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【虎に翼 感想】 6/18 それぞれの理想と現実


親を亡くした子どもたちの現実

轟法律事務所(旧カフェー燈台)に集まった明律大学同期の5人。
寅子とよねの言い合いに、男性陣は内心、懐かしさを感じていたのではないだろうか。

よねと轟は、事務所に子どもたちを集めて、僅かばかりの食事を与えていた。よねも貧しい農家の生まれだ。貧困は、家族の分断を生んでいた。よねの親と姉は今生きているのか不明だが、目の前にいる子どもたちは、戦争で親を亡くしている。
寅子の言うように、全員は救えないし、一人ひとりの行いは微力だが、少なくともこの子たちは、よねと轟にしてもらったことを一生忘れないのではないか。

「誰だ、おっさん」
よねが以前よりも卑屈になっている。
雲野法律事務所で働いていた時代、お客さん(依頼者)が帰る際にはスマートにドアを開けてあげていたときの立ち振る舞いとは違う。決めつけたり、諦めるのが早いところは相変わらずだが。しかしそれは、戦後、子どもたちの問題を机上の空論で片付けようとする国や、目の前の子どもすら救えない自分へのいらだちのように見える。
「今、顔を合わせた相手をおっさん呼ばわりするヤツに、名乗る名はない」
多岐川も、このくらい言い返してやってよい。相手の名前を尋ねるときは、まず自分からだ。
轟がすかさずフォローしたのもよかった。事実上、よねの事務所みたいなもんでも、常に矢面に立っている人間の立ち振る舞いだ。

「よねさん……あなたが……」
隠していなければいけないのに、汐見はつい口に出してしまった。
香子にとって、あの女子部の時代のことは今でも輝かしい思い出でしかなくて、何度も何度も汐見に語っていたのだろう。そのことが伝わるセリフだった。
だが大丈夫だ。よねからしたら、寅子がベラベラしゃべっているのかくらいにしか思っていないから。

家庭局の面々が帰っていくシーンが切ない。彼らには、帰る場所がある。

道男くん、絶対悪い子じゃないよ……道男……きっと両親が、”正しい道を” とか ”まっすぐな道を” みたいな希望を込めて名付けてくれたんだよ、直道みたいだが……多岐川が「愛の裁判所だ」と言ったときの表情とか、端々に表れているもの……。

よねと轟がだんだん似てきている気がする。夫婦は似てくるというからな。夫婦じゃないけど。


それぞれの理想と現実

理想と現実は違う。子どもたちを何とかしてやりたいと思っていても、自分が引き受けるかどうかは別の問題になってくる。
今回は、行きがかり上そうなってしまったが、花江の「それが泊めてもらおうとする人の態度か」とか、はるさんの「泊めてあげなさい」とか、ちょいちょい上から目線なのが気になる。そりゃ道男も花江に「おばさん」って言っちゃうな。

続けてはるさんの「必要なだけここにいればいい」からの家族への素早い指示に、道男が少し心を開きかけた。
「おばさん、よく見たらキレイな顔してんな」
道男の花江に対する言葉は、母親への追慕の情のように見えたが、直人からすればそうではないだろう。お母さんを女として見ているかのような道男に対し、警戒心を持つ結果になる。

はるさんは、今まで寅子から話を聞いたり、新聞で読んでいただけでは漠然としていたことが、道男を目の前にして実感として得られてきた。特に、親目線の立場として。
直明も、これまでの東京少年少女保護連盟の活動を踏まえ、兄目線で接している。

道男からしたらどうなのだろうか。猪爪家の人たちにどのように接せられても、結局は家族ではない。ツラく当たられても、お客様扱いされて優しくされても、自分に親がいないことを痛感させられるだけだ。
直明もチラッと言っていたが、様々な場所で大人たちに何度も失望してきた。多岐川やはるさんの言葉に、道男がときどき心を開きかける表情を見せるのは、彼の逡巡を表している。難しい問題だ。

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翌朝。
残念だが、道男は食事のマナーなど教えられていない。常に食べ物に困り、目の前にあったときには急いで食べなければ、誰かに取られてしまう。ずっとそんな生活をしてきたのだから。猪爪家だって、決して食料に余裕があるわけではないし、直人と直治だって食べ盛り。花江からしたら、自分の子どもにたくさん食べさせたいに決まっている。
はるさんと直明も、受け入れることに前向きだった前日の夜の気持ちは、既に削がれているだろう。口で言ってきかせて素直に聞いてくれる相手ではない。時間をかけて向き合わなければならない相手なのだ。
寅子と家庭裁判所がやろうとしていることは、果てしなく困難なことだ。猪爪家、分断の危機迫る。

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『あさイチ』の朝ドラ受けで、博多華丸さんが「道男くん、あの頃のマッチ(近藤真彦さん)みたい」と話していた。金八先生第1シリーズ「学ラン長ラン大混乱」の頃ですね。


「虎に翼」 6/18 より

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