見出し画像

【 現役Jクラブのコーチが語る、ベテラン指導者がハマってしまう落とし穴 】

━━━━━━ 140字じゃ語れないことがある

そんな思いを持っている方々の、それでも140字に詰め込んだ思いや感情、価値観を深掘るOFF THE PITCHの企画「140字じゃ語れないことがある」。

今回は、現役Jクラブアカデミーコーチである金川幸司さんをお招きしました。

長年指導をしていたり、自身のサッカー観や指導観が固まった方こそ陥ってしまう落とし穴と、そうならないための方法や考え方について存分にお話いただきました。

ぜひお楽しみください!

※インタビュアー:後藤 魁斗(ゴトウ カイト) / OFF THE PITCH Staff

画像1

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【 自分の指導を振り返ることができる “プレイヤーになる” という体験 】


◎後藤:

金川さん、よろしく願いします!


◉金川さん:
よろしくお願いします!


◎後藤:
今回は、こちらのツイートを深掘らせていただきます。

このツイートってどんな思いでされたんですか?


◉金川さん:
これは、私自身がとある講習会に参加した時に率直に思ったことでした。
プレイヤー側(選手役)として他の指導者の方の指導を受けることで、たくさん感じたことがあったんです。


◎後藤:
普段指導者をやられている金川さんが、プレイヤーとして指導を受けられたんですね!
具体的には、どんなことを感じたんでしょうか?


◉金川さん:
まずは、指導者としてするコーチングと、プレイヤーとして受けるコーチングには微妙な違いがあると改めて実感しましたね。
その講習会の中でプレイヤーとして様々なコーチングを受けるにあたって、「今の自分のプレーはここが悪かったのか。」「でも、自分としてはこういう意図があったのにな。」といったように、プレイヤー目線に立って選手の感情を味わうことができたんです。


◎後藤:
なるほど、それは確かに指導を受ける側じゃないとわからない気持ちかもしれないです!


◉金川さん:
いちプレイヤーとして「コーチングの時間が長いな、早くプレーしたいな。」と思うこともありましたし、一方でプレーしている側にはない視点で物凄く気づきになるコーチングをいただけたこともあり、存分に選手の視点に立つことができ、自分の指導を見直す良い機会となりました。


◎後藤:
普段指導者として活動しているからこそ、プレイヤーをやってみると選手の気持ちを再確認できたりしますね!
他にはどんな発見がありましたか?たとえば「フィジカル面」とか。


◉金川さん:
フィジカル面もありましたね!
正直、体力的に結構しんどいなと思うこともありました。笑

僕ら指導者は、そんなつもりはなくても選手のことをコマのように動かしてしまいそうになることはあると思います
でも、やっぱりサッカーは体力的にもかなりタフなスポーツであり、サッカーをするのは生身の人間です。

もちろん指導者として譲れない部分はあるかとは思いますが、1人の人間としてフィジカル面やメンタル面など、選手の立場に立って尊重する必要があるなと気付かされましたね。

画像2


◎後藤:
僕も、ちょうど今朝にFiCの活動で指導実践をしてきました。(※)
僕自身、プレイヤーとして他のメンバーの指導を受けたんですが、それこそ全く同じことを感じました!
コーチングを受けても「いや違う意図があったのに!」とか、フィジカル的にも「そろそろ休憩入れてほしいな!」とか、選手目線を存分に味わうことで気づくことができました。

※FiC(フィック)
OFF THE PITCH を運営するサッカー指導者コミュニティ


◉金川さん:
後藤さんも同じ感覚を体験されたんですね!
でも、いざ自分が指導する立場になると、どうしても選手の目線を忘れてしまったりしませんか?


◎後藤:
もうしょっちゅうで、反省の日々です…!笑
指導をしていると、どうしても前のめりになってしまいます。
自分なりに考えてきたTRがあって、落とし込みたいコンセプトがあって、それを伝えたいあまりにさっき述べたような「選手側の意図」や「フィジカル面」など選手の視点を忘れてしまい、余白のない指導になってしまったな〜と思うことが多々あります。

・・・それこそ、金川さんもこういうことってあるんでしょうか?


