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【実学研修_2023年度Vol.1】受講生が企業・団体などとともに社会の実課題に取り組む「実学研修」の様子を紹介します

One Earth Guardians育成プログラムの活動の一つに、社会とのかかわりの中で課題を見出し、解決する力を培うことを目的に、学生が産業等の現場に赴いて、産官学連携で社会の実課題に取り組むインターンシップである、「ワン・アーソロジー」実学研修があり、受講生にとっての必修科目にもなっています。

▼「ワン・アーソロジー」実学研修について
https://www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp/activity/training/

2023年度中には12件の活動が行われ、30名の受講生が参加しました。2018年の開始以来、参加する学生の数とともに、ご協力いただく企業や団体の数も年々増えてきています。
活動テーマも「持続可能な森林」、「サーキュラーエコノミーの実現」、「食品ロス削減」、「畜産と地域循環」、「地域の関係人口をはぐくむ」など、多岐にわたっています。

今回は、2023年度実学研修紹介Vol.1として、5件の活動の様子を、参加した学生のレポートで濃縮してご紹介します!



サステナビリティ教育の現場を知る | 公益社団法人MORIUMIUS

実学研修テーマ:自然の中で循環する暮らしをこども達に届け、関係人口を育みながら町の未来をつくる
実施企業等:公益社団法人MORIUMIUS
執筆者:成川 央庸(農学部 緑地環境学専修 学部3年)※2023年度当時
#サステナビリティ #関係人口 #子どもの学び #宮城県石巻市雄勝

雄勝に滞在して現地での活動に触れた

まずは現地での教育の実際を知るため、宮城県石巻市雄勝町の複合体験施設「モリウミアス」に滞在して、1週間ほどのプログラムのサポートに携わりました。その後は、現地での学びを遠方でも体験できるように家庭栽培キットの提案を行いました。

モリウミアスでは、地元で穫れた食材を調理し、残り物は家畜の餌、堆肥となって、巡り廻って山や海に還る、そんな循環型のくらしが実践されていました。その中で、プログラムに参加する子どもたちは自然と人間のかかわりについて学ぶとともに、親元を離れて過ごす1週間で成長していました。持続可能な社会を実現するにあたって、自然を愛し、主体的に行動できる次世代を育てるという、教育の意義について理解を深めることができました。

一方で、参加者の多くが首都圏など、都会で日頃生活していることから、モリウミアスでの学びを継続して生活に取り入れていく難しさも感じました。それを踏まえて、「サステナビリティを日常に取り込む」というテーマのもと、、プログラム中に製作した竹の容器や、施設内で作られている堆肥など、モリウミアスで作った材料を使用した家庭栽培キットをお土産にすることを提案しました。

提案の過程で、サステナビリティに関する我々のメッセージを子どもたちにどうすれば伝えられるのか、その難しさも痛感しました。

地球環境の保全には次世代の教育が欠かせないという課題意識を出発点に、今回の研修に参加しましたが、その教育の現場を目の当たりにするとともに、様々な課題もより明確に把握することができました。今回得た知見を踏まえて、持続可能な未来につながる提案をしていきたいと思います。


循環型畜産を体験する | 株式会社重次郎 中屋敷ファーム

実学研修テーマ:地域における循環型畜産の取組み現場を通して、肉牛生産の持続可能性を考える
研修実施企業等
株式会社重次郎 中屋敷ファーム
執筆者:山﨑 美怜(教養学部 理科二類 学部1年)※2023年度当時
#畜産 #肉牛 #国産飼料 #岩手県雫石町  

毎日の牛のエサやりなど畜産農家の生活を体験

肉牛生産の持続可能性を考えて循環型畜産と飼料の国産化に取り組んでいる岩手県雫石町の株式会社重次郎中屋敷ファームのもとで、実学研修を行いました。2週間の研修の中で畜産現場を体験したり、子牛市場を見学したりし、色々な方々と関わらせていただきました。これまで畜産に興味はあったものの 、実際に現場に関わったことは無かったため、生産者の視点から畜産業を見たいと思い参加しました。

子牛の世話は肉体的な大変さだけでなく、命を扱うという点で集中力が必要だったり、ミルクの量や栄養の量の調整が難しかったりと想像以上に大変でした。

国産飼料の生産現場も見学し、乾燥させすぎないようにしたり、一日置いて発酵させたりと中屋敷ファームの皆さんが考え抜いて飼料作りをしていることが分かりました。また、現在感じている畜産業の問題点やについても伺うことができ、自分が持ち合わせていなかった視点から物事を見ることができました。例えば、飼料作物の予想外の高騰や経営者の減少など、様々な障害が原因となって経営の持続可能性が揺らいでいる現状がありました。

自分自身は食の流通や貿易といった、生産現場とは少し離れた分野に興味を持っていたのですが 、実際に食品を作っている方々の思いや悩みを聞いたり、自分で体験したりすることで初めて、生産現場で生まれる熱い思いや商品として売るために納得のいかないことでもやらねばならないという葛藤があることが分かり、「現場」に行く大切さを感じました 。

生産者と消費者を近づけるにはどうしたらいいか、商業的な意味も含めた持続可能な畜産業とは何かをこれからも考え、行動していきたいです。


植物の干ばつ耐性を複数の視点から考える | アクプランタ株式会社

実学研修テーマ:Skeepon使用時における植物体の干ばつ応答性を時系列で評価する
実施企業等
アクプランタ株式会社
執筆者:櫻井 建吾(農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 博士2年)※2023年度当時
#植物 #農業 #干ばつ耐性 #画像解析

