Instagram美学に飽きたZ世代が「居心地の良さ」を求める理由
自己紹介
Off Topicでは、D2C企業の話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやってます。最近はインスタグラムで新しいスタートアップやブランドを紹介しているので、ご興味ある方はチェックしてみてください!
はじめに
新しいコンテンツやブランドが生まれている昨今、気になっているトピックがある、それは「ビジュアルの進化」だ。Z世代がより世の中にインパクトを与え始めている中で、ここ5年の「イケてるビジュアル」の定義が変わり始めている。
このトレンドを理解しなければ今後のD2Cトレンド、C向けサービス、SNS、そして後々B向けサービスの将来トレンドを見損なうことになるため、ここ数ヶ月で色んなリサーチを行った。
今回は、まずミレニアル世代とZ世代のデザイン・ルックスについて解説する。そして、どういう違いがあるのか、ビジュアルの裏にある社会的背景について紹介し、これからのデザインの予測を話していきたいと思う。
プレッシャーと戦ってきた完璧主義のミレニアル世代
過去5年のC向けサービスやリテール・D2Cブランドを見ると、似たようなビジュアルであることに気づいている人も多いのでないだろうか。
シンプルでミニマリズムなデザインとタッチ、背景の色合いはミレニアルピンクや明るめな色合い。シンプルでカッコイイ、イケている感のある「ミレニアル美学」は特にD2C企業ではここ数年流行りました。最近色々問題を抱えているが、このデザインの流行りのピークに出てきたアイスクリームミュージアムはまさに代表例。
引用:Forbes
このデザインが誕生した背景には、アメリカの文化と経済圏を握り始めたミレニアル世代にある。Instagramの影響と思う人も多いかもしれないが、正確には違う。たしかに「インスタ映え」文化によって強調し、拡散を加速させたのは間違いない。ただ、根本的は理由は別にある。そもそも、なぜ彼らはInstagramを気に入ったのか?そこには親からの影響と育ちが関わっている。
ミレニアル世代はやる気のない世代として見られがちだが、実はアメリカでは完璧主義者のプレッシャーを常に抱えていた世代でもある。実際に2.5万人を25年間調査した分析を見ると、1995年(最後のミレニアル世代が生まれた年)から完璧主義者な人たちがかなり増えている。
この完璧主義世代を生んだのはより競争が激しい社会とその中に育ってきて、より子供をコントロールしたがって批判する親たち。子供を過保護するいわゆるヘリコプターペアレントは自分の子供を完璧に育てることにフォーカスしたあまり、子供たちも「完璧でなければいけない」と言うプレッシャーに追われてきた。そして、痩せ過ぎたモデルや理想的な人生を見せつける広告文化とそれをより拡散させるInstagramを合わせると、完璧主義世代が生まれる。
この完璧である姿を見せたい文化が生んだのがC向けサービス、特にD2C業界ではよく言われる「Premium Mediocre(平凡のプレミアム化)」のコンセプト。
平凡であり、プレミアム「Premium Mediocre」とは
Premium Mediocreとは、平凡なものとプレミアム感を絶妙に組み合わせたコンセプトを指す。例えば、飛行機のプレミアムエコノミー、スタバのイタリア語のドリンクサイズやスタバのコーヒー、インスタ映えするそこそこの味の食べ物など。この言葉は、2017年のVenkatesh Raoさんの記事から生まれた。
引用:BeBadass
ここ数年だとGUCCIやLouis Vuittonなどのラグジュアリーブランドとストリートブランドがコラボを多くしている。これはミレニアル世代、いわゆる今最もお金を消費したい社会人層にリーチする手法でもある。
まだお金持ちとは言えないが、IT企業等で1,000万から3,000万円の収入をもらい、安いものは買いたくないけど、高いものは買えない。このラグジュアリー層にまだ至らない人たちを、「HENRY:High Earners Not Rich Yet(まだお金持ちではないが高い収入を持っている人)」という。彼らは自分が成功していることを見せたい欲求があるため、それを見せられる商品を探している。
このコンセプト自体は新しいものではなく、これまでプレッピーと呼ばれていた層の進化系とも言える。フレッピーの由来の元のプレップスクールとは、裕福な家族が大学の準備をさせるためのが全寮制の学校子供を寮生活学校。そして、学内にドレスコードがあることが多いため、プレップスクールの学生は大体似たような格好をしている。これがまさにBrooks Brothers、ラルフローレン、ラコステ等が一番成功した時代。いまだにハーバード大学に行くと、プレッピーファッションをよく見かける。
引用:Pinterest