◉金川さん
今でもたまに、、
いや、しょっちゅうありますね・・・!


◎後藤:
金川さんもあるんですね!(ちょっと安心…!)


◉金川さん:
最近は、その講習会のこともあって以前よりも注意して指導するようにしています。
試合中やTR中には、選手にしかわからない「流れ」があるので、それを止めるようなことはしないように気をつけています。


◎後藤:
「流れ」ってやっぱりありますよね!
でも、実際の指導中はなかなかそこまで意識できないです…


◉金川さん:
もちろん、昔の私もそれはもう反省だらけで…笑
流れを気にせずバスっと普通に止めるわ、延々と長話をするわ、、本当に反省です。

それでも、日々自分のトレーニングをビデオ撮ってみたり、それを他の指導者の方などに見てもらったりしていくうちに、少しずつ改善されていきました。


◎後藤:
第三者からのフィードバックは絶対必要ですよね。僕も、日々それを物凄く感じています。


【 指導者の “やりたい” と、選手の “やりたい” 】


◎後藤:
これまでのお話から少し派生した質問です。
選手目線を思い出すことができた講習会の出来事も踏まえ、「指導者としての金川さん」と「担当している選手たち」との間での “ギャップ” のようなものって感じたことはありますか?


◉金川さん:
「年代」のギャップには悩んだことはありました。
私がやろうとしていたこと(やりたかったこと)が、目の前の選手たちの年齢には適していなかったんじゃないかというギャップです。


◎後藤:
あるんですね!「年代のギャップ」ってどういうことですか?


◉金川さん:
私の指導経歴として、「ジュニアユース→ユース」の流れを経て「ジュニア」を担当することになりました。
ジュニアを担当することになった時は、当然どのように指導すれば良いのか全くわからない状態でした。

私自身の教えたいことやクラブのスタイルもある中で、当時の私は「パス主体でボールを運んでいく」というサッカーを重視していこうとしました。

ただ、U12というのは “8人制サッカー” ができる最後の歳です。小さなグラウンドで少ない人数でサッカーをするからこそできることもあります。
自分で局面を打開するべくドリブルを積極的に仕掛けたり、どんどんシュートを打ったり。
たくさんチャレンジできる年齢でもあるからこそ、当時私がやろうとしていたサッカーというかスタイルは、必ずしもジュニア年代(U12)には適してなかったのかもと思っています。

画像3


◎後藤:
なるほど・・・
そういった、「年代に応じた適切な指導」って結構議論になりますよね?
金川さんとしては、こういった自身のサッカー観や指導観といった部分は、どのようにして確立されてきたんでしょうか?


◉金川さん:
前提として、まだ確立されているわけではないです!
日々勉強する中で、一歩ずつ自分なりの考えを持っていこうと思っています。


◎後藤:
金川さんのその姿勢が本当にすごいなと思っています!
金川さんご自身は、普段はどのようにサッカーや指導について学ばれているんでしょうか?


◉金川さん:
やっぱり、日頃対戦するチームや選手たちから学ぶことは大きいです。
また、国内のいろんなチームの試合を見たり、日本だけでなく海外のジュニア年代(U12年)のチームもチェックしています。

また、他の指導者の方々と話すこともすごく大事にしていますね。


◎後藤:
現場で学び、指導者と学び合う。
めちゃくちゃ基本ですが、結局これをどれだけできるかなのかなと思いました!


【 “山” だけしかない寂しい絵を作らないように 】


◉金川さん:
私には、いつも相談させてもらう指導者の方がいまして。
その方は「小学校年代というのはあまり1つのところばかり集中してやるんじゃなくて、本当にいろんなトレーニングをした方がいい」とおっしゃっていました。


◎後藤:
やっぱりそうなんですね!
金川さんが思う「いろんなトレーニングをする」ことの重要性ってどんなところにありますか?


◉金川さん:
たとえば、「育成年代の指導」というものを「真っ白の画用紙に絵を描いていくこと」とするとします。
そして、「(プロになるかどうかは置いておいて)一人の立派なサッカー選手になる」というこということが「絵が完成される」としましょう。


◎後藤:
ほうほう…!