植物の様子を観察

私は植物の干ばつ耐性を高めるための農業用植物活力剤「Skeepon」の製造および販売を行っているアクプランタ株式会社で実学研修を行いました。

Skeeponは多くの植物種に対して干ばつ耐性を付与できる優れた製品ですが、Skeepon投与後にどのタイミングで植物体に再度水やりを行うべきかという再潅水のタイミングが不明瞭となっていました。再潅水のタイミングとなる指標の探索を目的として、自身が研究で取り組んでいる画像解析技術を活用した手法をアクプランタ株式会社の方々と協力して考案し、実験に取り組みました。

私は、選抜と交配を繰り返すことで優れた品種の作出を行う育種の研究を行っており、育種による作物の干ばつ耐性の上昇を目指していました。同じ干ばつ耐性であっても、「育種」と「Skeepon」という異なるアプローチがあることに興味を抱き、実学研修を始めることになりました。

一から課題を探し解決策の考案および検証を行っていたため、多くの失敗を繰り返しましたが、その度に金社長や社員の方々と議論しながら課題および解決策を考案し、企業における研究のトライアンドエラーを経験することができました。最終的には、再潅水を行うべきタイミングの指標として、時系列で画像を比較した際の植物体の萎れ具合を活用できることが分かりました。

自身の考案した指標は、実験レベルでは十分な有用性を示しましたが、実際の畑で使える技術へと昇華させることを考えた場合には、まだまだ大きな壁があることを痛感しました。実用性ばかりを考えすぎることも研究の幅を狭めるため良くありませんが、常に実用化を頭の片隅に置きながら研究を行うことの重要性を学ぶことができたと思います。


微生物技術を環境ビジネスへ取り込むために | 株式会社ダイセキ

実学研修テーマ:サーキュラーエコノミー実現に向けた微生物利用の可能性を探る
実施企業等
株式会社ダイセキ
執筆者:日浦 萌々音(教養学部 理科二類 学部1年)※2023年度当時
#微生物 #循環型社会 #環境浄化 #廃棄物処理

ダイセキ社員の方と実験に取り組む

株式会社ダイセキは、産業廃棄物を処理・リサイクルし、有用資源へ活かすなど、持続可能な社会の実現に貢献する事業を展開されている環境創出企業である。本年度は「サーキュラーエコノミー×微生物×ビジネス」をキーワードとし、前述のテーマを満たす提案を行うことを目標とした。

名古屋事業所での工場見学や営業・技術に携わる方とのディスカッション、事業所の設備(活性汚泥など)を用いた実験を行い、オンラインでも議論を重ねた。

本実学研修では、環境ビジネスの考え方や微生物を用いた環境浄化技術に関する理解を深めることができたと感じている。環境ビジネスについては、市場やコスト、様々な階層での課題(世界、日本、企業)など多岐に渡った検討事項を具体化していく方法を学んだ。また、微生物を用いた技術については、最終ゴールを達成するために小スケールの実験で検証すべきことを考えていくプロセスが少しずつ明確化されたと実感している。

半年間、多方面の方が関わるミーティングや実験の実施、そして提案発表会での建設的な議論を通じて学生の提案を理論・実践の両面で検証する場を提供していただき、大変学びの多い経験となった。一方で、自らの基礎知識不足、そしてサーキュラーエコノミーという概念の抽象性ゆえ、微生物を使って現状の課題のどの部分にどのようにアプローチするかついて具体化する困難さも実感した。

次年度以降は、引き続き知識の習得に努めるとともに、サーキュラーエコノミーなどの地球環境問題に関わる概念に対する解像度を上げることで、広い可能性を持つ微生物をより実現可能性の高い環境浄化技術へ活かしていく方法を考えていきたい。


自分の目で林業の課題を確認する大切さ | 住友林業株式会社

実学研修テーマ:森林との持続可能な未来を考える
実施企業等
住友林業株式会社
執筆者:田中 暖乃(農学部 生物素材化学専修 学部3年)※2023年度当時
#林業 #植林 #育苗 #森林管理

富士山麓での森林再生活動の現場を見学

私は大学の講義で日本の森林の現状について教わったことをきっかけに林業に関心を持つようになった。樹木の二酸化炭素吸収能は樹齢50年あたりから伸びなくなるため、伐採と植林のサイクルが重要であると初めて知った。そして何よりもショックを受けたのは、林業従事者に対する補助が十分でなく、また、木々の管理が大変なために、伐採はしても植林を行わない事業者が存在することだった。

大学の講義で林業の課題を知ることはできるが、その深刻さを想像することは難しい。現地を訪ねる必要があると考え、住友林業株式会社の力をお借りして実学研修に取り組んだ。

愛媛県新居浜市にある社有林を訪問し実際に植林地を歩いてみると、雑草が生い茂っているためにスギの苗木を見つけるのはとても難しかった。また、広大な土地の境界に沿って獣害対策のネットが張られていて、中には傾斜が急なところもあったため、その労力はどれほどのものか想像しながら見学した。

ほかにも人工林・天然林・再造林地を歩く機会をいただき、それぞれの様子や樹種の違いを目で見て感じることができたのはとても良い機会であった。さらに、筑波研究所の見学では、住友林業の育苗に関する研究や木造建築物のための構造材の開発成果などを紹介していただいた。

大学で講義を受けているだけでは知ることができなかった林業従事者の苦労、具体的には、苗木を避けて下草刈りをしたり狭い作業道で林業機械を駆使して伐採や運搬を行ったりすることの大変さを学ぶことができたため、実学研修に参加して良かったと思っている。

解決したい林業の課題はたくさんあり、解決策の案を磨き提案することは難しいが、これからも継続的に考えていきたい。



2024年度は企業・団体の数がさらに増え、これまでにない新しいテーマの活動も生まれています。
【Vol.2】の記事では、学生発案で行われている3つの実学研修を紹介しています。そちらも、ぜひご覧ください!


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