じぶんさがし その3
不安な夜
風の強い夜だ。窓の外で強い音を唸らせている。
さっきから雨の音が大きく響く。だんだん雨脚が強くなって窓ガラスを叩く雨粒の音が耳障りだ。
まるで頭の中に雨が降っているような感じだ。
この音は私を落ち着かなくさせて不安になる。
不安というのはとても厄介だ。
いつのまにかじわじわと染み出して来て気づけば全身どっぷりとまとわりついている感じだ。
不安や恐怖といった感情それ自体は決して悪者ではない。むしろ外敵から身を守るための防衛本能だから人間を生物という大きなカテゴリーで見ればごく自然な反応と言える。
それなのにそれが厄介なのは、人間の思考にゴーストが出るからだと思う。
幽霊とかお化けと言った類のものではない。何かに失敗して恥ずかしい思いをしたり、他人にひどく叱責されて萎縮してしまったり、嫌味や陰口を言われたり、人に裏切られたり、そういう経験は少ながらず誰でもあると思う。
でも、そんな辛い経験は既に過ぎ去っているのだから放っておけばいい。
それなのにふとした瞬間に過去の経験が頭をよぎる。その時の辛い記憶が浮かんできて、ドクドクと鼓動が早くなり緊張したり汗が噴き出したりする。
それを何度も何度も追体験してしまう。そこに現れるのがゴーストだ。
また失敗するぞ、笑われる、嫌われる、見られてるぞと頭の中でゆらゆらと幻影を見せてくる。足がすくみ体がこわばる。上手く笑えないし言葉も出てこない。一体どうしたらいいんだ。
ちょっと待って!
始まったばかりの今日も明日も未来もまだ何も起きてはいない。
そう、ゴーストの正体は自分の頭の中の想像力だ。
何倍にも大きく膨れ上がった妄想なのだ。あの嫌味な上司も、苦手なあの人も、世間だ常識だとうるさい親も近所で騒ぐ酔っ払いも、自分の敵ではなかった。
消えるべきなのは頭の中の妄想ゴースト達のほうなのだ。
それに気づきさえすれば自分はもっと自由に楽しく過ごせるはずだ。
つづく。。。
田中もなかは読者様のサポートをパワーに執筆活動をしています!よろしくお願いします!