◉金川さん:
育成年代(とりわけジュニア年代)でよくなってしまいがちだと思うのが、「 “山の絵” だけ詳細に綺麗に描かれているけど、空も芝生も家も虫も動物も人間も、その他の絵は真っさらになっている」という状態です。


◎後藤:
偏っているということですね。


◉金川さん:
もちろん、その絵自体は、いつまで経っても完成されるものではありません。
サッカー選手に終わりはないし、明確なゴールもないからです。

ただ、ジュニア年代では選手たちが「最終的にはどんな絵になるのか」という最終形を理解できるような指導をすることが重要なのかなと思います。

イメージとしては、山を完璧に描かなくていいから、すべての輪郭を描いてあげるような感じですね。年代が上がっていくにつれて、色塗りをしていくような。


◎後藤:
なるほど、めちゃくちゃおもしろいです!
ジュニア年代でドリブルばっかりするチーム出身の選手って、その後ジュニアユースにいくとチームとしてのプレーに適応できずに混乱してしまうなんてこともありますもんね。


◉金川さん:
そうですね。そうならないためにも、サッカーというスポーツの全体像を知っておく必要があるというか。
そうじゃないと、その選手がチームとして機能することがなくなり、チームとしての結果に貢献できず、結果として「良い選手」とは言えない選手になってしまう可能性もあります。
だからこそ、たとえ薄くても、ジュニア年代のうちに輪郭だけでも全体像を知っておくことは物凄く重要だと思っています。


◎後藤:
ありがとうございます!
この「絵の話」を、現場の話に落とし込むとどのようになるでしょうか?


◉金川さん:
私は、U12からU16まで「カリキュラム」がクラブによって組まれるべきだなと思っています。

|攻撃のスタートのビルドアップと、それに対しての前線から守備
|中盤を攻略することと、中盤の守備
|アタッキングサードと、ゴール前の守備
|トランジション

というのがゲームの流れとしてあると思うんですね。

それらの「項目」を、毎年少しずつ繰り返し行っていくカリキュラムが組まれていると、それぞれを5回繰り返せることになります。
U12〜U16の5年間で、あるときはサイドの攻防だったり、ある時はビルドアップであったりと。

そういう意味で私が感じているのは、たとえばビルドアップばかりを一年間ずっと続けるとかっていうよりかは、「週にビルドアップのトレーニングが1回入っていて、それを大体6週間ぐらい続けて、また次違う項目に行く」っていうのがその方法を身につけるのには適切な感覚なのかなと思ってます。


◎後藤:
なるほど!先の「絵」のたとえでいうと、

“ 最初の年で絵の全体の輪郭を書いて、ちょっとずつ色を薄く塗って、そこからちょっとまだ濃くしていって、最終的に綺麗な絵になる ”

みたいなってことですよね?どんどん上塗りして行くみたいな!?

画像4


◉金川さん:
完全にたとえ話ではありますが、そういうことだと思いますよ!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<ゲスト紹介>

◉金川幸司(カナガワコウジ)氏
|大宮アルディージャU12監督
・Twitter:https://twitter.com/Kanagawa0704?s=20
・note:https://note.com/kouji0704/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<運営紹介>

◎ 一般社団法人FiC
「WORK WITH PRIDE 〜誇りと共に働く〜」をコンセプトに、日本サッカー界で起きている様々な問題を解決するべく、サッカー指導者が総合的に学べるコミュニティ事業を展開。10代〜40代まで幅広い年代の、サッカーや指導に想いを持つメンバーが所属する。
現在は、関東圏のみならず関西、そして全国に200名以上の会員を抱え、サッカー指導者が学べる機会や情報のほか、会員一人一人のキャリア支援や、講演会をはじめとしたイベントの企画/運営も実施している。
2021年7月に大阪支部がスタートし、2021年秋には第6期生を募集予定。

▼お問い合わせはこちら↓↓

<作成>
◎構成/編集:八田 凌雅


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?