しかし、ここ数年で「憧れる成功者の格好」が変わってきた。アメリカの高校生や大学生はウォールストリートのバンカーではなく、ラフな服装を着るIT起業家やインフルエンサーに憧れている。その影響を見るためにはアメリカの高校や大学のファッションを見に行くのがベストだが、それが出来ない場合はアメリカの空港に行くのがオススメ。
ここでアスレジャーのトレンド、AirPods Proのトレンド、そして今成長しているD2Cブランドが分かる。
引用:2pm
この増えてくるHENRY世代に対してアピールしてきたのが2010年ぐらいから出てきたD2Cブランド。Warby Parker、Away、Glossierなどはまさにそこまで高くないがカッコイイブランドとして見られている。ミレニアル世代にお手頃の値段とミレニアル世代が成功したい格好を組み合わせすと、このPremium Mediocreが出来上がる。
これについて、プレミアムと安さのちょうど間のクオリティーと値段をAway創業者のJen Rubioさんも語っている。
IT企業からハイブランドまで San Serifが人気な理由
このPremium Mediocre(平凡のプレミアム化)のデザイン、いわゆる今のミレニアル美学をフォント・ロゴとデザインで見ると分かりやすい。
San Serif化されたフラットなフォント・ロゴ
多くの会社はフォントをミレニアル世代向けに変えている。特に大手テック企業を見ると、全社が同じようなフォントに変えていることが分かる。
しかもテック企業だけではなく、大手ファッションブランドもこの流れに乗っている。
IT企業がSan Serifフォントを気に入った理由は小さい画面でも読みやすいから。よりフラットでシンプルなSan Serifにした方がユーザーにとって分かりやすい。しかも、今となってはロゴだけどこかの広告板などで見かけない。色合い、プロダクト、イラストがついていて、ロゴのフォント以外の部分でブランドを表現することが普通になっている。
このトレンドはD2Cブランドが一番上手く表現している。例えばCasperがニューヨークの地下鉄で広告を出した際にSan Serifのフォントを使っているが、それはCasperのメッセージをより簡単に伝えるためで、どちらかと言うとCasperがメインでブランディングしてたのは色合いとイラスト。
引用:Artsy
一方ファッション業界では、元々の手書きっぽいフォントがハイエンドすぎるように見えるため、より普通にならなければいけないと感じた。そしてロゴをフラットにする(平で読みやすくする)ことは、全世界で読みやすくするためでもある。実際に「フラット化する世界」と言う表現はインターネットとグローバル化によって全員同じ、いわゆるフラットに並んでいることを象徴していて、D2Cブランドのロゴもその平等性を表している。
引用:Vox
D2Cブランドのサイトを見ると、フォントが似ていることが分かり、大体2パターンに別れている。一つ目はサイトが全てSan Serifフォントになっていること。Glossier、Everlane、Warby ParkerはSan Serifのみ使っている。
もう一つのパターンはロゴやヘッダーをSan Serifにして、説明文をSerifにすること。San SerifとSerifの違いは、文字の”足”がついているかついてないかで大体分かる。
AwayやOutdoor VoicesはSan SerifとSerifを混ぜ込んでいるパターン。
引用:Away
このようにフォントを使い分けるだけでよりサイトが読みやすくしている。Serifはもう少し上品でラグジュアリー感を出すものの、ベースはSan Serifにしてシンプルに。これがPremium Mediocreの基本になっている。
以下がPremium Mediocreのデザインの基本:
・ジェンダーフルイドなミレニアルピンクかその他パステルカラー色
・San SerifのロゴとスタイリッシュなSerifの組み合わせ
・ホワイトスペースをかなり活用する
・スタイリッシュな静物画のグラフィックデザイン
・エレガント、そして特にはスカンジナビア風なシルエット
・綺麗/クリーンで何も入ってない表面
・完璧なフラットレイショット
・かなりのフィルター付きのセルフィー
これが今まで流行っていたのはこのInstagram文化に合っているから、そしてシンプルな写真の方がFacebook・Instagram広告のパフォーマンスが高いから。クリーンカットで、誰も変に思わないルックス。ただ、最近ではこのビジュアルデザインが普通になりすぎて、多くの若者層は嫌になり始めている。これはインスタ疲れと同じタイミングで起こっているのは偶然ではない。
仲間を大切にし、居心地の良さと遊び心が大事なZ世代
Domestic Cozyとは、プライバシーや家の温かみ、仲間とのプライベートグループを重視したコンセプトを指す。Premium Mediocreのミレニアル世代のカウンターカルチャーとして生まれ、ブランドにも温かみやアットホームさ、遊び心を求めている。
