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アンチ・アンチ洋楽

音楽が好きな人からすれば、洋楽か邦楽かの違いなんて微々たる差異なんだろうけど、素人からすれば死活問題だ。

それは生きるか死ぬかに値する。
モテるか余るかに関わる。

洋楽。
それは、摩天楼にそびえる魅惑の美女のサイネージ。

なぜそう思っていたが、今は分かる。洋楽との出会いは、特級呪物との遭遇のような最悪なものだったから。


最初にこの問いにぶつかったのは中学生の頃だ。

少女時代やKARA、K-POPが流行した。イケてる女の子はみんなMr.TAXiに夢中だった。英語の授業では、ワンダイレクションの曲で、聞き取り&歌詞並び替えパズルをさせられた。この曲好きなんだよね、余裕!と言ったやつがヒーローだった。

一方私は。歌詞がわからないから何を聴けばいいか分からないし、ノリを知ってるJpopと違ってどう楽しめばいいかわからない。自らの青い果実を恥ずかしがるメンタリティと重なって、コンプレックス、を超えて、ルサンチマンを抱くようになった。

大学に入って、一年で辞めたアカペラサークルでも洋楽が猛威を振るっていた。
ペンタトニックス、アメリカのアカペラグループ。アリアナ・グランデ。マルーン5。ミスドで貧乏居候をしてるときにも、店内ラジオでよく聞いていた。

「先進的で、商業的にも成功をおさめていて、世界的な影響力を持っているのは洋楽だよね」

残念な出会い方だった。


それから、軽音楽部に入った。
ギターの歪みやベースの地鳴りがうるさくて好きだったから、バンドをすることにした。初めてカバーしたのは、フジファブリックの「桜の季節」「若者のすべて」。友達のカバーしてるバンド、先輩の好きなバンド、メンバーにおすすめしてもらったバンド。「すき」の網が広がるにつれて、事前と海外のアーティストも織り込まれるようになった。

アジカンからWeezerやOASISへ。
OASISと同時代を生きたBlurへ。
イギリス発祥のアクモン。the 1975。

そして、臨界を迎える。

たとえば、
ジャケットのデザインや、
歌詞の引用、
サンプリング、
雰囲気の継承。

あるアーティストが、他のアーティストを色んな形でオマージュしている。
その関係を見破る。
そしてクスッと笑う。

なぜオマージュしたかを想像し、
表現者の思いを汲み取る。
脈々と繋がる音楽史を紐解く。
いま、これが流行ることの意味を理解する。


好きなバンドのメンバーが
「~から影響を受けました」
「~の精神を引き継いで」と
インタビューで述べていたら。
この引用関係(inspired/influences)に
アクセスし、
音楽史を遡ることができたら。


ただ、現代のメディア環境ではそれは難しいことらしい。

原因としては、音楽メディアの衰退とWebメディアの発達がある。
社会学者の南田勝也の「なぜネット時代に音楽史的なムーブメントが起きないのか」を説明した論を、大まかに引用したい。

雑誌を読むときと、Webメディアで記事を読むときを考えて欲しい。

雑誌だと、表紙→目次→記事→編集者の言葉のように、「そのとき編集者は何を考え、一連の記事をパッケージしたのか」を比較的読み取りやすい形で読者は受けとる。それにより音楽史というラインで繋がった線形の情報を得る。

一方でWebの記事だと、
アクセスはトップ画面の記事一覧から飛んだり、そもそもSNSのリンクからの場合も多い。そして好きなバンドの記事だけを読んで画面を閉じる。例えばレジェンドも新人も同じ画面に並ぶことが起きる。

以上のとおり、たとえ同じ内容のインタビューが掲載されていたとしても、読者の受け取り方と紙面が与える情報の文脈は大きく変わってしまう。

しかもネット広告の仕組みは、その人の行動記録に応じて個人を狙い撃ちにするシステムであるため、大勢を巻き込んだ旧来のムーブメントは起こせない

このような断片的な情報は、
歴史性や物語性の理解をされないまま、
論評されずにただ経験される。
これを「触知的な遭遇」という。

このような音楽への態度が、
野外フェスにおいて音楽の渦に飛び込むような経験に
繋がっているのだという。

「触知的な遭遇」は完全悪ではない。

かつて雑誌や友人から知識を得て音楽を漁った少年は、いまならいいね!数やあなたへのおすすめ欄で音楽を知るように。

それはもうテクノロジー時代の生活様式なのだ。

以上、南田勝也,『オルタナティブロックの社会学』, 2014, 花伝社

音楽史を少し知るだけで、世界に、自分にしか見えないナビゲーションが現れ、もっと深いところにダイブできるけど、もしかすると、私たちは音楽史を楽に学べる環境からは、もうずいぶん遠いところに来てしまったかもしれない。

とはいえ、完全に淘汰されたのではない。例えば、Apple musicではinspired/influencesのプレイリストを聞くことで、好きなアーティストの前後に連なる足跡は知ることができる。

また、アルバムにライナーノーツが記されているときもあり、その楽曲たちが生まれた時代背景や音楽動向を僅かながら示してくれている。

現行の「同じタイプのアーティスト」欄が、
ビッグデータ的な処理で導かれたものなのか、音楽史を知る人が選んだものなのか、わからないが、この機能を使って線形の情報にオーディエンスを誘導することもできる。

逆に言えば、スマホひとつでディープな探索ができる時代なのだ。

とはいえ、何よりも「音楽史の流れにのって音楽を楽しんでやろう!」というオーディエンスの気持ちがないと、いくら機能があっても意味がない。

そういう意味での「洋楽を知ろうとする」。
自分の好きなアーティストの影響関係が
海をまたいでいても追おうとする気持ち。

それが音楽生活を楽しむためのヒントなのかもしれない。

奇しくも、現代日本は全員オタク時代。 
時間や土地を超えて、自分の推しのルーツを探り、深く深く文化の密を吸う。

これだからやめられねえよな。カルチャー。

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