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東京の一面をなぞる-又吉直樹『東京百景』を読んで

北海道出身・在住な私にとって、
東京は人々の憧れ・諦め・過去・未来、煌めきもドロドロも、全部を養分にムクムクと変化し続けているイメージがある。

それは東京ではなくきっとどの街でも多かれ少なかれ言えることなのだろうけど、東京は切り口が多すぎて、切り取り方一つであまりにも異なる表情を見せてくれる
−例:『東京カレンダー』と『浦安鉄筋家族』
ものだから、魅せられるし怖い。

多面体・東京の煌めきにもドロドロにも飛び込むのはやや怖い。
だけど覗いてみたいものだから、東京で生活したことのある人の話を聞くのは大好きだ。


そんな私の手をそっと取って、また新たな東京の一面をなぞらせてくれたのがピース・又吉直樹さんによる『東京百景』。

東京は果てしなく残酷で時折楽しく稀に優しい。ただその気まぐれな優しさが途方もなく深いから嫌いになれない。

「はじめに」及び文庫版裏表紙の紹介文にも抜粋されているこの言葉に全てが詰まった一冊だった。


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又吉さんが大阪から芸人を目指し、上京してからの東京にまつわる100編(文庫版では+1編)を収めたエッセイ集。

彼の表現力の高さが手伝って、自分もその場に第三者的にいたかのような気持ちがずっと続いて、読み終えるのが心底、惜しいくらいだった。

後輩と吉祥寺ですれ違う人の魂を吸い上げる、というくだらない遊びでは私も3人目の参加者としてゲラゲラ笑いながら参加していた。
(四十九.「秋の夜の仙川」)

又吉さんが太宰治のイベントを主催した一夜は、彼の長年の夢が叶った奇跡のようなひとときに私も熱狂。
(六十一.「阿佐ヶ谷の夜」)

風呂なしアパートの一室で又吉さんと彼を支えた恋人が過ごした日々、まるで私は彼らの隣人かのように行末を見守った。
(七十六.「池尻大橋の小さな部屋」)


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又吉さんのエピソードを通して東京の一面を楽しむもよし、

そしてまた彼の多彩な語り口
−ノンフィクションもあれば空想的な物語あり、吹き出すような話があれば落涙しそうなエピソードも
を楽しむもよし。

はたまたお笑いコンビ・ピースの遍歴を楽しむ手立てともなる一冊。
(文庫版 101編目は相方へのラブレターだと思う)

東京と同様にこの『東京百景』も実に多面的な一冊で、何度も読み返してじっくりと咀嚼したい。


最後に。

この本を出す機会に恵まれたことが本当に嬉しい。この先、仕事が無くなることも、家が無くなることもあるだろう。だが、ここに綴った風景達は、きっと僕を殺したりはしないだろう。皆様に一つでも刺さる風景があればなお嬉しい。

こちらも「はじめに」からの一文。

読み終わった今、改めて読み返すと、私もそのような風景を見るための目を持ち続けたいし、このnoteでそういった風景を書き続けられたらと思う。

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