SUZUROはオリジナルの楽曲に「物語」を合わせて一つの作品としています。
楽曲と合わせて、オリジナルの短編小説もお楽しみください。



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【物語】madoromi(色の見えるあの子の物語)


あたりには夜の帳が落ち、私は一人、暗い森の中にいる。
空を見上げるとそこには無数の星たちがきらめき、真っ青な世界が広がっていた。
暗い森の中、聞こえるのは虫たちの鳴き声や小川の流れる音、鳥のさえずりだけだ。
この世界に一人だけ、私はそんな気分になって、とても心地が良かった。

私は世界に広がる「音」が見える。
音が聞こえるのではなく、“見える”のだ。
走る車のエンジン音、歩く人々の靴音、降りしきる雨の音。
その全てが色となって、私の目に映る。
車が走る音はかすれたような鈍い灰色。
電車で会話する若者の声は黄色とオレンジを混ぜ合わせたようなよく伸びる色。
鳴り響く電話の音はチクチクと尖ったような真っ赤な色。
私にはその全てが見えている。

他の人にはその色たちが見えていないと知ったとき、ものすごく驚いたのを覚えている。
自分にとって見えていたものが、他の人にとっては当たり前ではなかったこと。
自分の生きる世界は、他のすべての人にとって普通ではなかったのだ。
それに気づいた私はある日街に出て、目の前に流れる薄汚れた色たちをなんとかして消し去りたくて、その色を手でかき分けてみた。
でもその音たちは消えることなくその場に漂い、私の行く手を邪魔していた。
周りの人たちが、空中をかき分ける私を、怪訝な顔で見ていたっけ。

目を塞ぎたくなるような色の螺旋の中で、私は生きていた。
この世界にはあまりに多くの音があふれ、その全てが私を取り巻く。
都会では目の前が見えなくなるほど、無数の色に覆われる。
人々の話す声、店内に流れるBGM、電車の走る音、泣き喚く子どもの声、けたたましく響くテレビの音。
その全てが私の周りに漂い、私の行く手を阻む。
この世界が、あまりに多くの音で溢れていることを、知っていただろうか?
そんなふうに、音が色となって見える世界を、想像したことがあるだろうか?
私にとってこの世界は、あまりにうるさ過ぎる。

私のこの症状は、生まれた時からずっと変わっていない。
田舎町で生まれ育った子供時代の私にとって、目に見える音たちはどれも美しいものばかりだった。
さらさらと揺れる葉の音、近くを流れる小川の音、心地よく吹く風の音。
どれも、澄んだ美しい色をしていた。
私はよく一人で外に出て、森の奥まで歩いていった。
森の中には美しい色が溢れていた。
囁くように鳴く鳥の声は澄んだ薄緑色。
頬を撫でる風は優しく淡い白い色。
落ち葉を踏む私の靴音は、楽しそうな黄色。
幼い私は、その全てに見惚れていた。

高校生くらいの時、初めて都会に来て私は知った。
この世界には、こんなにも汚い色があったのだと。
人々は皆、その薄汚れた音の中を何食わぬ顔で歩いていく。
その光景が恐ろしくて、頭が痛くなり、私は都会の真ん中で座り込んだ。
呼吸を整えることもできず、ハアハアと息を荒げる。
これまでにないくらい強く、早く、心臓が鼓動する。
頭がグラグラと回り出して、何も考えられなくなった。
そのまま私その場に倒れ、そして、次第に気を失っていった。
何人か立ち止まって私を見下ろしていたけど、誰からも、優しげな音は聞こえなかった。
意識が遠のく中で一瞬だけ、倒れた私の頬を撫でた優しい風の色を見た気がした。

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あたりはすっかりと闇に包まれ、私は一人、暗い森の中にいる。
暗い森の中だけど、前を見ればそこには美しい色が広がっている。
ここには、綺麗な色しかない。
しばらく薄汚れた音の中で生きてきた私にとって、その光景はあまりに美しかった。
子供の頃に当たり前だった世界は、私の中でいつの間にか、終わりを迎えていた。
誰かの口から吹き出すトゲのついた灰色、ガヤガヤと鳴り響くCMから出てくる灰色とオレンジを混ぜたような色。
その全てが私には見えていたが、私はそれを必死に見ないようにしていた。
それを全て認識してしまったら、その瞬間、この世界は私にとってあまりに窮屈で、汚いものになってしまうから。

私が都会を歩くと、目の前にある無数の汚れた色たちは、私に押しのけられて、そのまま空間を漂う。
だから私はいつも歩きにくい、窮屈な思いをしていた。
目の前に、堅い物体がいくつも浮かんでいる光景を想像してくれればいい。
それを押しのけるように、私は歩き続けていた。

この森にあるあらゆる音は、私が歩くと形を変え、美しい色で私の周りを漂う。
邪魔だと思うことは一度もなかった。
それどころか、その色の中に溶け込んでしまいたい、そう思いながら私は森を歩き続けた。
歩いているうちに湖が見えてきた。
夜空の青さが水面に反射している。
湖からは揺れる波の真っ青な音が溢れてきていた。
私は湖のそばまで歩いていって、近くに生えていた木にもたれるように座り込んだ。

私たちは荒れ狂う音の螺旋に、囚われ続けている。
目を開けばそこにはあまりに多くの薄汚れた色が漂っていて、私たちの行く手を阻んでいる。
それに気づかないように、私たちはいつも目を覆い隠している。
それに気づいた瞬間、自分の世界が汚れていたことに気付いてしまう気付いているから。


私は目を閉じた。
それでも私には、美しい色の数々が見えていた。
真っ暗な世界に絵具を塗るように、様々な美しい色が重なっていく。
あとどれくらい、この美しい世界を泳いでいけるのだろうか。

私はまどろみ、深く美しい世界へと落ちていった。



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