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「理想的な職場は作らない」という組織開発

現代の若者が考える働きたい理想的な職場とは、「安定し確実な事業成長を目指している会社で、評価の良し悪しによって給与があまり変化せず安定的な収入が得られ、会社の持つノウハウや型を学ぶことで自らが成長でき、どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力が身に付く職場」となるようです。一方で、正反対な(最も嫌われる)職場は、「リスクをとりチャレンジングな事業成長を目指している会社で、評価の良し悪しによって給与が大きく変化し、個人が試行錯誤を行うことで自らが成長でき、その会社に属してこそ役立つ企業独自の特殊な能力が身に付く職場」だそうです。しかし、この回答には矛盾を感じます。
どんな組織であっても、安定を望みます。そして、そのために確実に事業が成長できるように努力しています。だからこそ、時にはリスクを取り、チャレンジングな事業成長を目指すわけです。リスクを回避し、チャレンジをしなければ、その事業(組織)は衰退していくだけでしょう。これは、官公庁や公的機関であっても同様です(ただ、衰退ではなく腐敗ですが…)。
また、事業の成長はもとより、個人の成果の有無にかかわらず規定の給与を払い続けることは、いわゆる年功序列型となります。しかし、このような前例踏襲型経営で成長が担保される時代ではありません。ただし、組織メンバーのチャレンジを促す意味で、すなわち失敗が将来におけるハンディキャップではなく、有効な資産であると捉えるための施策であれば納得することができるでしょう。その場合、チャレンジしないことがマイナス評価になり、組織メンバーのプレッシャーは、単純な成果主義よりも厳しくなると思われますが…。
さらに、仕事を通じて身に付けるスキル・ノウハウが、汎用的であるか組織固有のものとなるかは、本人の問題であると言えます。誰もが有するスキル・ノウハウがなければ、どこでも評価されないでしょう。しかし、それが在るからと言って、評価がプラスに作用することはありません。マイナスではなく“±0”となるだけです。したがって、誰もが有するスキル・ノウハウに、何某かのプラス要素が必要になります。それは、往々にして組織固有のスキル・ノウハウであったりするものです。例えば転職市場を考えても、他社固有のスキル・ノウハウがなければ、その人物に魅力を感じることはないでしょう。プラットフォームとなるスキル・ノウハウは、どの組織でもメンバーに付与するからです。必要なのは、それにプラスした能力を、汎用的な能力に転換させる発想力であり、そのためには自らが試行錯誤するほかはありません。それを否定するのであれば、今の職場で求められるスキル・ノウハウを、ただそこで活用することだけを目的に磨くことが賢明でしょう。
にもかかわらず早期退職する若者は、「ここではこれ以上成長できず、周りに遅れてしまわないか不安になり、もっと自分に合った職場があるかもしれない」と思うようです。そもそも成長とは、「昨日できなかったことが、今日、できるようになる」ことです。周囲がどうであろうと、自身に成長実感がなければ、どの職場に行っても変わらないでしょう。だから、自身で成長実感を持つために、自分はどのように在りたいのかを明確にする必要があるのです。将来のビジョンに対し「確かに一歩前に進んだ」という実感を持つ以外に、成長実感を持つことはできません。いずれにしても、「成長できない」「周りから遅れていく」という感覚を解消する方策は、誰か(周囲の人あるいは組織)が与えてくれるものではないのです。
そうは言っても、優しい組織は、このような若者に寄り添おうとします。そこで『1on1』と呼ばれる面談技法が、多くの組織で採用されています。しかし、表面的な制度をいくら取り繕っても、それだけで効果を期待することはできません。例えば1on1を、上司・部下だけではなく、ブラザー&シスター(2~3年上の先輩社員との対話)などに拡大して行う組織なども散見されますが、所詮は制度(カタチ)だけ整えているに過ぎず、手間(金銭的コスト・労働時間の制約コストなど)をかけるだけという結果に陥っているように見受けられます。
1on1を効果的に実践するためには、被面談者のマイナス思考を面談者が受け止める(励まさない)、辞めたい気持ちを受け止める(引き留めない)といった、基本的な傾聴姿勢で臨み、成長実感を与えるような関わり行動である必要があります。そのためには、最低限の知識とスキルが必要になります。また、年に数回の与えられた“場”で解決しようとするのではなく、日常的な行動の中で実践されることも、同時に求められてきます。
実際、1on1に対する若者の思考は、その制度をネガティブに捉えている(面倒くさい・必要ない)か、ポジティブに捉えているかで、効果に大きな差が生じます。とくにネガティブに感じる人は、「(1on1が)出来ないことや課題を話す機会」と捉える傾向があり、そうではないことを納得させることから始める必要があります。にもかかわらず、面談者(上司や先輩)自身も、1on1を同様の機会だと考えているケースが多数あります。だから、自己肯定感・自己効力感が低いと、そこにフォーカスしてしまうため、余計に1on1が機能しなくなるわけです。
本来、理想の仕事は“どこかに在る”のではなく、自らが目の前の仕事を理想の仕事に“変えていく”ものです。その視点に立てば、自身の属する組織は“理想の職場”になっていきます。そして、それを実践できる者は、自身のビジョン(欲求)に従った職場の変更が、自らの“成長”となっていくのでしょう。そして、このような自分になるためには、努力や能力が必要なわけではありません。ただ、自身の在りたい姿(それには、良いも悪いも、高尚も低俗もありません)と真摯に向き合うことだけが求められているのだと考えます。

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