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【虎に翼 感想】第36話 寅子の失態

残り10

昭和17年1月

相変わらず日記をつけているはるさん。家族に滋養のあるものを食べさせたいと、食事を工夫している様子がうかがえる。
割烹着に “大日本国防婦人会” 白たすきの、いわゆる「会服」姿で買い物から戻る花江。「寅ちゃんは?」と、はるさんとの会話が以前よりフランクになっていて、関係性の変化が見て取れる。

穂高教授に結婚の報告をする寅子と優三さん。教授、優三さんの下の名前、初めて知ったんだよね…わかってますよ。

今日からオープニングのクレジットも正式に “佐田寅子” となる。

佐田になってからというもの、寅子への依頼は増え続ける。だが、女性から離婚の相談があっても、夫の出征により依頼が取りやめになるのは、やはりご時勢だ。

「よい道を一緒に探しましょう」と依頼者に声をかける寅子に、「いいのか?」と、一旦、立ち止まらせて考えさせるよねの存在は、やはり大事だと思う。この時点で事務所で働いているということは、よねはまた試験に落ちている。筆者が切望しているよねのパラリーガル化が、だんだん既成事実化してきた。
しかし、「梅子さんを思い出しちゃって」と言われては、よねもそれ以上は言えまい。

あらたな相談者

そんなある日、両国満智という女性が相談にやってきた。
歯科医である夫が病死したが、夫の両親からの援助がなく、職も見つからずにいた。そこで、同じく歯科医である夫の知人、神田に、夫の診療所だった場所に出張所を開設してもらい賃料を受け取ることで、4才の子どもとお腹にいる子を養おうとした。しかし、夫の両親が、「神田の妾になったことによる“著しき不行跡”」として、満智を訴えたのだ。

以前、寅子がはるさんに事件の話をベラベラしゃべっているシーンがあって、守秘義務はないのかと気になっていたけど、今回、優三さんに説明するのに「甲子」「乙蔵」と名前は明かしていないから、ちゃんと気をつけていました)

満智の子どもになつかれる、よね。

同年3月、“原告の請求を棄却”との判決が下り、満智は勝訴した。
「孫はいなかったことにする」との義両親の言葉が切ない。よねの表情はちょっと不安そうにも見える。

何か引っかかったのだろうか。もう一度記録を読み返す寅子は、ある疑問にたどり着く。満智の妊娠月数と、夫の病状の悪化の時期からして、夫婦の間に子をもうけることは困難ではないかとの疑問だ。
数日後、満智が菓子折りを持ってお礼に来た。帰り際、寅子は、「お腹のお子さんについて…」と聞き出そうとすると、満智は笑いながら「やだ先生、もしかしてお気づきになってなかったの?てっきり目をつむって下さっているのだとばかり…やっぱり女の弁護士先生って手ぬるいのね。」
満智のお腹の子の父親は、神田歯科医だった。そればかりでなく、上の子も…

「女が生きていくためには、悪知恵が必要だ」
そう言い切ってしまう満智にも、それなりの背景があるのだろう。そのような女性にしてしまった背景が。

雲野弁護士からの叱責

「これは明らかな過失。失態だ」
雲野弁護士も、若い頃に同じような失敗をしていた。

だったら言わなきゃ!ザ・放任主義、雲野六郎。
ボス弁(所長弁護士)にはイソ弁(勤務弁護士)を監督する責任があるはずなのに。
ここは、「私にも責任がある」とのセリフを入れてほしかった。

「きみの失態が、誰かの人生を狂わせたことを、忘れてはいかん。」

先週心配していた “感情の機微に疎い”ところ、“弱き女性を救いたい” という気持ち、去っていった仲間たちへの思い、様々な理由が複合的に絡み、寅子は突っ走ってしまった。優三さんが指摘したにもかかわらず。

裁判書類の読み込みも足りていなかった。落合教授の出版物の事件の際は、徹夜して時系列にまとめていたのに。それができなくなっているのは、寅子への依頼が増えて、1つの案件にかけられる時間が減っていることもある。

さらに、裁判が終わったのに蒸し返そうとしたのが本当にいただけない。よねが止めるのも当然だ。自己満足か、寅子。

・・・・・・・・・・・
最後、寅子とよねは、雲野弁護士に深く頭を下げた。
弁護士である寅子には、当然、責任がある。
他方、今のところパラリーガルであるよねは(事務員常盤もだが)、自分がミスをしても責任をとるのは結局弁護士だ。だからこそ、責任をとれないからこそ、気をつける必要がある。パラリーガルにとっては、そこが結構辛かったりする。
しかし、責任をとるのは弁護士だ。堂々巡りな話になってしまったが、寅子とよねの、お辞儀の角度と時間に、その立場の違いが明確に出ていた。

このエピソードが、寅子の弁護士としてのあるべき姿を問うものであるならば、モデルの三淵嘉子さん同様、寅子が最終的には裁判官になるという着地を示唆しているようにも感じられた。


弁護士なら起こりうること

上記の ”先週心配していた” というのは、決して、私が確率の低い事柄を推測できたという意味ではなくて、今日の寅子のような出来事は、現代でも多くの弁護士先生方が経験、もしくはヒヤリハットのような経験をされていると思ったからだ。
弁護士としての実績を重ねていけば対策をとれる部分もあるだろうし、“カンが働くか” というような、本来備えている性格に委ねられる部分もあるように思う。

弁護士と依頼者とのコミュニケーションは難しい

以前の記事で書いた言葉を引用するが、

裁判が始まってだいぶ経ってから、
「え、本当のところそう思ってたの!?」とか、「それ、早めに言ってほしかったな」ということは間々ある。
それは決して弁護士の聞き取り不足とは限らず、
◆依頼者自身が大した問題だと思っていなくて、話さなかった。何気ない会話で出てきて弁護士が気づいた。
◆また、依頼者自身が「こんなことまで話してよいのかな」と委縮してしまい、コミュニケーションがとれるようになってから、やっと話し出す。
ということもある。

4/17の記事より

【有料記事】エピソード紹介

依頼者とのコミュニケーションに関して、筆者が法律事務職員として働いていた頃のエピソードを、1つご紹介します。依頼者が弁護士に本性を見せなかった(というと大げさなのだが)お話。
ただ、ゴメンナサイ、ここからは有料とさせていただきます。
個人情報を出すわけではないのだけれど、念のため。
要は、そのくらい慎重にしておいてちょうど良いという、今日のお話です。

「虎に翼」5/20より

(マガジンはこちら

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とある方の紹介で、離婚案件を受任することとなった。依頼者は、夫。仮にAさんとする。

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