Premium Mediocreのコンセプトが、InstagramやTinder、アーバンアウトフィッターズだとすると、Domestic Cozyは、TikTok、YouTube、マインクラフト、自炊、編み物を表す。Premium Mediocreは営業マンっぽい、外向きのでみんなにイケている感を出すものだとするとDomestic Cozyは逆に内々としてリラックス出来るもの。
ASMRが特に若者層で伸びているのも、このDomestic Cozyを表している。プライベートでリラックスできる感覚が最も求めている。Premium Mediocreはインスタ映えの日常が普通だと騙しこむビジュアルと文化であり、Domestic Cozyはおかしさを理解しても理解しなくてもその現状を認める。スライムが急に若者層に人気になり始めたのは今までのクリーンでシンプルなロゴ・デザインをリジェクトしたいから。
Premium Mediocreは完璧主義者のデザインなので、なんでも理解して、なんでもクリーンにしようとする。逆にDomestic Cozyはヒップスター、DIY、クラフトされたルックスを好む。
ダサいけど、居心地の良いビジュアルDomestic Cozy
Premium Mediocreと同じように最近出てきたブランドやデザインを見ると、このDomestic Cozyが既に人気になり始めているのが分かる。
Domestic Cozyフォント:少し複雑でレトロ感
2018年ぐらいから実はこのDomestic Cozyに寄せたフォントが出てきている。The Wing、Haus、Recess、Pattern、Jaja、Seemore、Goodfishなどがこの代表例と言っても良い。
大手ヨーグルトブランドのChobaniもSan Serif系のフォントからより柔らかいロゴに変更している。
引用:Brand New
引用:Vox
この新しいフォントの中で幾つか特徴的な要素が組み込まれている。まず、一部のフォントは1960年代と1970年代を思い返すようなフォント。Great Jones、Buffy、The Wingのカーブなどを強調したロゴは有名なカウンターカルチャー雑誌のホール・アース・カタログやビートルズのアルバムカバーを思い出す。
Glossierまでこのトレンドに乗った。2019年3月にローンチした新しいブランド「Glossier Play」はこの60年代と70年代のフォントを思い浮かばせるようなスタイルだった。
引用:Allure
こう言うフォントを選ぶ理由はやはり過去のミレニアル美学と真逆の方向に行きたいから。Chobaniがフォントを変えた理由は前のロゴは「冷たく見えた」と語ってた。Outdoor VoicesみたいなSan Serif系を使うとシンプルでクリーンに見えがちだが、同時にそれ以上の感情は出てこない。このDomestic Cozyに寄り添った温かみや遊び心を出すには、ロゴも変える必要がある。
引用:Inc.
Domestic CozyはPremium Mediocreと違ってよりユニークさを強調しなければいけないため、統一されたルックスはあまりない。ただ、その中でも似た特徴はある。
例えば、写真の撮り方。これまでは背景を一色にして、商品をフォーカスさせる写真が多かったが、今ではよりリアルでユースケースを見せる写真が多い。アルコールブランドのHausはこのDomestic Cozy的な写真を上手く見せている。
引用:Hausサイト
キッチンウェアD2CのPatternも似たような写真を出している。
サイトデザインについては記事の後半で再度説明するが、アンチデザインや90年代のサイトデザインが増えている。
この変わったフォントとサイトデザインを組み合わせると、今年ローンチしたD2Cブランドのようなデザインになる。
ノンアルコールD2CブランドGhiaの創業者のMelanie Masarinさん曰く、今の会話は全てデジタル上で行われているため、よりオフラインの感覚のものを作りたかった。マーケティングブランディングではなく、人間ブランディングをしたかったとのこと。
スナックD2CブランドのDada Dailyも同じく、何でもきれいに見せるありえない世界は嫌だった。ニューヨーク生まれのDada Daily創業者のClaire Olshanさんは「ニューヨークではそんな繊細な色合いな世界は非現実的ではない。そう言う場所でもないし、みんなそう言う人生を送ってない」。
ミレニアルピンクやパステルカラーやSan Serifフォントを使っている会社も未だにあるが、最近だと徐々にグラデーションや色んなテクスチャーを入れ込むようにしている。Recess、July、Unbound、Otherlandはまさにその事例。
今までのフラットとクリーンのデザインからシュルレアリスムとグラデーション・テクスチャーへ変わっている。特にシュルレアリスム的な3D化された雲や目を使うのが人気。このシュルレアリスムは第一次世界大戦後に人気になったカウンターカルチャー文化でもある。
