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スタートアップ企業の作り方って?相談にのる時に使う資料を公開【第2回】投資ステージ別のVCチェックポイント

伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)小川です。今回第2回は「事業計画を作りVCやエンジェルなど投資家に相談したい、社内で新規事業であげていきたい等々、どうしようか迷っている人たち」向けにヒントになるよう「投資ステージ別にVCがざっくりどこをチェックするか基礎的なところ」を公開しています。前回はスタートアップのチーム作り・アイデア出しから検証までのステップをざっくり公開しましたが、今回は、そもそもスタートアップ企業がどの段階まで進展しておく必要があるか、VCはどこを見ているかをお話します。今回は中でも特にSeedとSeriesAについて基礎的な内容を解説していきます。尚、VCからの投資だけでなく、社内新規事業として挙げていくことを考えている人たちにも参考になる内容だと思います。先人・賢人たちの内容をマッシュアップした内容ですので、そんな事知ってるわい!という方も多いかと思いますが、頭の体操として参考にして下さい!今回のような内容についても相談に乗りますので、何かありましたらお気軽にご連絡ください!
↓下記がまとめのパワポです。

図2001

■1.Seed投資時のVCの主要チェックポイント

上記パワポの左から二番目のオレンジの個所ですが、Seed(PreA/Pre Series Aとも言う)の資金調達の目的は、Productの作成とPMF達成(Product Market Fit/顧客・市場が欲しがる製品を作れたか)です。
このSeed投資時にVCが審査時に見るポイントとしては、
Team、市場の良さ
PSF達成(Problem Solution Fit/顧客の課題に対して正しい解決策を提供できるか)しているか、
Pre-MVP(事前のMinimum Viable Product/実用最小限の製品、プロトタイプのこと。普通は次のPMF/Product Market Fitのプロセスに入るが敢えて切り出してここでは定義した)に着手してある程度検証しているか、
④調達後に目指す目標であるPMF(Product Market Fit)への道筋が見えているか、
⑤VCから見て投資倍率が10倍以上を望めるか 等です
(尚、個別案件ごとVCごとに見方はケースバイケースですので、あくまで典型的な一例です)
尚、投資判断する際にも、上記PSF等の達成に加えて、当然総合的な3C分析、市場と競合と自社(Team/組織づくり、Vision、事業戦略/Strategy、Product、PL、KPI、Milestome、Issue)といったものも含めて全体を判断していますので、念のため。

■2.Seed時のPSFまでの検証方法

上記を見て、え?PSF達成とかPMFの見通しとかどうやって?と思った方。その通りです。このSeed時点で、「PSFを達成したか」方法と検証は難しく、「PMFまでに何をやれば良いか道筋を見通せる」ことはほとんど至難の業(海外の模倣ビジネスや三番手ビジネスなどは見通しがきくこともある)だというのはもちろん実態ですがそこをみんな工夫しやり方はいくつかあります。そのうちの一例は、前回note記事後半でご説明した■CPF(Customer Problem Fit)、PSF(Problem Solution Fit)でのユーザーヒアリングの考え方(例)で、まずはスタートアップのチーム内で、ユーザーヒアリングを徹底して顧客の課題・問題の洗い出しと想定している解決策/プロトタイプPre-MVPを検証し、同時に競合分析(下記後述)と想定している市場規模と売上をフェルミ推定していくプロセスをいくつかのアイデアで何度も回していくと、選んだ市場とアイデアのスジが良ければ全体のストーリーや筋道が見えてくると思います。それが見えてこなければ別のアイデアを回すべきでしょう。

