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田舎でIT勉強会開いたら熱量がすごいことになった(岩手大船渡「IT活用塾」の取り組み)

地域活性化総合研究所の種延です。2022年の10月より岩手県の沿岸地域の大船渡市という人口3万人規模の小さな田舎町で、令和4年度のIT活用塾がスタートしました。

10月5日から開始して、これまで3週(計6回)開催し、総勢22名の方にご参加いだたいてます。今回は、ファシリテーターとしての視点から、IT活用塾ってなんのか、10月中に数回実施して実際どうだったのか等について、ざっくばらんに書いていこうと思います。

IT活用塾とは

IT活用塾は大船渡市民と市内事業所に勤務している方を対象にした無料のIT勉強会です。「ITスキルそのものを学ぶ」というよりも、ITスキルを自ら学べて、問題解決に活用できるようになることをゴールとしています。僕自身は今回が初参加なのですが、IT活用塾は毎年開催されており、今年は毎週水曜日の昼(13:00-15:00)と夜(18:30-20:30)のそれぞれ2時間の枠で実施しています。

少しバックヤードにも触れておくと、IT活用塾は大船渡市の総合戦略に基づいて「IT活用課題解決型人材」を育成することを目的とした市の委託事業です。市事業において「IT活用課題解決型人材」とは、「ITの活用方法を自ら学ぶことができ、かつ、ITを活用した課題解決策を講じることができる人材」と定義されています。

この「IT活用課題解決型人材」というのは、いわゆる「21世紀型スキル」やEUの「Key Competencies」に通じる能力観で、一朝一夕に習得できるものではなく、教育制度や生涯学習などにおいてどのようにこれらの能力・態度を養うか、というレベルのものだと感じています。その点で、IT活用塾は参加者に「変容の入り口に立ってもらう」ということを意識して実施しています。

昨年度のIT活用塾と見えてきた課題

昨年度のIT活用塾は「暮らしを便利にする学び」「仕事に役立つ学び」「学べるようになる入り口」の3つにテーマを分けて、様々な講座を提供する内容のものでした。受講者アンケートでの好意的な反応や実際にいくつかITを活用したプロジェクトが生まれるなどの成果を挙げています。

一方で、効果検証からいくつかの課題も見えてきました。

  • 特定のアプリの使い方を効果的に教えることはできても、実際に活用意欲を持つに至らない。

  • 講座途中で一度でも欠席してしまうと、そのまま離脱してしまう。復帰ができずに、徐々に人数が減っていく

  • 教えられる内容が講師が知っていることに限られている

これらは先生から生徒に教える「教授型」の構造が抱える問題点と言えます。

課題を踏まえた今年度の「学習型」の設計

今年度は昨年度の課題を踏まえ、学習者が自ら学習テーマを設定し、ITスキルを学んでいく「学習型」の設計となっています。余談ですが、この「教授から学習へ」というのは教育の大きなトレンドにもなっていて、それがアクティブラーニングや総合的探求の時間などに現れています。先進的で最も身近な例が大船渡高校の「大船渡学」の授業でしょう。

本年度の変更は、前年度の課題に以下のように対応します。

  • 最初から当人の「活用」を見据えて学習をサポートする。

  • 自身のペースで学習ができるので、都合で休んでも再開が容易で、期間の途中からでも参加できる。

  • 学ぶ内容が講師に制限されない

つまり、本人のライフスタイルに合わせて、本人のやりたいこと・知りたいことを勉強する場が本年度のIT活用塾です。

グループで自習するもくもく会スタイル

この勉強会は、もくもく会というITエンジニアの間でよく行われている形式をベースにしています。もくもく会でやることは非常にシンプルです。

  1. 今日やることを宣言

  2. もくもくと作業

  3. 今日やったことを報告

もくもく会は他人に宣言することで自分がやることに注意を向け、報告することで振り返りを行うなど、自学自習におけるメタ認知を促進する構造になっています。「教わる」ことよりも「学ぶ」ことの方が圧倒的に多いITエンジニアに適した学びの仕組みです。

