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おもひでボロボロ

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ボロは着てて心もボロ
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2019年3月の記事一覧

王子とじいや

王子とじいや

人は、いくつぐらいから物心がつくのだろう。

少なくとも僕の意識がはっきりし始めたのは、保育園児の頃。

ヒナ鳥は初めて見たものを親だと信じ込むというが、自分の保育園の送り迎えを担当する老人に親近感を覚えたのは、自然なことだろう。

白髪に四角い眼鏡をかけて、暖かい服を着て、いつも草木や花に水をやっていて、笑顔で頭を撫でてくれる人。

おじいちゃんは、僕が生まれた時からおじいちゃんだった。

とに

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兄と卓球部と私

「何かスポーツやってました?」

と聞かれると、脇に嫌な汗をかく。

そう聞かれた時は、「高校の時は弓道をやってましたね」と控え目に答えることにしている。弓道は武道だから、硬派かつ知的なイメージがあるのだろう。大抵好印象だ。

まあ、中学時代は卓球部だったのだが。

卓球。それは、身の毛もよだつ戦慄の言葉。

この世には『行け!稲中卓球部』というヒット漫画があるのだが、私は読んだことがない。笑い事

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北陸先端科学技術大学院大学の由縁について

北陸先端科学技術大学院大学の由縁について

石川県能美市辰口町―

昭和で時間が止まっているようなのどかな風景の中、旭台という丘の上にそびえる秘密基地のような建物。

それが、私が採用になった北陸先端科学技術大学院大学、通称、JAIST。

理系の大学なので、夜になると田舎の真っ暗な闇の中に煌々と明かりが点っており、最初に見た者は皆「あの怪しげな建物は何だろう?」と思うものだ。

「先端科学技術」の「大学院」なのに、何故こんな辺鄙な山の中に

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晴れやかな無職

「感情は、大事だよ」

大学4年、卒業を控えた年明けに、ゼミの担当教官から言われた、今でも胸に刻まれている言葉である。

在学中に受けた公務員試験は全て落ちた。民間企業は一社も受けていない。

このまま卒業すれば既卒扱いとなり、民間企業への就職は途端に厳しくなる。

それならば、何だかんだと理屈をつけて留年し、新卒の身分を維持することが、将来の可能性を広げるという意味では合理的な判断である。

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