元芸人と元AV助監督の交換日記#15「コロナウォッチャーもう疲れた」(いのり)

「(~前略~)俺はもう終わりにしたいんだ。もう疲れた。雨の中を一羽だけで飛ぶツバメのように生きるのに疲れたんだ。一緒にいてくれる仲間もいない。どこから来てどこへ行くのかも、その理由も、教えてくれる者はいない。なによりも、互いに醜いことをし合う人間にも疲れた。毎日、世界中で起こっている苦しみを感じたり聞いたりするのにも疲れた。もう耐えられない。つねに、頭にガラスの破片が刺さっているようだ。分かってもらえるか?」

映画「グリーン・マイル」の登場人物ジョンが処刑される前に言ったセリフだ。この映画は両親がとても好きな作品だ。幼い頃、リビングに「グリーン・マイル」のVHSが置いてあったことを覚えている。そして当然ながらテレビで流れる度に見た記憶がある。

ここ長らくずっと疲れている。それは仕事のこともある。だけれど一番辛いのはコロナのせいだ。「いつか自分の身の回りの人が死んでしまうかもしれない」と不安で居続けることに疲れてしまった。それなのに、そういう時に限ってより不安にさせる状況になっていく。もう八方塞がりだ。どこを見ても希望はないし、今希望を見続けたら一生今の状況を抜け出せない。

正直不安と焦燥と恐怖で物事が手につかない。あまりこんなことは書きたくなかったのだけれど仕方ない。これから壊れていく国で生きている遊びたい盛りの20代・男性の「手記」だ。

2021年4月23日。3回目の緊急事態宣言が発表された。3月25日から5月11日までの経った約2週間だ。今、日本ではたくさんの新たなタイプのコロナウィルスが生まれている。そして現在主に猛威を奮っているのが「イギリス型変異株」と呼ばれるものだ。特徴はパンデミック初期のような「コロナウィルス」の従来株と大きく異なり、重症化しにくいと言われてきた若い世代への感染する割合が2倍高いこと。さらには感染力自体も従来株より30%高い。つまり、若い人をピンポイントで狙うような形に変異したということだ。さらに、ここ最近では二重・三重変異株(報道ではカリフォルニア変異株、インド変異株と呼ばれているもの)といったタイプのウイルスも発見されている。これらには、従来株やイギリス変異株、南アフリカ変異株より恐ろしい特徴がある。それは、「ファクターX」と呼ばれるものが全く効かないという点だ。これは第一波の際に国内外で「どうして日本人のコロナによる重傷率が低いのか」と大きく話題になった。ある人は「日本人の生活様式のおかげ」とも言うし、別の人は「過去に日本ではコロナが流行しており免疫がある」とも主張する。しかし、未だその理由は解明されていないことから「ファクターX」と呼ばれている。(「謎々効果」と呼ぶ学者もいるが)しかし、この「ファクターX」を持つのは日本人だけではないそうだ。アジア一体(日本・中国・韓国・東南アジアなど)でも同じような結果が見られたという。ところが二重・三重変異株(カリフォルニア変異株、インド変異株)は「ファクターX」と呼ばれたアジア人独特の「免疫」が通用しない可能性が極めて高い。要するに、日本がパンデミック当初のニューヨークやイギリスになる日が近いということである。(実際にこれらの変異株は国内で見つかっており、統計によると約3か月後には感染爆発を引き起こすと言われている)インドでは医療崩壊だけではなく、社会崩壊が始まっている。感染するのは20代~40代までが大半で、ICUに入ったらまず助かる見込みはないそうだ。(以下の記事が一番良くまとまっている。https://www.businessinsider.jp/post-233314)

ダイヤモンドプリンセス号での一件以降、僕はしつこくコロナの感染状況や国の対応を追ってきた。そして今になってこういうことを書き始めたのには理由がある。それは僕の父が学校の教師で持病持ちだからだ。前述にある通り、現在流行している(もしくはし始めている)変異株は若者を主なターゲットとして感染する。その中にワクチンやオンライン授業といった対処なしで入っていくのは特攻隊同然だ。感染リスクが最も高い職場にいる父、そして喘息持ちの母と重度の被介護レベルの祖母。そんな中で感染が起こればどうなるか一目瞭然だろう。

コロナウィルスに感染し、最悪亡くなる場合どうなるのか。誰にも看取られることなくそのまま焼却される。喉に挿入された人工呼吸器も取られることなく。そして、灰となって誰かの手元に戻る。もっと酷い場合だってある、焼却が間に合わず人工呼吸器を付けられたまま死体袋に入れられて、雑に埋められる。最低なことにこれらは全部実際に起こった(起こっている)ことだ。

僕らは今日までたくさんの時間を奪われてきたと思う。ニュージーランドやオーストラリアといった頭の良い大人がいる国では、コロナ以前と変わらないライブや飲み会が開かれている。それなのに僕らはただひたすら遊ぶ時間や会う時間を削られて、家の中に閉じ込められている。先輩たちと会ったのはもう2ヵ月も前だ。そして父親や母親と最後に会ったのは去年の夏だ。ただただ時間が奪われていく。

ここからは、身勝手な後輩からのわがままなお願いだ。面倒であればスルーして欲しい。「コロナで死んでしまったらそれは仕方がない」。かなり前にzoom飲みでそう話したのを覚えている。その時僕は普通に笑ったし、そのまま聞き流した。ただ、やっぱりまだ「死んで欲しくない」と思った。僕はそこまで生きることに執着がない。だから事故や病気で死んでしまうとなってもそれは理解できることだと思っている。だけどコロナで死んでしまうことには納得ができない。大事な物が「奪われた」としか感じられない。どちらにしても、まだまだ先輩たちとは遊び足りない。だけど現実はワクチンも、ちゃんとしたロックダウンもない。ただの一般人の僕らにはもう為す術がない。できることと言えば「祈る」ことくらいだ。


兎にも角にも、また集まって遊べる日までは先輩や先輩の家族が欠けることなく、哀しい思いをせずに「生き延びて」欲しいと心から願っている。

※2重・3重変異株という表現は報道上の「固有名詞」です。正確には9重やそれ同程度の変異をしているとのこと。今回日記を書くに当たって馴染みのある「2重・3重変異株」を使いました。


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