シュルレアリスムの中でも有名なルネ・マグリットの作品を見ると、最近立ち上がったブランドのデザイン(テクスチャー、ディテールが入っているイラスト、書道っぽいフォント、そして体の部分や雲を表現したもの)にどれだけ近いかが分かる。
この時期のアート作品は当時人気になっていたナショナリズムと当時の文化に対しての批判・反乱するのを表現したかった。これは今のZ世代が抱いている気持ちと同じだからこそこのシュルレアリスムが流行っているかもしれない。その一例として以前記事でも説明した「👁👄👁」が流行ったのもこのシュルレアリスムに基づいての考え方、今流行のテック業界に対しての批判をするデザイン。
このDomestic Cozyの「Cozy」は暖かくて心地良いと言う意味合いもある。最近のセレブの外出の際の格好を見ると、ほぼパジャマ姿でどこでもリビングにいるような格好をするのはこのDomestic Cozyが一般化し始めている証拠でもある。
最近では、ハードの会社でも同じようなことが起きていて、プラスチックなどではなく、繊維を使って温かみを表現しているところも多い。
そしてインテリアデザインもハンドメイド感を出すのが流行っている。
Domestic Cozyは温かみだけではない。過去の記事でも記載したように、インスタ映えとは逆のリアルで自分らしさを最大限に表現するためにより汚く見せるフィルターを使ったり、ノーメイクで動画撮影をしたり、親近感を与える写真を出すのがトレンドになっている。特に急成長しているインフルエンサーのEmma ChamberlainさんやJazzy Anneさんはこのスタイルの代表例。
さらにHuji Camみたいなノスタルジアを生み出すようなフィルターやテーマが今は非常に人気になっている。
Huji Cam以外にも過去に記事で解説した人気YouTuberのDavid Dobrikも使い捨てカメラと似たような画質や写真が取れるフィルターアプリ「David’s Disposable」をリリースしたときに、1週間以内で100万ダウンロードを達成した。
引用:App Store
さらに流行っているのは初期インターネット(特に90年代)のルックスとデザイン。
綺麗さとカッコよさを強調したミレニアル世代と比べて、Gen ZはTikTokなどで自分をブサイクと呼ぶのがトレンドになったり、そう言うルックスが求められている。
それでは何故こう言うトレンドが起きているのか?それはZ世代が今過ごしている人生と文化を見ると分かる。
居心地の良さを求めるZ世代
Z世代を見ると、今まで以上に大変な時代に生まれたと思う。もちろんTikTokなどのSNSやeSportsなどのおかげでこれまで以上に10代の起業家が増えているが、同時にアメリカでは非常に厳しい環境の中に育っているのがZ世代。Z世代とミレニアル世代を調査したYPulseは7割が将来について不安を抱えていて、52%が常にストレスを感じていると言っている。
インフルエンサーでもその悩みを抱えている。人気eSports・ゲーマーのFaZe ClanのFaZe Rainさんは11歳から毎日ゲームをプレー、そして撮影、そしてYouTubeで配信する人生を繰り返した中、鬱になったと告白した。過去にOff Topicのポッドキャストでも話したが、今まで以上に若い年齢からマネタイズしている人たちが増えている中、メンタルヘルスとセルフケアがより重要になり始めている。
もちろんこのセルフケアのトレンドはインフルエンサーなど有名になり始めている層だけではない。Z世代はリーマンショックで影響された親を見ている中で、自分たちも経済的に安定しなければいけないと思っている。ただ、大学の学費など成功をイメージさせる道のりのコストが大幅に上がっているのを考えるとかなり不安があるのは当然。実際に大学の学費の上がり具合を見ると、半端じゃない。
過去のnote記事で記載したように、アメリカの大体学費だけの平均レンジは1年で$25,000(約260万円)から$51,000(約550万円)と言われている。Investopediaによると半分以上の学生は学生ローンなどを使って学費を払っていて、平均$35,349(約370万円)の借金をして大学に通うことになる。実際に14.4%のアメリカ人の大人(約2,800万人)が毎月学生ローンの返済をしている。その影響で今現在は歴代最高額の学生ローンが溜まっている状況。
それ以外にも賃貸、医療費、家族を養うお金、保険など色んなコストを考え始めているZ世代からすると、将来が不安でしかない。
引用:YPulse
そして、アメリカと世界全体の状況をインターネットで監視しているZ世代は環境問題や今まで以上に意見が割れる政治文化の中で育っている。OK Boomerがトレンドになったのも、他の世代が環境問題に対して何もアクションをとってないのを見て、Z世代は自分たちで解決しなければいけないと思い込んでいる。こう言う状況だからこそグレタ・トゥーンベリさんが自ら行動して自分の意見を発言し始めている。Black Lives Matterでのナッシュビル市で何万人も集まった抗議も実は5人の10代の子達が主催と管理をしていた。