自走できるように伴走します

さて、理想を並べるのは簡単ですが、現実に実装するのはそう容易ではありません。今回は「IT・デジタル活用」という広いテーマで参加者を募集しているので、より一層個々人の「学び」を支える仕組みが必要になります。この意味で活用塾の講師は「先生」ではなく「ファシリテーター」という立場になります。「伴走」という表現をよく使うのですが、まさに一緒に走って同じように息切れもしながら、走者のペースを整えて一緒にゴールを目指すイメージです。

まず、最初の学習テーマを決めていきます。この「何を学ぶか自分で決める」という過程自体が自律的に学習する上でのキーと考えているので、ここには力を入れます。参加者の多くは漠然と「こういうのがやりたい」というのを持ち込んでこられるので、ヒアリングして話し合いながらそれを明確化していきます。

学びの場のしつらえ

また、「場をしつらえる」ということも意識しています。先程言ったもくもく会形式は、他の参加者の「やりたいこと・知りたいこと・困っていること」と「それらを解決するために自分は何をやるか」という他者の超具体的な取り組みを知れるということでもあります。参加者によっては似たテーマを掲げている人もいますし、自分にはなかった視点を得られることもあるでしょう。

普段の生活から切り離されて、2時間自分の学習テーマに集中できる。仲間たちと本気で遊べる。そのような空間を作るために、時節柄難しいこともありますが、敢えて同じ場所に集まるという物理空間を重視しています。

これまで実施で見えてきていること

10/5(水)から開始して、これまでに3日(昼夜2部構成なので全6回)開催してきました。主催者側で感じていることをいくつかピックアップします。

参加者が想定より多い

セミナーのように明確に教える内容が定まっていないため、趣旨の理解が難しく、また主催者側の都合ですが趣旨説明をする十分な時間もなかったため、僕個人としては少人数のスモールスタートとなるだろうと予想していました。ところが、初日から15名以上の参加者があり、早くも部屋を増やす対応が必要となってきました。

これは弊社が地域に密着している強みが出ている部分だと思います。というのも、申し込みサイト等も準備しましたが、実際の参加の呼びかけはこれまで様々な事業で関係のある市内の事業者の方々に直接会って趣旨を説明した方々が最も多く参加されています。

このような取り組みをWeb上で展開する場合、どうやって対象者の方々に理解してもらうかという部分に苦心するわけですが、我々は自転車で回って顔と顔を合わせて説明できるわけです。(実話)

この初動の大きさは色々なことを示唆していると思っています。地方はデジタル化が遅れていると言われており、事実都市部と比べて遅れているでしょう。では地方の当事者たちが現状にあぐらをかいているかというとそういうわけでもなく、多くの人がデジタル技術に興味・関心があったり、今後身に付けなければならないという意識はあるのだと思います。一方で、セミナー等はたくさんあるものの、個々人のニーズに必ずしも合致しているわけではなく、デジタルスキルの学びの機会は見えているほど多くはない可能性があります。経産省がデジタル化に危機的なレポートを発表し、DXを強力に推進している状況ですが、地方は地方に足のついた、継続して学習できるコミュニティが求められているのではないかと思います。IT活用塾はそのような姿を目指すべきだと感じています。

届けたかった人達に届いている

市内のセミナーなどは主に事業者や従業員に向けた、仕事のための具体的なスキル習得を目的としたものがほとんどです。一方で、IT活用塾は広く市民や市内事業者の方々にデジタル活用の力をつけてもらうことが目的であり、対象を仕事に絞っていません。この点は、Key Competenciesなどがキャリア教育ではなくシティズンシップ教育の文脈で語られているのにも通じています。

定年退職されたある参加者の方が「ITに興味はあるけど、よくある講座は仕事をしている人向けで自分は対象ではなく参加しづらかった」ということをおっしゃっていました。また、スケジュールを自由に組めるようにしたことで、妊婦さんなど連続で開催するセミナーに参加できるかどうか不安な方々も参加できています。昼夜2部制も運営側としては大変な点もありますが、結果様々な方が参加が可能となりました。

当初意図した通り、届けたかった人たちに届いているのかな、という感触があります。

「これならやれるかも」の声、実際に2回目以降の離脱ゼロ

これは初回に多くもらった言葉です。参加者の多さからも見て取れる通り、やはり何らかのデジタルスキルを身に着けたいという人は多いものの、忙しい日常の中で継続して学習できる、うまくハマる仕組みがこれまでなかっただけなのだなと感じました。

