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音楽よもやま話-第3回 ニガミ17才- ちぇっ しゃー ばさっ ごそごそ かたかた ごくっ ぱきぽきぱき きゅー

夏の切れ端、渋谷

「まさかこんなところでニガミ17才の名前聞くと思わなかったわ」と彼女はハイボールに浮かぶ氷を指で回す仕草を一時中断して言った。
 季節は夏の切れ端、渋谷の一角にある少し高めの居酒屋。最近よく聞く音楽は?という話題の中で僕が挙げた名前「ニガミ17才」。右端の女の子から、きょとん、きょとん、1人飛ばして、きょとん、という顔をされた。飛ばされた1人は、僕の話など飲み会開始早々からまったく興味なさげに聞くともなしに聞いていたようだった。だが、ニガミ17才の名前を聞いた途端、部下を認めるマフィアの女ボス的口角の上がり方で微笑み、僕を見つめ、認めた。へぇ、やるじゃん、と。
 まったく何がやるじゃん、なのかよく分からないが、僕は少し躍起になってニガミ17才を薦めた。それで、彼女はこちらに傾くと思ったわけだけど、そうもいかなかった。現実はとかく厳しい。合コンでニガミ17才を話題に挙げるにはいささか僕のトークスキルが半端モノ過ぎたみたいだ。じゃあ、「こんなところ」で挙げるべきアーティストってなんやったん? やっぱり米津玄師だった?

化けるレコード


 さて、今回のよもやま話は「ニガミ17才」。
 あの微妙な空気の合コンから遡ること大体1年前の夏、遠くから花火の打ち上がる音を聞き、それに遅れて届いてくる鈍い響きを体感しながらYoutubeを漁っていた。なにか音楽を聞こうと思ってグルグル巡っていたのだが、何度もおすすめの欄に吉岡里帆似の美女がサムネを飾る動画が現れた。人は得てして、新しい出会いというものに飛び込んでいくのは勇気がいるもので、無視していたのだが最後にはその動画を開いていた。ここだけの話、ちょっと吉岡里帆にお熱だったから(聞かれていない)。


「化けるレコード」を最初に聞いたとき、僕はこうTwitterで呟いている。


「花火を他所に、わけのわからない音楽に出会いわけのわからない気持ちになっていた―2018年7月27日」


 正直な感想だな、って思う。だって25年生きてきて本当にわけのわからない音楽だったからだ。僕は少しだけ、ほんの味見程度に音楽を齧って、ギターやら歌やらをして生きてきてはいたのだが、これをどういうジャンルの音楽と捉えたらいいのかわからなかった。
 単にひょっこりはん似のおじさんと変な立ち振る舞いをする吉岡里帆がくるくる踊っているわけじゃない。僕好みの硬いスティック音がドラムビートをたくさんの手数で刻み、ベースがオシャレなコードを鳴らし、ボーカルがジャリジャリとしたギターを奏でながらトリッキーな歌詞を歌い、シンセサイザーが奇天烈なステップを踏みながらUFO来襲的な音を飛ばす。
 なんだこれは? なんだこれは?とMVを巡り、インタビューを巡り、彼らの来歴や発言やTwitterを覗き、八月には平沢あくびのよく分からないツイキャスラジオ体操に参加し、「ニガミ17才b」をiTunesでダウンロードし、ニガミ17才を巡る夏休みだったなぁと思い返す。高度で確かな音楽性の上に成り立つオシャレかつ変態性。さぞかしわけのわからないライブをするのだろう、いつか行ってみたいと乾ききった夏の夜空の下でイヤフォンに身を任せながら、札幌の街を歩いていた。


恵比寿LIQUIDROOM

 で、季節はぐるぐるめぐり、今年の秋、「ニガミ17才 不定期大演奏会@恵比寿LIQUIDROOM」。端的に言っちゃえば、めちゃくちゃライブが楽しかったのだ。
 全然わけのわからないことなんかなかった。いや、もちろん平沢あくびが箱ティッシュから一枚一枚花吹雪か何かのように観客に投げまくる演出はほんとわけわからなかったけれど(笑) だがしかし、何よりノれるし面白いし最高である。
 特に本編ラストでは、ボーカル岩さんの指示のもとある曲が演奏の途中でたくさんのジャンルの音楽に生まれ変わる様が素敵だった。音楽って楽しむもんやから、と岩さんは言っていた。5拍子、4拍子。ボサノヴァ、R&B、青春パンクロック、etc…。全く大げさかもしれないが、こんなに純粋に子供心に音楽にワクワクしたのは小学生の時の運動会のおどるポンポコリン以来かもしれない(いや、もっと音楽にはワクワクしてきたけど)。こういう音楽の授業があったら良かったな、とも思った。
 アンコールの無茶ぶりメドレーも楽しかった。その場でメドレーの流れを打ち合わせし、(メンバーのあたふたもありつつ)僕らの目の前で楽しいライブをおさらいしていく。最後まで音楽で僕らの気持ちをかっさらっていく。

 サブカルの海を背泳ぎで渡り切ってきたような、閉塞気味のJ-Popを打開していくオシャレ変態ポップバンド、ニガミ17才に今後も注目していきたい。

 で、よろしければ今度合コンに一緒に来てほしい。胸ポケットに仕込んでいたミョウガでもべに花油でカラッと揚げて前菜にでも出すから。やっぱりわけのわからない顔されるだろうか。

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