2018年のフロリダ州のパークランド市で起こったマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件の後もそこの高校生たちが集まって抗議、イベント、PR活動など様々なアクションをとった。
さらに、トランプが大統領になってから、今まで以上にアメリカが国として二つに別れ始めた。民主党派か共和党派で何事も政治化されてしまった。コロナやマスクの着用すら政治化されている。
引用:CBC News
自分の経済状況やどれだけTikTokでフォロワーがいることは今までの子供たちの育ちとそこまで変わらないが、それ以上にいつ撃ち殺されるか分からない状況、大人たちが世界をぶち壊して責任を取らない中環境が崩壊していること、そして何を発言しても政治化されてしまう世の中で育っている子供たちからすると、逃げ場や安心できる居心地の良い場所を探すのは当たり前。これがDomestic Cozyが生まれる理由である。
このDomestic Cozyを説明する際に名付け親のVenkatesh RaoさんはDomestic Cozyは4つの危険から逃げていると説明している。
引用:Ribbon Farm
Airport (空港)
常に飛行機で飛び回って、環境問題などは無視してテック企業が自分のいる業界を変える前に無事引退できる資金を集めようとしている人たち。何もかも爆発する前に今は辛くても耐え抜こうとしている人たち。
Minefield (地雷原)
周りを見ると、ホームレスや散らかったスクーターばかり。高級住宅街のすぐ横に苦しんでいる人たちがいる。
Desert (砂漠)
誰もいないショッピングモールを歩き回って、またアメリカが良くなると待ち望んでいる人たち。
Mansion (マンション)
自分の財務状況があまり良くないが見た目的に成功している感じを出さないといけない人たち(Premium Mediocre)。
こんな世の中を見ると、逃げたくなるのは仕方がない。この全ての嫌な生活から逃げているのがZ世代であり、その逆の居心地の良さを求めている。上記の四つの軸をまとめるとDomestic Cozyの居場所が分かる。
引用:Ribbon Farms
この影響でセーフ・スペースの概念が流行っていて、「コミュニティー」を求めていている人が増えているのはDomestic Cozyが裏にあるから。自分の人生・文化が壊されているのを感じていると、自分たちと似た意見や思いの場所を作りたくなる。多くのリベラルの学生からすると、それは大学キャンパスだが、オンラインでも似たような場所を求めている。だからこそ「コミュニティー」が多くの起業家やブランドの中でキーワードとなっている気がする。Z世代は今まで以上にプライベートな環境で自分たちと同じ意見・バリューを持っているブランドと安心して会話をしたがっている。そう言う場所を作れると、かなり信頼されたロイヤルユーザーがついてくる。
Premium Mediocre x Domestic Cozy
実は去年あたりからこのPremium MediocreとDomestic Cozyの掛け合わせされたブランドやプロダクトが出てきている。例えばCasperの2019年に販売し始めた重みのあるブランケット。
引用:Casperサイト
以前紹介したHausやPatternもこのPremium MediocreとDomestic Cozyのコラボしている商品・ブランドに見える。アットホーム感を出しながら、値段がそこまで高くないプレミアムプロダクトとしてブランディングしている。それ以外だとPatara Shoesもこの両軸の要素を入れ込んでいる。
引用:Ribbon Farms
Offhoursと言うブランドもストリート系のファッションとバスローブを組み合わせた$300の商品を開発。まさにDomestic Cozy x Premium Mediocre。
ミレニアル世代もDomestic Cozyに寄っている?
ミレニアル世代がどれだけDomestic Cozyに寄せ始めているのかを見るにはTikTokとInstagramを見ると分かる。TikTokはDomestic Cozyネタばかりで、InstagramはPremium Mediocreネタばかり。今ではミレニアル世代もインスタ映えのプレッシャーに対してバーンアウトし始めてTikTokに移行している(アメリカ政府の行動次第でどこに行くかは分からないが)。
ワークライフバランスを失っていたミレニアル世代はバーンアウトし始めているのをBuzzfeed記事で書かれていたが、実はPatternもこのバーンアウト文化の影響で立ち上がったブランド。Pattern創業者のEmmet ShineがPatternが解決する課題を説明するときに、この常に追われた世代について語っていた。
4世代のどう噛み合うのか?
