銭湯であった人

いつのことだったかもう忘れてしまったが、去年の夏くらい。
恋人と別れて、採用試験が近く、でも最後の大学生活を満喫しなきゃ、時間もお金も心に余裕も無いときに一人で鞄にタオルだけ入れて、少し大きな銭湯に行った。

少し大きなっていうとどれくらいかっていうとサウナが2種類あって、たまにロウリュしてくれて、露天に坪湯が3つくらいある、そんな感じよ。

平日だったからか、人は少なく思い出より広く感じた。
近所のおじさんがほとんどの中、ムキムキのミケランジェロみたいな一際目を引く人がいた。
ミケランジェロは年齢不詳で、同い年にも10歳上にも見えた。

その人はサウナと水風呂を行き来していてこの銭湯を一番満喫していたように思える。
僕もサウナ入ろうと思い、ミケランジェロに続いて入室した。
ムワッと熱気が体にまとわりつき、2人には広すぎるサウナは普通のサウナよりも上質な暑さに感じられた。

しばらくの沈黙、汗を手で拭い、「うぅ…」と小さく声を漏らし、12分計を見て…
サウナが好きな人はわかるであろう、2人で入るサウナは勝負なのである。
特に他人であればあるほどどっちが先に出るか、我慢大会。
同じタイミングで入った今回はその中でも言い逃れのきかない灼熱地獄デスゲーム。

5分が経ち、10分、15分と来て思ったことはミケランジェロは強いということ。
僕は明らかに口の水分どころか、目もしょぼしょぼしてきて、座っているのにふわふわ意識が回転し始めていた。

20分を目の前にして白旗をあげ、立ち上がったところから記憶がない。

気がつくと屈強なミケランジェロの腕の中、ぬるま湯をおじさんに桶でかけられているところだった。

「気づきましたか」
と一言、「たてますか?脱衣場へ。」
2人3脚で脱衣場まで行き、水を飲ませていただき、ミケランジェロにお礼を言い、二人で1つのベンチに腰掛け、少し話した。

ミケランジェロ「なんか意識してた訳じゃないんですが、なんか我慢勝負みたいになっちゃいましたね」

僕「ですね、僕はものすごく意識しちゃって、でれなくなってこの様です。本当にありがとうございました。」

ミケランジェロ「学生さんですか?」

僕「はい」

とこんな感じで、お互いの話をしているうちに意気投合した。
つり橋効果もあってか、距離は一瞬でつまった。

お互い気を付けながらまたサウナに入り、僕は優しく聞いてくれる彼の相づちに気持ちよくなり今までの人生について軽く話していた。

ミケランジェロの番になり、最初に一言
「私は男に成りたてなんです」
最初よくわからなかったが、トランスジェンダーになる手術を数ヵ月前に受けたところであったらしい。
男になってから公共の温泉施設に来るのは初めてで、今日の出来事は自分がとてもドラマチックに救助できたことがよかったと嬉しそうであった。
「特にお姫様抱っこをしてサウナからでて、『ぬるま湯をかけてください!』とおじさんに叫んだ時の自分が声も含めてかっこよかった」と教えてくれて、僕は顔を真っ赤にしていた。

銭湯をでて、二人でカフェに入り紅茶を飲んだ。
ミケランジェロは自分では詳しくは言わなかったがお金と時間に余裕があるらしく、なにか人のためになることをしたいとアイデアを求めてきた。

僕は、ただここまでの彼との交流で思ったことを一つ言った。
ミケランジェロの相手の立場に立って考えられるところや話を本当によく聞いてくれる所、相づちがとても気持ちいいことなど、これらを活かしたことをしてはどうかと。

そこではSNSをやったことのない彼とはただメールアドレスを交換し、別れた。

それから、長いこと経ち彼から久しぶりに連絡が来た。
それはある活動を始めるということであった。

その活動とは吉本ばななのどんぐり姉妹という話からインスパイアされ、宛のないメールの相手になるということであった。

「なんていうことのないやりとりをして、気持ちが落ち着くことってありませんか?」ということを活動理念として提示し、知らない人のメールの相手をするだけの活動。

実際、個人情報の点からメールアドレスを開示してやり取りすることの不安点はお互いあるが、彼の良さが一番でて多くの人の役に立つ活動ではあると直感的に思った。

メールの最後にはどうしたらこの活動が、このメールアドレスが広がるか、SNSはやった方がいいかなど、あらゆる質問で締められていた。

丁寧に答えつつ、
僕ができることとして微力ではあるがこのような投稿をNoteにしてみた。

ミケランジェロは「バナナ隣人」という名前で新しい一歩を踏み出した。
これを読むあなたもぜひどんなことでもいい、ここにメールしてみて。

bananarinjin@gmail.com

https://twitter.com/banananeighbor?s=09

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?