図16

■3.「競合の時系列データ分析」はお勧め PSF、PMF、その後の成長のざっくり勘所がわかる

↓下記はSlackの事例。

図2006

↓下記はZOOMの事例。

図2007

今回追加でご紹介するのは上記の「競合の時系列データ分析」で競合分析のやり方のひとつで、日本のVCの教科書などにはあまり載っていないようですが、米国では一般的な企業分析の基礎方法でありお勧めの方法です。これは時系列で会社設立から現在に至るまでの主要データを分析して「いつ、どうやってPSFやPMFを達成しているか、その時のKPIはそれぞれいくらだったか、その後の成長はどういうスピードで、どのくらいまでイケるのか」というざっくりと「勝ち筋の時系列パターン」の勘所を抑えてしまうのが目的です。調べているのは、時系列の①資金調達金額、時価総額、②PL項目(売上、利益)③顧客関連データ(無料、有料顧客数等)、④KPI(DAU、売上/有料ユーザー、CAC等の主要KPI)などを分析しています。指数関数的に伸び始めた分岐点となったタイミングがどこで、どんな背景や施策があったのかがわかります。勿論slackやZOOMなのでこの場合米国の市場の話ですから、市場規模や市場の動きを考慮して日本に置き換えた時にどうなりそうか割り引いて勘案した上で議論しました。

尚、この上記分析の結果、VCも投資判断として有益なデータが得られるのでで言及しておきます。VCの投資判断の種明かし/秘伝のレシピ、米国でよく行われる手法で僕やITVのチームで良くやる手法ですが、競合企業の該当する投資ステージ(例えばSeries A)時点まで遡ったその時点での時価総額やKPIを元に
・競合企業の「時価総額」÷競合企業の「KPI」
 =競合企業の「KPI当たりの時価総額」
を計算し米国企業であれば日本市場に置き換えてディスカウントした上で、審査する会社のKPIを掛けて、「投資検討企業の想定時価総額」を弾きます。
・競合企業「KPI当たりの時価総額」×日米ディスカウント等
 ×投資検討企業KPI=「投資検討企業の想定時価総額」
これによって、投資検討企業の時価総額が、先行する米国市場に比べても高いのか安いのか妥当なのか初期的に一発でわかるので重宝します。日本だと知らずに悪気も無くなんとなくとても高い株価を付けてくる会社もあるのですが、そんな時にはこの分析を教えてあげると「グローバル目線だとこうなんだな」と納得される方が多く、起業家側の株価の自己検証方法としても使えると思います。

■4.チーム内議論用チェックシート/SeedステージPMF前(例)

上記のようなユーザーヒアリングや競合分析を通して得た情報を元に、一旦俯瞰的にチーム内で議論しておかないと、どこにいて、何が問題なのかわからなくなり、近視眼的になります。また一方で、VCが良く聞くのは、「PSFは達成したのか」「PMFは何か。見通しは何か」「それはどういうヒアリングや考え方でその結論に至ったのか」などですので、事業計画作成前に、論定を洗い出してVC対策というためにも整理しておくのは極めて有効です。下記の資料は、そんな起業家チームのための、議論用シートの一例です。チーム内で下記のフォーマットでエクセルかパワポ、ホワイトボードで手書きなどでブレストする時に使うと良いと思います。

図8001

■5.Series A投資時のVCの主要チェックポイント

図2001

上記パワポの赤い個所ですが、SeriesAの資金調達の目的は、スケールするビジネスの基盤作り、次につながる急成長のトラックレコード/販売実績達成です。
VCが審査時に見るポイントとしては、
①創業メンバーも含めて全体で良いTeamになっているか、
PMF達成(Product Market Fit/顧客・市場が欲しがる製品を作れたか)しているか、
③調達後に目指す目標である売上のスケールアップ達成への道筋が見えているか、
④PMFしていたとしても市場が本当にスケールする成長が見込める市場か/PMS(Product-Market Scale)の検証、
⑤VCから見て投資倍率が10倍以上を望めるか
(尚、個別案件ごとVCごとに見方はケースバイケースですので、あくまで典型的な一例です)
尚、投資判断する際にも、上記PMF等の達成に加えて、当然総合的な3C分析、市場と競合と自社(Team/組織づくり、Vision、事業戦略/Strategy、Product、PL、KPI、Milestome、Issue)といったものも含めて全体を判断していますので、念のため。

■6.PMFの留意点

PSF、PMFとか色々出てきたけど、実際どうやって判断しているか、基準はあるのか疑問に思う方が多いと思います。現場でも特に議論になるのはPMFの方法や基準、その判断です。日米で滅茶苦茶たくさん先人・賢人たちの解説が出ているので細かいところは色々参照して頂くとして、起業家やVCもこのリーンスタートアップ的なPMFに至るまでのプロセスは米国を中心に世界標準なので試行錯誤で日々アップデートして学んでいくべきだと思います。