最も若い世代のAlpha世代を覗くと、今では4つの世代が生きていて、各世代はやはり自分たちの文化や育ちをベースにネイティブなデザイン・マインドセットがある。以下それを簡単に表現した図。
引用:Ribbon Farms記事をベースに作成
その中でも各世代が他のマインドセットをどう見ているかまとめたもの。
引用:Ribbon Farms記事をベースに作成
このDomestic Cozyトレンドはコロナ前からのもので、今まではファッションブランドや広告・プロダクトデザインを見ていたが、これをもっと大きなコンテキスト、C向けのインターネットサービス・ウェブデザインで見ると似たようなトレンドが見えてくる。
C向けプロダクトからみるウェブデザインの歴史
歴代のC向けインターネットサービス、特に自己表現をするSNSなどのUI/UXを見ると文化の変化と今後のUI/UXがどうなるかヒントが見えてくる。そして今後のC向けのUI/UXが分かればB向けの将来的なUI/UXが分かるとも言える。大体流れは以下のようになる:
若者文化 → SNS → C向けサービス → B向けサービス
上記の流れの一例を出すと:
Premium Mediocre → Instagram → Away/Warby Parker/Glossier/Uber → Superhuman/Amie
後ほど解説しますが、Premium Mediocreが流行り始めたあとにInstagramと言うキレイなUI・UXのSNSが出てきて、そこからPremium Mediocreを象徴するキレイ目のUI/UXのD2Cブランドが出てきて、その数年後にB向けサービスのSuperhumanやAmieでも過去のC向けを思い浮かばさせるクリーンなUI/UXがトレンドとなっている。
そう考えると、B向けサービスを開発している人もこの流れを気にしなければいけない。そして、今では自己表現やコミュニケーションのスピードがどんどん進化して加速しているため、これからどんどん変わっていくかもしれない。そのスピード感や文化に対応できるC向けとB向けブランドが生き残る世界となりそう。以前このZ世代の自己表現について記事を出したので、興味ある方は是非読んでください!
この時代の流れを理解する必要があるので、1990年代から今まで人気だったアメリカのC向けサービス(特にソーシャル寄り)を紹介します。以下部分はSunroomの記事翻訳をかなりしています。
1990年代:掲示板とIRC(チャット)
代表例:AOL Instant Messenger, MSN Messenger
初期インターネットでは掲示板が一番使われていたオンラインコミュニケーションと自己表現の仕方だった。ニュースを読んだり、ファイルのアップロード・ダウンロードを行うとともに、公開されている掲示板を使って公共な場で人とのやりとりが出来るようになった。同時にオンラインゲームの初期版がここから生まれ、そこから生まれたのがIRC(Internet Relay Chat)。
チャットは特に学生の間では人気になり、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグもAIM(AOL Instant Messenger)の影響で後々Facebookを作っている。ここでは決まったUI/UXで画像などの共有がほぼ出来なかったので、チャットではスクリーンネームなどをカスタマイズして自分の今の状況などを表現出来た。まだ当時は8ビットのグラフィックだったため、色合いもかなり限られた状況だった。
2000年代前半:初期SNSとオンラインプロフィールのカスタマイズ
代表例:Friendster、Xanga、MySpace、Habbo、Neopets
初期SNSのFriendsterやMySpaceが出てきた際にオンラインプロフィールの概念が生まれた。そしてそのプロフィールをHTMLをいじってカスタマイズしたり、コードをコピペして背景や特殊フォントを変えたりするのが人気だった。MySpaceプロフィールは音楽以外にかなり自由なサイト作りが多く、変な虹色の背景や読みにくいフォントを使うのが普通だった。
さらにこの時期に流行り始めたのがバーチャルコミュニティ。HabboやNeopets(後にClub Penguin)など友達とバーチャル上で集まり、自分のアバターや部屋をカスタマイズできるコンセプトが人気だった。ユーザーは自分たちでコンテンツを作って自己表現するのではなく、存在するもの一部取り入れてその組み合わせを使って自己表現していた。
UIとしても色彩が染色性のものが多く、UI(ブラウザーのウィンドーなど)でシャドーを入れるのが流行っていた。
2000年代後半:テンプレ型SNS
代表例:Facebook、YouTube、Tumblr、Bebo、Reddit、Twitter
一般化したSNSはこのテクニカラーな背景とHTML編集を捨ててテンプレ型に進化した。自己表現の仕方はプロフィールのビジュアルのカスタマイズからではなく、投稿するコンテンツ(テキストとビジュアル)へ変わった。この新しいフォーマットにより露出狂の世代・文化を作り上げた。人と人のインタラクションやコミュニケーションよりも自分の思いを世の中に出すことにフォーカスし始めた。限られたボックスの中の自己表現となったので、特にテキストベースでの自己表現が増えた。
