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徒然なる想い その九〜パソコン or スマホ論争〜

 note に限らずインターネット上で話題となる議論の一つに「パソコン or スマホ」があるのではないだろうか。実際に、note で「パソコン スマホ」と検索をかけてみると、この手の記事は数多く出てくる。折角検索をかけたため、講義の空き時間を利用して一部の方の note を読ませて頂いたところ、この議論に対する考え方は多種多様であるという印象を受けた。スマホはインプット機でパソコンはアウトプット機であるという考え方や、スマホの方が万能性高く使いやすいという考え方など本当に様々である。色々な方の考え方に触れていると、結局のところその人の使い方や状況によって考え方はいかようにでも変わるものだと思わざるを得なかった。私は普段からこの note をパソコンで書いているし、また日常的に Excel などの表計算ソフトや生体分子の構造を可視化するソフトなど変わったものも使うため、パソコンがなければ何もできない人間である。そのため、私の使い方から考えればパソコンは必要不可欠なものと言わざるを得ないが、全ての人がパソコンを必要不可欠なものとは見做すとは限らない。そんなわけで、今更私が「パソコン or スマホ」論争に加わったところで特別言うことなどないと思っていた。

 しかし、最近になってふと思ったことがある。それは、「パソコン or スマホ」と二者を分離する前提がそもそもナンセンスなのではないかということだ。このように思った理由としては、先述したパソコンをアウトプット機としてスマホをインプット機とする考え方に賛同しているという部分もあるが、決してこれだけの理由ではない。このアウトプットとインプットの使い分けは飽くまでも消費者目線であるが、開発者目線としてもパソコンとスマホはともに影響を与えるものとして捉えられているのではないかと思う。勿論、私は開発などというものには全く明るくないため、本当に開発者がこのようなことを考えているのかどうかは分からない。しかし、ここ最近のパソコンの変化を見ていると、パソコンがモバイル端末の性質を取り入れていると感じざるを得ない。例えば、Windows10 では当たり前のように搭載されているタッチパネルは、昔の Windows(Me, XP など)の感覚からすれば考えられないものである。私が小学生の頃であれば、学校には必ず Windows XP があったものだが、どこまで行ってもキーボードとマウスで操作するものであった。しかし、Windows8 からタッチパネルが一部登場し、Windows10 や Windows11 に至っては指で操作することが別段不思議なことでもなくなった。また、UI(User Interface)もどちらかと言えばスマホに近いものになってきている。UI の変化という点では MacOS にもまた同じことが言える。Finder や Safari, 写真などの UI は現行のものと以前のものでは異なっている。Safari や写真の UI は iOS と統一されており、パソコンとモバイル端末の壁が余り感じられない仕様になっている。他にも、Mac では Apple ID さえ共有しておけば、電話とショートメッセージを受け取れる仕様になっており、モバイル端末でしかできなかったことをパソコンでできるようにしている。この機能はかなり便利なもので、私はよく利用させてもらっている。……挙げれば切りがないのだが、Windonws, MacOS ともにパソコンという枠組みに囚われずスマホからの影響を吸収していることが窺われる。特に Windows はこの傾向が顕著に感じられ、パソコンでモバイル様の使い勝手を追求しているように感じるのは私だけではないだろう。

 今まで述べてきたことは全てスマホからパソコンへと向かう影響であるが、パソコンからスマホへと向かう影響にはどのようなものがあるだろうか。スマホからパソコンへと向かう影響に比べて特別目立った変化を挙げられないのだが、少なくとも iOS は MacOS との連帯を強化するために変化してきたのではないかと思う。例えば、Mac の Keynote でプレゼンテーションをする際は、iOS 端末をリモコンとして利用できる仕様になっている。また、紙の文書を pdf ファイルとして取り込みたいといった場合はスキャナを使用せずとも、iOS のメモアプリを使って文書をスキャンすることも可能となっている。このように、従来であればパソコンと+α(プレゼン用リモコン、スキャナーなど)の道具で行っていたことも、パソコン+スマホで行えるようになってきている。勿論、これはスマホだけではなくパソコンの OS も変化させる必要性があるのだが、スマホがパソコンと決して独立した存在ではないことを窺うことができる。ちなみに、スマホということで話を進めてきたが、話の対象にタブレットも加えると話はもっと変わってくる。タブレットの方はモバイル端末でありながらも、パソコンのような使い方も部分的にできるように変化している。昨年度の iPad Pro に MacBook と同じ M1 チップが搭載されたことから、単にモバイル端末を改良しようというベクトルではなく、モバイル端末をパソコンに近づけようというベクトルを感じる。これは、まさにモバイル端末がパソコンの影響を受けていることを示す例だろう。以上の話は全て Apple の製品に関する話である(最近の Android 端末は詳しく分からないため、十分な根拠を挙げられない)が、少なくとも iOS 端末は MacOS とともに変化してきたことが分かる。つまり、MacOS が iOS に影響を受けながら変化してきたように、iOS もまた MacOS の影響を受けながら変化してきたのである。従って、開発者視点からすれば「パソコン or スマホ」の二項対立的な UX(User Experience)ではなく、「パソコン and スマホ」の UX を追求しているのではないかと考えられる。