そして、連日開催するイベントの場合、2日目の離脱をどれだけ減らせるか、というのが一つの勝負所です。IT活用塾の場合、2回目の離脱者はなんとゼロでした。これはかなり驚異的だなと感じており、実際に参加者の期待値が高い

もちろん、様々な事情でこれから離脱してしまう人が出てくるかもしれませんが、参加してくださった方々がIT活用の一歩を踏み出せるように様々な仕掛けを考えていきたいと思います。

多様な人々が集まるカオスな空間になっている

従来型のセミナーは、仕事のためのスキル習得の場であり、ある程度属性が均一です。また東京ではかなり絞ったテーマでも人が集まるのが大きなメリットなので、各勉強会はやはりそれなりに似た人々が集まっているような印象です。

大船渡のIT活用塾は「IT・デジタル活用」というかなりゆるく広いテーマと「大船渡・気仙」という地域性の2軸で人が集まっており、結果、様々な業種・様々な年齢層・様々な参加のモチベーションの人たちが同じ空間で勉強をする、かなりユニークな空間となっているのではないかと思います。

まずパソコンに慣れるところから、ということでタイピング練習から開始されている方も多いですし、一方で業務のDXを進めるためにかなり進んだGoogleシートの使い方を研究されている方もいます。動画をテーマにされている方はかなり多く、SNSマーケティング寄りの視点であったり商品のプロモーションであったりと、似たようなテーマでも動機や目的が個々人で異なっていて、取り組みを外から見ているだけでも面白いです。さらに、「プログラミングってなんなのか知りたい」という純粋な好奇動機で参加されたのが経営者だったり80代の方だったりするわけです。このようなユニークな方々が同じ場所でもくもくと作業する面白い空間となっています。

インターネット以後、コミュニティの定義から地域性が抜け落ち、「興味・関心」だけで人々がつながるネットコミュニティが出現してきましたが、今回改めて地域性が加わった本来の「コミュニティ」の面白さが現れているような気がして、なんだかエモい気持ちになります。

地方にこそ求められるサードプレイス

社会学者のOldenburg(1989)提唱の概念に「サードプレイス」というものがあります。ファーストプレイスである家、セカンドプレイスである職場でもない、第三の場所のことを指し、コミュニティ形成への重要性を指摘しました。このワードは地域活性化の文脈で使い古されたワードではありますが、サードプレイスで掲げられているコミュニティはまさに地域社会そのもので、かなり本質を捉えていると個人的には思っています。

IT活用塾の参加者の中には市内企業の従業員の方がもちろん多いですし、産休や退職で人とのつながりが減ってしまった方もいらっしゃいます。2時間の勉強時間中や終了後に参加者の方々とつい会話が弾んでしまうのですが、やはり地方こそサードプレイスを必要としているのを肌で感じることができます。

今回のIT活用塾は従来のセミナーのような特定スキルを短期間で手早く習得させる場所ではなく、比較的長い期間をかけ色々寄り道しながら自分のやりたいことの実現を目指して自分を変容させる場所です。主催者から一方的に教えるのではなく、参加者の主体性を重視しており、参加者同士のコミュニケーションやコラボレーションが鍵を握っています。したがって、目指している姿はコミュニティに近く、IT活用塾の活性化はコミュニティの活性化だと感じています。

あなたもご参加いかがですか?

まとまりのないレポートになってしまいましたが、現場で見えている景色はざっと上記のような感じです。まだまだ書ききれていないこともあり、今後も色々と投稿していくつもりですので、よかったらnoteのフォローと記事の拡散もよろしくおねがいします。

というわけで、期間の途中からでも参加可能なので、興味を持たれた方はぜひご参加してみてください。一緒にワクワクする学びを始めましょう!

IT活用塾概要
・期間: 2022/10/5 ~ 2023/2/22
・毎週水曜日
・昼の部: 13:00-15:00
・夜の部: 18:30-20:30
・参加費: 無料
・主催: 地域活性化総合研究所

申込みはこちら、もしくはお電話(0192-22-7115)で!

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