同一された表現方法に食いつき、お互いの人生をきっちりとした箱に収まるように投稿し続けた。これは9/11やリーマンショックの不安定な状況が影響したとも言える。同時にデスクトップベースの縦型フィードをスマホのスクロール式に移行した。
デザインはリアルの世界をより表現したく、アプリはスキューモーフィズムデザインが普通になった。より3D感のあるボタンやアイコンが増えたのがこの時期。
2010年代前半:バーチカルSNSとビジュアル重視の完璧主義SNS
代表例:Instagram、Snapchat、Pinterest
Facebookが人気になり始めて、Facebookのアンバンドル化が始まり、バーチカルSNSが出てきた。特に若者層はFacebookでは出しにくいより軽い、ビジュアルファーストな自己表現を求めていた。ただ、今までのテンプレ型と言う部分は変わらなく、そしてビジュアルが思った以上に下手だった若者層はInstagramのフィルター機能などに食いつき、そこからインスタ映えの文化が生まれた。ただ、逆にその影響でほとんどのビジュアルが同じように見え始めた。
ストーリーズ機能に寄ってこの同じような写真・ビジュアルから少し切り離すことが出来た。ステッカー、ふざけられるフィルター、絵描きツール、そしてラベルなどを使って自己表現するようになった。ただ、この段階でビジュアルベースのUI/UXが生まれた。この時期にサイトデザインがフラット化して、リアルな人ではなくイラストベースのサイトが増えた(人を使うとインスタ映えっぽい写真が必要になり、面白くなくなるから)。
このデザイン・スタイルは今2020年では流行っているもので、あと数年は人気が落ちないと思われている。
2010年代後半から今後:Instagram文化の拒否反応から生まれる自己表現が自由にできるスペース
代表例:TikTok、Discord
Z世代が大人になり始めてInstagram文化を拒否して自分たちがふざけて、ユニークな面白さや意見が自由に表現できるオンラインスペースを探し始めてTikTokやDiscordが人気になった。これは記事の前半でも話したように自分たちと似た意見や思いを持っている人やブランドと安心して会話をしたい需要がある。ここでは他の人のコンテンツにインスピレーションを感じ、再活用してリミックスすることが普通になっている(TikTokやMeme文化)。
この拒否反応から出てきているデザインや「brutalist web design」(ブルータリズム)、いわゆる今までの完璧に見えるデザインの反対でラフで温かみのあるデザイン、そして自己表現がしやすいデザインが人気になっているのが分かる。
将来のデザイン・ルックス
今のDomestic Cozyがまさにこれからかなり人気になるデザインと考えると、1990年代のデザインがまた流行り始めるのが見えてくる。ファッションでは1990年代に人気だったサブカルのグランジファッションと似たようにサブカル・ストリート系のブランド(MadhappyやChinatown Market、Dolls Kill)が流行っている。
引用:Business of Fashion、nss Magazine、Dolls Killサイト
ファッションやサイトデザインを見るとこのラフで温かみのあるのはまさに1990年代。テックノスタルジアはZ世代の間では人気で、8ビットのデザインのPoolside.fmが人気になっている。
それ以外にもデザインスタジオ系のDay JobやNirriusもこの8ビットデザインを活用している。
最近Facebookがリリースしたウェブページを簡単に作れるE.ggも1990年代のデザインの雰囲気で満載。実際にE.ggの開発を担当していたFacebookのNPEチームのKevin Han Changさんは「初期インターネットの雰囲気や加工されてない感じがなくて寂しくなり、このノスタルジアを再現したかった」と語っている。
実際にE.ggのサイトはMySpaceやGeoCitiesを思い浮かべるデザインになっている。
引用:E.ggサイト
最近だとE.gg以外のサービスもこの1990年代のデザインを取り入れている。出会い系アプリのStruckもその一例。
引用:Struckサイト
このレトロトレンドはStack Overflowの昔のデザインを見れる拡張機能、Redditページを新聞化するサイト、初期インターネットのGIFを検索できるサイト、昔のMac OSを発動できるアプリ、1970年代から1990年代のゲームをプレーできるサイト、そして1990年代の流行りのテレビ番組を視聴できるサイトを見ると流行っているのが分かる。
引用:My 90’s TV
今後はもっと以前話したブルータリズムなデザインが流行る。ブルータリズムのサイトをまとめたサイトまで出てきている。
この1990年代に戻っている現象をSunroomのLucyさんがファッション、インテリアデザイン、UIデザイン、UXデザインのカテゴリーで上手く表している。
次世代Domestic Cozy企業
今後はDomestic Cozyのトレンドが広がり、より面白い色合いや混み合ったデザインが見られる気がする。良い事例はElliotのバーチャルモールやFigmaで作られた「WFH Town」。
引用:WFH Townサイト
