川崎ブレイブサンダースPICKFIVEにみるスポーツとファンエンゲージメントが描くブロックチェーンの未来
NFTカードゲーム「PICKFIVE(ピックファイブ)」試験提供
先日、PICKFIVEというブロックチェーンゲームを試験提供という形でローンチしました。
この施策の中では、ブロックチェーンを特別なものとして感じさせない事が一つの重要なポイントでしたが、多くのファンの方に利用していただき、ブロックチェーンという要素技術が日常に溶け込むことができたのではないかと思います。テレビ東京系列の経済ニュース「ワールドビジネスサテライト(WBS)」の中でも、NFTの特集の中でPICKFIVEを紹介していただきました。
さて、PICKFIVEの中で実現したように、選手や選手のスタッツデータをNFTという形でエンタメコンテンツとして利用するような方法は、今後も多くの事例が登場するのではないかと思っています。しかしながら、スポーツにおけるブロックチェーンコンテンツの可能性という意味では、その中のほんの一部の利用方法であると考えています。今回は、ブロックチェーンとスポーツという観点から、ブロックチェーンの描く未来を考えてみたいと思います。(あくまで一般論としての話で、PICKFIVEの今後の開発とは一切関係ありませんのでご注意ください。)
他者との繋がりとしてのNFTの価値
NBATopショットの注目や、欧州サッカーのSorareや、ファントークンchilizなどNFTの注目が高まっています。NBAトップショットをはじめ、NFTについては過去記事で何度か書いていますので、ここでは触れませんが、多様種の繋がりの価値観を交換するためには、当然のその価値を異なる枠組み間で定量的に測ることは非常に重要です。
二次流通などで需要と供給によって、その価値が高まることが、NFTが非常に注目されている理由でもありますが、実はよくよく考えると、これらの需要と供給の流動性を担保することは非常に難易度の高いことがわかります。企業の株式などをイメージしていただきたいのですが、株価が上昇下降するのは、世の中の経済が常に活発に動き、さらには、企業の決算発表などの各種イベントによって、流動性が高まることで株式が売買されているからです。ゲームなどのデジタルアイテムの場合、よほど売買を促進するようなイベントや企画がなければ、保有している人が、わざわざマーケットで、アイテムを売買する理由はありません。一方でスポーツの場合は、バスケットであれば年間60試合以上、野球であれば、年間に135試合以上の試合というイベントが行われます。また多くのスポーツではドラフトが行われ、毎年新しい選手が入ってきます。流動性という観点から考えたときに、スポーツは非常に良いコンテンツであると言えます。他にも、スポーツの世界はチャリティなどの施策と非常に密接に繋がりがあり、一点もののファングッズなどを高額に取り扱われることが当たり前に行われてきたという背景もあります。NIKEがリアルな靴と連動するCryptoKicksと言われるブロックチェーンの特許を提出していますが、フィジカルとデジタルを紐づける動きも活発に行われています。
このような事例からスポーツとNFTというものが「流動性」という観点では、ますます相性の良いコンテンツに思えてくるのではないでしょうか。
スポーツギフティングやベッティングなど応援としての価値
NFTを使った仕組みは、ブロックチェーンの世界ではギャンブルとしても利用されています。日本ではギャンブル利用は著しく制限されていますが、ブロックチェーンを用いたアプリケーションの事例としては、運用者のいない公平性の担保される仕組みであることから、ギャンブルは非常に有用なユースケースの一つといえます。私の過去記事で、ブロックチェーンを用いた未来予測市場や、保険、デリバティブに関して書いた記事があるので、どのようにして公平性の担保にブロックチェーンが使われているのかぜひ参考にしてみてください。
話をスポーツに戻します。米国では、2018年半ばに最高裁判所がスポーツギャンブルを禁止する連邦法を取り下げて以来、多くの州でスポーツベッティングを合法化しています。日本でもギャンブルではありませんが、スポーツ振興くじという形で、2000頃からTotoくじなどスタートさせましたが、改正スポーツ振興投票法などによって2022年にバスケットボールでも販売が始まる見通しです。ただの賭け事ではなく応援という文脈になることがスポーツでは非常に重要です。自分が好きなチームが仮に弱小チームだったとしても、ファンは自分のお気に入りのチームに賭けます。このことを「応援Bet」と呼びます。応援される側も、賭け金の一定の金額を受け取る仕組みがあるため、実際に金銭的に応援していることになるわけです。応援しているチームや選手に対して応援としてベットを行い、好きなチームが勝ち、報酬(リワード)をもらえるというのはスポーツベッティングの醍醐味であるのではないでしょうか。
応援の部分に主軸をもたせたものが、「スポーツギフティング」と呼ばれるいわゆる投げ銭です。投げ銭はいまではYouTubeのスパチャ(Super Chat)をはじめ、最近ではTwitterやClubhouseなどにも導入されるなど、非常にメジャーなマネタイズコンテンツになりました。日本のプロ野球でも投げ銭の施策が実施され、非常に注目を浴びましたが、NFTはこのような投げ銭の仕組みにも応用できます。スタンプのような様々な種類の投げ銭を作ることもできますし、誰がどの数量の投げ銭を行なったか履歴を追うこともでき、透明性があります。また今のご時世、スポーツの中継一つをとってもユーザーは様々なプラットフォームのなかで観戦を行なっていますが、ウォレットの仕組みを使えば、どのプラットフォームを使っているユーザーでも一つのウォレットからギフティングを行うことができるかもしれません。
