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オガワヒカリ
2022年3月10日 01:02
「ちょっと抱きしめてもらってもいい?」「は?」 上司と二人っきりのオフィスに、響く甘い声。「どうして抱きしめないといけないのでしょうか」 私はおずおずと尋ねた。 すると上司は眉間に皺を寄せて、ひとしきり考え込んだあと、やはり両腕を広げて「島田! 抱きしめてくれ!」と叫んだ。「だからどうして抱きしめないといけないのですか!」「新商品のためだ!」 この上司――木島
2022年3月8日 03:25
「随分と古いCDなんだね」 彼が差し出したそれは、随分と埃が被っていた。 プラスチックが変色している。それだけ時間が経っていたのだ。 もうすぐこの街ともお別れ。 私たちは次の住処(すみか)に旅立つための準備をしているところだった。 夫となる彼が私に渡してくれたCDは、十数年前によく聴いていたもの。「そうだね」 私は、何とも言えない気持ちでその藍色のジャケットとパッケージを見
2022年3月6日 00:59
――君へ。 君がこの部屋を出ていって、随分と経ちました。 君と一緒に選んだソファに座って、この手紙を書いています。 出す宛もないけれど。 今でも、このソファで君が僕に微笑みかけてくれている気がします。 僕の隣で、小さく小さく丸まって眠っていた君の寝顔を思い出しては、懐かしさと、やるせなさに包まれています。 時計の針が何度も回り、数え切れぬ夜を過ごしたけれど、君を忘れることができま