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ウソやごまかしによる仕事上の悪影響

正義とか倫理とか誠実さを語りたいのではなく

先月まで企業のコーポレート部門に所属していた。

内部統制やガバナンスがしっかりした会社なので、問題になる事例はまったく無かったが、顕在化しないレベルで、些細なことが気になっていた。
ほんとうにどこの企業・団体でも転がっているような、地味な話である。

ウソやごまかし、その場しのぎはやめた方がいい、という話。

子どもの頃から言われていることで、何を今更、と思われるだろうが、大人になっても、小さな嘘をつく人はいる。

そのことについては、非難しない。その人が信頼を失うだけである。

ただ、プライベートならいいけれど、仕事上で嘘をつかれると、自分にも影響が出るので、やめてもらいたい、と思うことが稀にあった。

ウソやごまかし、その場しのぎの悪影響は、端的に次の3つだと思う。

  1. すぐにバレるか、あとでバレる

  2. 筋の悪い選択肢が増える

  3. 当人が、ウソを本当のことだと思い込み始める

この3つを野放しにしていると、会社全体でスピード感が無くなる。判断が揺れ始める。対策や管理のためのコストが増える。従業員同士で疑心暗鬼になる。いたちごっこである。本当にやめた方がいい。

1.すぐにバレるか、あとでバレる。

不正は往々にしてバレる。よっぽどの手練れでなければ、基本的に職場で嘘やごまかし、その場しのぎを試みる人は初犯である。

対する管理職や、コーポレート部門には長年の知見がある。すぐに見抜かれるか、あとでバレる。そうすると、そいつをブラックリストに載せないといけなくなる。

しかし、稀にばれないこともあって、すり抜けてしまうこともある。そうすると次の悪影響につながる。

2.筋の悪い選択肢が増える

あとでバレるバレないの話ではなくて、当人の中で、選択肢が増えてしまう。しかも筋の悪い選択肢が。

何かを検討するとき、選択肢を増やすのはいいけれど、判断するときには、1つに決めないといけない。

ウソをつく、ということは、それこそ無数の選択肢を自分の中で増やす行為である。判断のスピードが下がる。迷いが生じる。

そして、ウソをついたら、いつ誰にどんなウソをついたか、覚えておかないといけない。つじつまが合わなくなるからである。面倒を背負いこむことになる。そして、次の悪影響につながる。

3.当人が、ウソを本当のことだと思い込み始める

ウソやごまかしをした当人が、いつからか、それを本当のことだと思い込み始める。心理学でいうところの「認知的不協和」である。

認知的不協和とは、2つの認知のあいだに矛盾が生じると、放置できずに行動や思考を合理化させる(自分で合わせに行く)。

なので、ウソを本当のことだと思い込み始める人は、わりと気弱な人が多い気がする。ほんとうの悪人は、ウソはウソであるという認知を揺らがせない胆力がある。

【事例】これは経費で落ちません! 5巻。三波愛実

事例というか症例を一つ紹介する。

「これは経費で落ちません!」は、青木祐子によるお仕事系小説で、2023年10月現在で10巻が発行されている人気シリーズである。
NHKでドラマ化もされた。主演は多部未華子。続編の制作も予定されていたが、キャスティングのトラブルで中止したことでも話題になった。

この小説、天天コーポレーションという石鹸メーカーが舞台で、副題に「~経理部の森若さん~」とあるとおり、森若沙名子という経理部社員が主人公である。

仕事の中で、少しずつズルくなる営業部社員や、取引先からの入金を着服する秘書、私物で利用するものを経費処理する広報課長、そのどれもがリアリティがあって面白い。コーポレート部門所属の社会人におススメである。

5巻に三波愛実、という人物が登場する。元キャビンアテンダントで、マナー講習の講師をしている会社経営者。この人物に天天コーポレーション総務部の平松由香利はお金を貸している。全部で百万円。

由香利は愛実に金を返してくれ、返済してくれ、と切り出せない。華やかな世界で活躍する愛実に魅力を感じており、由香利は関係を維持したいと思っている。

徐々にふたりの力関係は変わり、愛実は返済を突っぱね、むしろ金に困っている由香利にいくばくかの施しを与える憐み深い人間、のようにふるまうようになる。意を決して返済を迫る由香利と、愛実のやり取りがある。

「困ったなあ……。仕事をもらえるなら、貸してあげてもいいけど」
 愛実はきれいな眉の間に皺を寄せて、ため息をつくように言った。
 貸す。貸すとはなんなのか。返すの間違いだろう。
「仕事の話は別にして。もう新しい仕事は無いから」
「だったらこれ以上は払えない。本当に悪いと思うけど。由香利ちゃん、そんなに仕事が大事なら、お金は会社の同僚に借りればいいと思う」
 由香利は目を丸くする。なぜ、愛実にお金を貸して、由香利が同僚からお金を借りなくてはならないのか。そんな理屈か通るのか。

「これは経費で落ちません!」5巻
108-109ページ(集英社オレンジ文庫)

愛実の口ぶりは詐欺師のごまかしのようにも思えるが、由香利にお金をせびられている自分、と信じ込んでいるフシがある。嘘をついた人間が、認知的不協和によって歪んでいく事例のように思われる。

正直であることは効率的だしコスパがいい

よって、ウソをつくことは、やめた方がいいと思う、という結論に還る。

もし、出来心でウソやごまかしをしたら、正直に誤り、周囲の同僚といっしょにリカバリー案を練って、再発防止に努める。会社側は、よほど信用回復が困難なレベルでなければ、名誉挽回のチャンスを与えること。

仕事の生産性向上のコツは、案外こうした地味なポイントな気がしている。

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