 このように開発者の視点に立って考えてみると、屡々議論の対象となる「パソコン or スマホ」という問題提起の構図が余り正しくないのではないかと思える。パソコンとスマホは同じデジタル機器として互いに影響を与え合う存在であり、「パソコン and スマホ」という議論にこそ未だ見ぬ発見が潜んでいるのではないだろうか。勿論、このような物言いをしてしまえば、当然批判も受けるだろう。特にパソコンを不可欠としない方からすれば、「パソコン and スマホ」の議論に何の実りも感じられないのは当然のことである。しかし、「パソコン or スマホ」の議論は最初に述べた通り、その人の使い方に依存するところが大きい。ここで、一度消費者としての目線に戻ってみよう。例えば、「note を書くのはスマホのフリックで十分、もし不便なら音声入力を使えば良い。note の執筆や軽い情報検索、写真撮影など全てスマホで完結できるから、スマホ1台があれば十分である。」という方がいたとしよう。この方のスマホで何でもできるという意見は確かに正しさを含んでいて、極端なことを言えば折りたたみ式キーボードを使って Excel で初歩的なデータ処理程度までならできる(気がする)。しかし、この話はどこまで行っても或る個人がそうだという話に過ぎない。これまた極端な例だが、Excel を使って図 1 及び図 2 のような感染症シミュレーションを行う(注 1 )状況を仮定した場合、スマホではなくパソコンを使うのが普通である。パソコンであれば一時間もかからずに出来上がるが、仮にスマホを使えば数時間はかかるだろう。このようなことは誰もが分かっていることであるため、日常的に Excel を使う人であれば、パソコンかパソコンに近いタブレットを使う。このことから、「パソコン or スマホ」の議論はその人の使い方次第ですねで話が終わってしまうのである。消費者目線に戻って考えてみても、「パソコン or スマホ」の議論はそもそも底が見えていることが分かる。すなわち、「パソコン or スマホ」の前提を持ち出してしまうと、この人はこういう使い方なんだなというところで話が終わってしまう。こうなってくると、これは議論ではなく個人の体験を語っているに過ぎなくなってしまう。従って、「パソコン or スマホ」で個人の体験を語る一方で、「パソコン and スマホ」でデジタル機器の潜在的な可能性を探し出して行くことも必要なのではないかと考える。

図 1 Excelによるシミュレーション画像①
図 2 Excelによるシミュレーション画像②

 長ったらしく「パソコン or スマホ」論争に対して批判的なことを述べてきたが、私個人としては「パソコン or スマホ」の構図が完全に間違っているとは思っていない。ただ、どちらか一方ではなく、両方を使った時に何が生まれるのかという議論がもっとあっても良いのではないかと思っている。勿論、パソコンを必要としない方であれば、「パソコン and タブレット」を前提としても良いだろう。何れにせよ、or ではなく、and を掲げた時にこそ面白い風景が見えてくるのではなかろうか。小学生からスマホを持つご時世だからこそ、スマホをどのように利用できるのかということを教えるためにも、スマホと何かを組み合わせることで何かが得られるという視点を社会も持つべきだと思うこの頃である。


注釈

1:初歩的な感染症シミュレーションには、SIRモデルというものがある。このSIRモデルを使って、数値計算を行ったものが今回写真であげた Excel ファイルである。これは適当な数値を代入してシミュレーションしたものであるが、図 2 のようなグラフは恐らくほとんどの人が目にしたことがあるだろう。感染症ではいわゆる波というものを必ず描くようになっているが、この波の形は疫学的指標を変えることで大きく変化する。疫学的指標をどのように変えれば波がどのように変化するのかを既に感覚的に理解している方も、一度自分でシミュレーションしてみることでその感覚が数理モデルとも合致することをお分かりいただけるだろう。本当であれば、別途写真を上げて比較するのも面白いのだろうが、本記事の趣旨とはずれてしまうため、今回は一つのシミュレーション結果を上げるに留めておく。興味がある方は、アップロードした Excel ファイルをダウンロードして試して欲しい。なお、マクロ機能などは一切使っておらず(拡張子で直ぐに分かる方もいらっしゃるだろうが念のため)、またウイルスなどは組み込んでいないことを記しておく。

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