■色々みんな取り上げているのですが、ちょっと古いけど改めて幅広い層に逆説的な警句として興味深く読めるものとしてお勧めなのは、米国トップVCのひとつ
「Andreessen Horowitz」の「12 Things about Product-Market Fit」


本文もそうですが、脚注に米国の賢人たちの記事引用が集結していて読みものとしても面白いです。本文ではポイントが#①~⑫章ありますが、実は繰り返し同じことを言っていてまとめると下記です。
#①②④何よりも市場が大事。人よりプロダクトより何より、巨大なマーケットが一番大事であることを繰り返し説いていて、PMFしても市場がしょぼければダメだと。市場がスケールすることが大事。市場、市場
#③⑧科学よりもArtに近く画一的な基準やプロセスはなく、起業家自身の地道な継続的な作って効果測定して学んでという一連のプロセス(a series of build-measure-learn iterations)から生まれるもの
#⑤顧客満足度調査の一種であるNPS(Net Promoter Score)は良いツールで40以上だったらかなり良いといえるけど、結局実際に購買してくれた人のフィードバックほど正確ではない。購買という投票ほど大事なものはない
#⑥PMFの一番の悲劇は、PMFしていないのにPMFしたと思っている起業家が多いこと
#⑦市場へ一番乗りは大事ではない。PMFの一番乗りは、いつも長期戦を戦った企業だ。Google,Facebookしかり。
#⑨プロダクトを正しくすることがPMFを見つけることであり、プロダクトをローンチすることではない。PMFは、市場がプロダクトを受け入れもっと欲しくなるポイントに到達すること。
#⑨早すぎる売り上げ拡大策“premature scaling”は命取り。起業家が思っているよりも2-3倍も手間がかかる。
#⑩PMF前に顧客が望まない新機能など製品を強化しない。ドツボに嵌る
#⑪PMF前の採用は成長を鈍化させ、PMF後の採用が成長を加速する。PMF前は、お金を使わずにできる限り生き延びて、できる限り素早くイテレーションすること。Andreessen自身が、before product/market fit (what he calls BPMF) and after product/market fit (APMF)を定義していて、BPMFではしつこくPMFにフォーカスしろと。
#⑫FMF(Founder-Market Fit/取り組む市場と起業家の特性や経験・やりたいことがマッチしていること)が大事。VCは、これからPMFを目指す会社よりも既にPMFしている会社に投資したがる。VCは投資したら起業家に重量挙げをさせる様なプレッシャーをかけることになるが、このプレッシャーに対峙するためにも、自分は起業して、なぜ、どの市場で何をやるのかを慎重に考えた方が良い。

■雑感:最後に老婆心ながら、こういった米国の洋物ノウハウの輸入に弱い我々は、Lean Startup的なPMFまでのステップを絶対的な教科書的に捉えて、KPIやユニットエコノミクスの定義や改善クリアすることだけに気を取られないで、会社全体を見渡して運営すべきですね。Lean Startupは日本の製造業のノウハウである、Kaizen/改善と擦り合わせとほぼ同じですし、我々も何でも鵜呑みにしないで日本人としても自信をもって取り組む気概が必要ですよね。但し、PMF必達の道は米国ではスタンダードですからすっかりマスターしておくべきだと思います。外国人とのプロジェクトではこのステップは当たり前なので。

P.S. これ書いてて自分の会社3Diの経験がよみがえりました。創業時からの試行錯誤でPSFまで到達しMVP/プロトプロトタイプを作って自分自身で営業にかけずり回って顧客のニーズを聞き取り仕様を決めて、製品が出来上がる前に契約(3Diの最初の顧客はmixi/当時の記事あり)し、バグありまくりで動かず蒼白となり、Pivotに近い大きな方針を変えて何とか納期に間に合わせた記憶がよみがえりました。。あれはPMFだったのだろうか、と。当時の試行錯誤のプロセスはこのPSF、Pre-MVP、PMFとほぼ同じだと思います笑

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