけるところからはしっかりと出していただき、それをまた若者たちを連れて行ったり、新しい活動の資金としている。

なんでもっと、スマートに、変な意地を張らずにやれないものかと思うこともあるが、そこでスケベ根性を出して「お金を追いかけて」しまえば、きっとこれまで私を信用してきてくれた人たちを失望させてしまうだろう。

で、結局、そこに嘘をつかずにやることが、結局のところ「稼ぐ」ための近道なんじゃないかという気もしている。

本など買っていただくと、すごーーく助かります。結局宣伝か!笑

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