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アートの届け方・福祉の届き方

夏のような日差しだった5月25日、緊急事態が解除されるムードの中、美しい空を眺めていて、ふと、アートがなぜ生まれたのかを考えていました。

2月26日に文化・スポーツイベント自粛要請が出され、そこからの3ヶ月間には、芸術文化について様々な窮状や応援の提案が出されてきました。それぞれ、アートのどの部分に対しての発言かを考えてみると、<商業的に成立させる興業システム>や<次世代との間で受け渡される伝承>など、その焦点は多岐に渡ります。今、ジャンルに関わらず人々は、同じ空間で体験を共有すること、集会および身体交流の機会が失われています。

アートの本質:表現を生み出す根っこの力、には影響はないかもしれませんが、もし他者に届けられないとしたら、これまで育まれてきたアウトプット方法は消えていってしまうでしょう。お客さんが来ないとお店が閉店するのと同じです。ですので、今多くのアーティストが新たに安全に届ける方法を根気よく模索していると思います。

そもそもなぜアートが発生したのだろう?

美しい空、美しい鳥の声、美しい獣の動き。それらに感動したことを、他者に伝えたい。誰かに伝えたいために再現を試みる。その様子がアートと分類される行為になったのではないか、はそんなふうに考えています。音楽、舞踊、絵画、文学、演劇と、その方法は発展し、ギリシャ時代から現代までなくなることなく続いてきました。

ひとには生まれながらに再現したい欲求があるのでしょう。赤ちゃんが”いないいないばあ”を何度も要求し予想通りになると喜ぶ様子が、演劇の基本であると伺ったことがあります。
おそらく、アートで何かを伝えるというのは最終的な見え方であり、今ここにない何かを共有したくてアートが生まれるのだと思います。したがって、アートには交流が必須です。

もちろん全てありのままでよいのです。
イメージから再現された絵やダンスではなく、リアルに空を見上げればよいし、美しい獣を見ればよい。ありのままの身体の限界をそのままに、そこに存在しているだけでよい。
それでも、何かを再現して他者に伝えたい、交歓したい、という欲求が生まれてしまう生き物がヒューマンビーイングなのではないでしょうか。

交流の喜び

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この写真は2月24日に開催したイベント「あしおとの輪のまつり」で、まったく初対面の参加者がタップダンスという新たな言葉を使って交流したのち、チームごとの創作を試しに発表しているひとこまです。みな興味津々に他のチーム発表を見つめています。

前の記事で福祉施設のタップメンバーの成長物語を紹介しましたが、タップによる交流の喜びから次の学びが生まれ、それが仕事にまで発展してきました。その成長速度から思うに、彼らにとっての障害とは新たな経験の喪失であったのかもしれません。余暇活動として提供されてきた「あしおとのわ」ですが、「場」を継続するうちに福祉的なサポートとしても成長し、一般参加者が今の福祉支援のあり方を考え直すきっかけにもなってきました。さまざまな立場から、アートを通した交流機会の意義について声をいただき、以下では小学校の先生のご感想なども載せています。

情報通訳の標準装備で拓く、アフターコロナ

そもそも福祉は、各人のこうありたい、というところをサポートする姿勢といえます。子育て中だが仕事をしたい、目が悪いが本を読みたい、平均的な人たちと同様に日常的に入出力したい!という要求をサポートする。
さて、サポートとはなんでしょうか?

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一般的には通訳がわかりやすいかと思います。
外国語でも手話でもその場でパッと通訳してくれる方がいると、双方スムーズに交流することができありがたいですね。外国語も手話も堪能でないのは私の方なのですが、このとき、話を聞こうとしている相手もサポートされています。
ユニバーサルサインや点字、目の動きから文字入力できるシステムなども、通訳ツールといえます。片方に提供されているように見えるサポートですが、それがあることで双方が感じたことを共有しあえるのです。
例えばこのコロナ下で、飲食店のテイクアウトやデリバリーサービスのマップがさっと提供されましたが、必要に迫られると、情報共有方法もパッと変化するのですね。こんな風にさまざまな通訳ツールがいき届いたら、誰にとっても暮らしやすく、誰にとっても交流しやすくなることでしょう!

福祉現場での支援者の役割も、通訳といえます。言葉にしづらい気持ちを伝える方法を提示したり、箇条書きなどに情報を整理したりすることで、互いの理解がスムーズになり、働くという交流が生まれています。働くとは、他者との関係性が必須の言葉です。

実現しづらいことを実現する道のり

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