NextGenStatsなどデータのトレーサビリティの価値
IOT機器などで集めた膨大なデータの二次利用は、AIなどへの活用の文脈で非常に注目されています。一度チェーンにとりためたデータは改ざんの可能性がないことから、利用者は、安心してデータを利用することができます。スポーツの分野も試合における膨大に取り溜めたデータをいかに活用できるかという点も非常に重要です。NFLなどを始め導入されているNextGenSatsでは、スタジアム全体に設置されたセンサーと、プレイヤーの肩パッドに配置されたRFIDタグによって、リアルタイムに、インチ単位で個々の動きを記録して情報を集めています。それらのデータは、AIなどの解析を経て、試合中に、プレーヤーとコーチがパフォーマンスについてのフィードバックを交わすことや、練習時の仮想試合のシミュレーションや分析としても役立ちます。他にもレフェリーにとって、微妙な判定の中で、センサーを活かすことによって正確に判断を下すことや、不測の事故が起きた場合にも、脳震盪の可能性などを医療スタッフにいち早く情報を伝えることなどヘルスケアとしても非常に重要な役目を果たします。PICKFIVEやSorareでは、スタッツ情報をエンタメとして活用していますが、このような活用方法によってこれまで作ることのできなかった楽しみをコンテンツを作成することができます。
XConnectedBasketballのように、コートのさまざまな部分でボールがどれだけ効率的にショットされたかを追跡しデータを集めるようなソリューションがあります。https://iot.eetimes.com/sports-iot-how-athletes-are-integrating-iot/
これらの情報をいかに正確に吸い上げ、二次利用などの様々なアプリケーションに接続させていくかというの点においてブロックチェーンは非常に強力なツールであると思います。
クラブ運用の投票や権利としての価値
スポーツの場合は、その多くがホームタウンを持っており、地域と深い関係を持っており、時にその関係は家族であると例えられます。クラブの運営方針についても、家族であるファンの意見は非常に重要で、クラブ運営の投票としての活用方法もブロックチェーンの活用は期待されます。先月、マンチェスターユナイテッドのファン、約20人がトレーニンググラウンドへの入り口をブロックし、「51%MUFC20」と書かれたバナーでポーズを取っている写真がニュースとなりました。
ブロックチェーンの世界でも合議制の問題として、51%という数字はよく登場します。主に51%攻撃と言われ、悪意のあるマイナーが全体の51%以上の計算能力を持ってしまうことを指しますが、現実世界でも合議制のケースでは過半数を超える51%が非常に重要な意味となります、マンチェスターユナイテッド2005年のグレーザー家の買収以来たびたびこのような抗議活動がおきているそうですが、今回のケースでは、スーパーリーグが発表されたことが主な原因でした。結果として、ジョエル・グレーザーはファンにオープンレターを書いて、リーグ形成の決定に誤りがあったことを認めています。
このニュース自体は、ブロックチェーンのテクノロジーとは直接関係はありませんが、ブロックチェーンは、証券のような権利を形にするといった利用方法としても使われてきました。クラブ運営の意思決定に対してNFTの保有量などを通じて、透明性のある決定を下すようなこともできるようになるのではないかと思います。
Conclusion
スポーツ観戦の体験は、様々な"繋がり"からできています。試合の中身はそっちのけで、球場にビールを飲みにいくというような人は私以外にも多くいらっしゃると思います。今、まさにコロナの中で、部屋でスポーツをテレビ観戦をしているとき、どうしても、試合と自分という直線的な関係になりがちですが、本来は、お気に入りのフードやグッズでの観戦、友達を誘い合って日付を決め、チケットを購入すること、バックネット裏で肩を組みあって声援を送ること、SNSに写真や動画を投稿すること、など様々な体験が組み合わされ、スポーツ観戦の楽しみを彩っていたことに、改めて気付かされます。ブロックチェーンの世界では、このような多様種の繋がりの価値観を交換することをInteroperabilityという言葉で表現しますが、様々な価値をごった煮にして、繋がりあうことこそがブロックチェーンで作るプロダクトの大きな特徴であると考えています。以前にもキッチンOSなどのプロトコルにおいて、レシピと家電が接続する新しいプロダクトが生まれたことを紹介しましたが、
このことは、全く異なる分野プロダクトが繋がりを持って、これまでになかった新しい発想が生まれる可能性があることを示唆しています。スポーツとのシナジーは、ゲーム、スマートシティ、食品、ヘルスケアにあるかもしれませんし、または、我々が思ってもいなかった全く異なる分野、農業とか、宇宙とか、そういうものであるかもしれません。ブロックチェーンが新しい繋がりの潤滑油として生かされると面白いと思います。技術的な観点でのアプローチの話題は、DeNAのEngineerBlogにて書いておりますので、こちらもご参照ください。