陰陽五行の考え方について
前回は、漢方のなりたちについて、日本の漢方の歴史をただ話していくつもりが、書いているうちにだんだんと気持ちが入りすぎてしまい、壮大な漢方ロマンというか、歴史ドキュメンタリーのようになってしまったのですが、いかがでしたでしょうか…
その中で、最初からよく出てきた「陰陽五行(いんようごぎょう)」の考え方について、今回はもう少し詳しくお話してみたいと思います。
あ、ちなみにここでは、漢方初心者の方にも分かりやすくお話していくつもりなのですが、「誰も教えてくれなかった、新しい漢方の話」というテーマでお送りしておりますので、調べればどこにでも書いてあるようなありきたりの(つまらない)解説はさらっとすっ飛ばして、ちょっとマニアックでディープな切り口でお届けしていきますので、そのへんはご了承いただきながら楽しんでもらえればと思っております。
陰陽五行とは、勝ち抜いて生きるための学問だった
「陰陽五行」とは、「陰陽論」と「五行論」といって別々にあった考え方が、漢の時代に統合されて発展していったものです。
漢の時代とは、三国志のちょうど前の時代。紀元前206年~紀元後220年まで400年あまり続いた、中国歴代で最も長い王朝です。その漢の終わりの混乱の中で、能力と時の運を司ることのできた英雄たちが活躍する有名なこのお話には、陰陽五行の考え方がベースにありました。
軍師・諸葛孔明は、その考え方を学び、風水や天の動きを駆使しながら、どんなに不利な状況でも連戦連勝を繰り広げていきました。今の時代にもその考え方を孔明のようにうまく使いこなすことができれば、人生もビジネスも何もかもうまくいって、誰でもバリバリの勝ち組になれるのではないかと思ったりもしますが、そうはなかなかうまくいかないのも、また陰陽五行の世界の奥深さなのかもしれません(知らんけど)
「陰陽論」とは、物事の相対的なバランスを表すための概念
古代中国の人々は、宇宙の起こりの混沌としたカオスの状態から、澄んだ明るい「陽」の気が上昇して天となり、濁った暗い「陰」の気が下降して地となったと考えました。
「陰陽論」とは、この2つの気によって、万物の事象を理解し、その移り変わりを知ることで将来を予測しようとする方法のことを言います。
例えば、太陽と月、昼と夜、夏と冬、火と水、男と女のように、これらは相反しつつも、一方がなければもう一方も存在しないという相対的なつながりを主体とする概念でもあります。
また、陽の中にも陰があり、陰の中にも陽があるというように、お互いがそのバランスを保ちながら絶えず変化することで、様々なものの移り変わりが生じるという考え方です。
陽と陰、どちらが優れていて劣っているかとか、どちらが強くて弱いかとかではなく、
陽とは、「能動的・攻撃的・昂進的」といった〝外側へ向かっていく力〟
陰とは、「受動的・防衛的・沈静的」といった〝内側へ向かっていく力〟
というように、向かう方向が違うのです。
陽は、「拡大・発展していく力」で、
陰は、「充実・革新していく力」とも言えます。
「あの人は陽キャだ」とか「私は陰キャの方だ」といった言い方をすることもありますが、陽キャだからいいってわけでも、陰キャだからダメってわけでもないと思います。
そのどちらにも良いところがあって、また自分の中にも陰と陽のどちらの要素も持ち合わせていて、そのバランスが、時と場合によって変わっていくのです。
「五行論」とは、空間と時間をシンプルに表すための概念
古代中国の人々(再び登場)が、移りゆく自然の流れから、いつしか一定のペースで繰り返す天の動きに注目し、その太陽と月、木星・火星・土星・金星・水星の5つの惑星の存在から、それらのつながりと法則を時間をかけて観察しながら見出してきたのが、「五行論」のはじまりです。
(ちなみに全部合わせると、七曜となって、ちょうど1週間になりますね。)
そして、その中で「木・火・土・金・水」という5つの気が、互いに影響し合いながら天地の万物を変化させて循環しているという、五つの巡り回る「行(ぎょう)」(=phase:フェーズ、段階)があることを発見しました。