FigmaをはじめにFortnite、Roblox、Minecraftなどでのコラボレーションコミュニティが流行り始める。実際にMinecraft上で300人の学生が集まって自分たちが通っている大学を完全再現している。
今後はこのコミュニティがゲームから会社や他のユースケースが出てくるようになる。バーチャルで集まるTeeohはまさにその一例。
さらに最近ベータ版で出ているEternalもバーチャル上で世界を作り、そこにジョインした友達と音声で繋がって話せる。実際にプレーしたらこんな感じでした。
そしてここで重要になってくるのは2000年代で流行ったMySpaceと同じプロフィールのカスタマイズ。Fortnite、Roblox、Teeoh、Snapchat、Facebookを見るとアバター戦争になっているのが分かる。今後はより「ユニークな自分」を表現するのが重要になってくるため、スタンダードのプロフィールではなく、かなりカスタマイズできるプロフィールが重要視される。実際にアバターSNSまで出てきている。
アバター以外にもGIFなどのMemeのコミュニケーションが盛んになる中、よりチャットやコミュニケーションでのカスタマイズが要求されるようになる。それにぴったりのアプリがMuze。
引用:Muzeサイト
Muzeはチャットアプリでもあるが、同時にクリエイティビティーのアプリでもある。こちらTestflight時代から使っていたが、かなり面白い(ここ最近リリースしました)。
引用:Muzeアプリ
結論
ミレニアル世代はPremium MediocreやInstagram美学を一般化した。ただ、これはミレニアル世代が一緒に育ったFacebookやTwitterの決まったフォーマットや枠を使っての自己表現やクリエイティブの作り方だった。Facebook、Twitter、そしてInstagramがもたらしたのは誰も変なプロフィールにならない、ユーザーのスタンダード化。それはまだテックリテラシー、特にスマホのリテラシーが圧倒的に高い人たちがいなかったから、スマホ上でのクリエイティブ作りにミレニアル世代が困っていたから。
その真逆に走っているのはZ世代。クリーンでシンプルなInstagram美学を見飽きた若者層はユニークさ、面白さ、おかしさを重要視している。そのため、多くのZ世代はInstagramから離れる可能性が高く、TikTokなど「本当の自分」を表現できるプラットフォームを求めている。ただ、そのプラットフォームは外向きでもあり内向きでもあって欲しく、自分たちを守りたい気持ちはある。そこでDomestic Cozyのコンセプトが入ってくる。
今後は自己表現を最大にできる自由にクリエイティブなコンテンツを作れるUI/UXでありながら、温かみのあるプライベートなスペース、そしてレトロなデザインにZ世代が寄り添っていく。そこの要素を取り入れたSNSやC向けブランド、そしてのちにB向け企業がZ世代から最も信頼されるブランド・会社となる。最近だとブランドを立ち上げる前にコミュニティを作るD2Cブランドも増えている。BubbleやVersedはその一例。
今現在はミレニアル世代を象徴するPremium Mediocreはまだ人気なので、そのトレンドに乗っても事業としては問題ない。逆にB向け企業はSuperhumanやAmieみたいに今まで以上にUI重視なデザインが求められている。ただ、今後のZ世代はミレニアル文化に対して拒否反応を示しているので、Domestic Cozy時代はすぐそこにある。その際に事業やデザインの設計はZ世代を理解して行わない限り、かなり厳しい。
今後もZ世代の傾向やトレンドを追っていきたいと思いますので、新しいアップデートがありましたらまた解説したいと思います。
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Written by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikirepo)
引用:
・https://www.youtube.com/watch?v=mkwjpzKnZ9E
・https://2pml.com/2019/12/06/henry/
・https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-one-trend-dominates-logos-big-tech
・https://www.ribbonfarm.com/2017/08/17/the-premium-mediocre-life-of-maya-millennial/
・https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-11-20/why-fashion-brands-all-use-the-same-style-font-in-their-logos
・https://www.vox.com/2017/7/27/16029512/sans-serif-lifestyle-font
・https://www.inverse.com/article/53091-millennials-largest-ever-perfectionism-study
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