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人の居場所を造り出す組織開発

個人のキャリアを組織がマネジメントするとは、組織と個人が対話していくことだと思います。

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経営学におけるパーパスやビジョン、ミッションは、組織の未来を考えることでしょう。それは組織全体において思考された後、自身の属する部門において具体化され、そして個々人の行動にまで降りてくるものだと思われます。
一方で、個人の掲げるキャリア・ビジョンは、組織に規定されないことが原則でしょう。だから、今、属している組織が、自身のキャリア・ビジョンに合致しないと判断するのであれば、人は組織を移り変わるべきだと考えるのだと思います。
このように組織の未来と個人の未来は、本来的に別々のベクトルであり、その組織のベクトルと個人のベクトルが交わった瞬間にのみ、人はその組織に属することになります。しかし現実は、必ずしもそのようには機能していないのではないでしょうか。

未熟なキャリア理論

組織においては、経営学の発達によって、上述のとおり、パーパスやビジョン、ミッションなど、様々な概念が打ち立てられ、5フォースモデルやBRIO分析などといった経営手法も編み出されています。しかし個人に対しては、必ずしも、世界の叡智が届いていないように見受けられます。
確かに政府は、2011年より、大学(短大を含む)の全学部・全学科において、キャリア教育を必修としました。しかし、組織メンバーの個々人は、キャリア・オーナーシップを獲得していない、平たく言えば、自身のキャリア・ビジョンを描く能力をリテラシーとしていない状況が続いているように思われます。だから、組織メンバーに対して行われるマネジメントが、メンバー個々人のキャリア・ビジョンへの干渉にまで及んでいるのではないでしょうか。

移動の自由

キャリア・ビジョンが、個人の在り方の枠を出ることはないと思われます。だから、組織メンバーの個々人には、移動の自由が担保されなければならないと考えます。それは、組織が組織として存在できる最低限の条件でもあると思います。
すなわち、その組織に属するか、離れるかは、いつでも自由に個人が決定できるということは、組織が個人の生活基盤を形成するという一点で、個人のキャリア・オーナーシップをマネジメントできると考えることは許されないということでしょう。ましてや、十分に判断できない者を囲い込んだり、洗脳したりすることは、あってはならないことだと思います。

ジョブ型雇用とは

一方で、経営学における資源ベース戦略論においては、個人の在り方にも言及されます。その点で、個人のキャリア・オーナーシップに対するマネジメントの在り方を考えるのは、少し難しいかもしれません。
ただ、資源ベース戦略論は、その組織における個人の在り方を規定するだけと見ることができないでしょうか。換言すれば、その個人がこの組織に求められる人材かを評価するだけであれば、キャリア・オーナーシップと矛盾しないと思われます。
ただし、それは、「移動の自由」が、個人に与えられた権利であると同時に、組織にも認められた権利であることを了解する必要があることでもあると思われます。おそらくジョブ型雇用の本来の在り方は、このような組織と個人の関係性を理想とするものかもしれません。

発揮したい能力の発揮

このような環境を前提におくと、個人のキャリア・オーナーシップを実現するには、2つのことが重要であると考えます。
まず、自分の発揮したい能力を使って成果を出すことです。誰かに認められた能力でもなく、誰かとの比較において優秀とされた能力でもなく、ただ、自身が発揮したいと想う能力を成果に繋げることは、無条件に組織に従うことではありません。
自分の発揮したい能力を、自身の強みと認識できるようにすることは、それだけで自身の組織内における“居場所”を獲得することでもあるでしょう。

キャリア・ビジョンの解釈

そして、自身のキャリア・ビジョンを、組織の方向性と一致できるように解釈することです。これは、組織の方向性から、換言すれば、誰か(上司など)の期待から自身のキャリア・ビジョンを見出すのではなく、自身のキャリア・ビジョンの中に周囲の期待を位置づけるということです。
そのためには、キャリア・ビジョンを目標として、目的にはしないことです。例えば、甲子園出場が目的であったら、「80kgのバーベルを10回持ち上げろ」と言われても、「他にもっと楽な方法はないですか?」と聞いたり、回数を誤魔化す誘惑にかられたりするでしょう。しかし、甲子園出場が目標であったら、「これで甲子園に一歩近づけるんだ」と思い、一生懸命に取り組むことでしょう。
やるべきことが自身のキャリア・ビジョンに資するという実感こそ、今の仕事に対するモチベーションになるのではないでしょうか。

キャリア・オーナーシップをマネジメントする

おそらく、個人のキャリア・オーナーシップをマネジメントするとは、これら2つを軸にして、双方のベクトルが一致できるように、互いが対話していくことであるように思われます。
実際、体操の内村選手が「綺麗な体操を目指す」と言ったことや、柔道の古賀選手が一本背負いに拘ったことなどが想起できないでしょうか。そして同時に、たった1つの数値でしか評価されない陸上競技や競泳に、ビジネスをなぞらえてはいけないということも、感じられるのではないでしょうか。
個人と組織が、多様な視点で対話し、新たな第三極としての目標を持つことが、ビジネスの現場では、求められているように思われます。

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