そしてその概念は、自然の移り変わりである「四季」の変化とつなげて考えられ、のちに自然現象や政治体制、占い、医療などの様々な分野の背景となっている性質や周期、相互作用などをシンプルに説明するためのものとなっていきました。
例えば、
木は、春の象徴で、樹木が生長し伸びていく性質
火は、夏の象徴で、炎のように燃えて上昇する性質
土は、土用(季節の変わり目)の象徴で、植物を育んで守る性質
金は、秋の象徴で、冷やされた鉱物や金属が重く下降する性質
水は、冬の象徴で、流れる水のように全てを含みこむ性質
をそれぞれ表します。
また、東洋の五行に対して、西洋には四元素という考えがあります。同じく万物の変化を表すものなのですが、
東洋は、5つの要素が互いに循環しながら、自然が変化していくという「つながり」を主体に考えるのに対し、
西洋は、4つの要素がそれぞれに存在しながら、自然を構成しているという「もの」の方を主体として考えます。
それはまさに、
自分は自分、他人は他人といった「個人」を大切にする西洋人と、
自分と他人、自然と人間といった「対人」の関係を大切にする東洋人の違いにも表れているのではないかと思ったりもします。
陰陽五行の考え方は、人間がより良く生きるための方法になる
「陰陽五行」が生まれた時代には、「勝ち抜いて生きるための戦術」としての学問でしたが、そこからいくつもの時代を経て、現在では「人間がより良く生きるための方法」としての学問として、いろいろな場面に応用させながら広く一般的に使われるようになっていきました。
そして、その考え方は、医療の分野にも取り入れられ、現代の中医学と漢方の基本となっています。
『五臓六腑』という言葉は聞いたことがあると思いますが、それもこの陰陽五行の考えを、人間の体に当てはめて考え出された中国医学(中医)から生まれた言葉です。
【臓と腑の関係】
木は、肝と胆 (神経機能)
火は、心と小腸 (循環機能)
土は、脾と胃 (消化機能)
金は、肺と大腸 (呼吸機能)
水は、腎と膀胱 (泌尿機能)
「ん?あれ??五臓六腑ちゃうやん。五臓五腑しかないやんか」
と、鋭いツッコミを入れてくれた方もいるかもしれません。「いい質問ですねー」と池上さんの声が聞こえてきそうですが、その通りです。六腑はどこへいったのでしょうか。
そのへんの話は、また改めていつかちゃんとお話することにします。いや、説明できないわけじゃないんですよ。本当ですよ。ええ…(動揺)
もし、どうしても気になって夜も眠れないという人がいたら、あなたの周りにいるかもしれない漢方に詳しい先生(もしくは鍼灸の先生とかでもいいよ)に、「五臓六腑の六腑は、どこにあるんですか?」とぜひ(マジメに)聞いてみてください。
納得のいく説明をしてもらえて、あなたがちゃんと〝腑〟に落ちたのなら、その人はすごい先生です。一生お世話になってもいいと思います。
話がそれてしまいましたが、
漢方を学んでいくうちに、このようにどうしても感覚としてイメージできないようなものや、どうにも理解できない難しい働きに出会って、思考が追いつかずにドロップアウトしてしまうことが(大いに)あります。
でも、そこで学ぶのをあきらめてしまっては、本当にもったいないと思います。そこが漢方の面白いところでもあり、醍醐味みたいなところでもあります。
そこの「なぜ?」を知って乗り越えたところに、今まで見えなかった新しい見方や発見があって、それを自分の健康や人生に活かすことができれば、悩みや苦しみを減らしてくれる助けになるのではないかと思います。
私もこれを書いていくことで、一人でも多くの方に「漢方の考え方」というものに興味を持ってもらって、みなさん自分自身がより良く生きられるためのお手伝いができたらいいなと思っています。
ということで、そろそろお時間になってしまったので、続きはまた次回に。
本当はここで、私が考える「五行の関係と意味」についてもう少しディープな話をしようと思っていたのですが、急にドロップじゃなくて六腑の話になってしまったので、入りきらなくなってしまいました。。
あ、最後にうまいこと言えたので、このへんにしときますね。
いつも見ていただきありがとうございます!「漢方茶」を広げていけるような活動をいろいろとやっていきたいと思いますので、ご協力いただけたらうれしいです。