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東京タワーのふもとで自由になった話

私には東京に兄のように慕っている方が一人、いる。

交流のきっかけは「くるり」好きが共通のキーワードでInstagramで繋がった。

年に一度の東京本社への出張時や、ライブで東京へ遠征した時なんかに会っては、喫茶店でお茶したり真昼の谷中銀座で飲んだり、なんて魅力的な時間を作ってくれた。

そんな彼と東京タワーを見に行った2019年初夏の話。

東京本社での打ち合わせを「早く終われ終われ…」の念が通じたのか、昼前には約束の神保町にたどり着けた。

改札を抜けると本当に古本の匂いがいっぱいなことに驚き、A7出口自販機横にそっと佇む彼を見つけて嬉しくなる。

喫茶「さぼうる」で色違いのクリームソーダでしばしの凉を取り、
歩いて歩いて東京駅を目指す。

何故かやたらとスキー用品が売られていた神田・お茶の水、
途端にビル群が立ち込める丸の内など、見るもの全てが新鮮すぎた。
くるり『東京レレレのレ』で歌われているようなエリア!)

そんな私の様子は東京出身の彼からしたら面白くて仕方がないようだった。

東京駅へ到着したら、いよいよ本日の本命・東京タワーへ。

「タワーに上りたいんじゃない、タワーを眺めたい!」を叶えてもらうべく、浜松町の「世界貿易センタービル」を目指す。

浜松町は初夏の蒸し暑さにも関わらず、スーツに革靴のサラリーマンで溢れていた。

「もう暑いしさ、ちょっと一杯引っ掛けようよ」と素敵な提案で入ったのが酒屋「やまや」。

店内には北海道では買えないような本州のクラフトビールが沢山並んで、迷いながら一本を選んだ。

店を後にすると、「飲んじゃおうか」と彼がすかさずプルタブを開けちゃって、私も釣られて銀河高原ビールを流し込む。

東京タワーのふもと、平日の横断歩道でお行儀悪く缶ビールを歩き飲みする私たち。すれ違うサラリーマンも誰も彼もが私たちを気にしない。

数時間前まで根を詰めて話し合っていた今年度の企画とかスケジュールとか、お偉いさんへのご挨拶とか、こなしていたこと全てが何だかどうでも良くなった瞬間だった。

生ぬるい風を受けながら飲む缶ビールで「今って自由だ!」と心が震えるような瞬間だった。

自由を手に入れた私たちは増上寺からニョキっと生えるかのような東京タワーを見たり、

念願だった世界貿易センターの展望台から東京タワーを眺めることに成功した。

東京タワーのライトアップまで粘りたかったけれども、飛行機の時間が迫る中でそれは難しかった。

でもタワーが光らなくて良かったと今になったら思う。そんなロマンチックな場面に遭遇したら、当時の私のコンディションからしたらうっかり彼を好きになってしまいそうだったから。

わずか5時間ほどだったけれども、そのくらいかけがえのないひとときだった。

それを証明するかのように羽田空港行きのモノレールでは「ここに置いていってくれい」と思えるほど泣きたい気持ちで一杯だった。

あれから3年ほど経った。

彼も私もそれぞれ東京で、札幌で結婚し、苗字も職業も変わったり。もう随分と連絡も取り合っていない。

世界貿易センターも建て替えのために取り壊されてしまったし、浜松町も再開発中らしい。

そんな変化だらけだけれども、3年前の初夏、東京タワーのふもとで自由になったのは紛れもない事実だし、これからどんなに変わっていこうとも、絶対に忘れたくない。

この記憶は、強いぞ。

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