館長の文脈棚#1 アルケミカルな棚
突然だが、私は古本屋が好きだ。
好きな理由はいくつかあって、あの古い湿った紙の匂いと、ランプのような匂いも好きだし、貴重な掘り出し物が見つかる宝探し的な雰囲気も好きだし、売る気が全く感じられない店主にニヤニヤするのも好きだし、何より良いものがお得に手に入るから好きだ。結局、お得なものはいつだって好き。
2年ほど前からできた習慣の一つに、散歩中に古本屋を見つけたらとりあえず入る、というものがある。入ると真っ先に文庫が置いてあるコーナーに向かう。
探しているのはパウロ・コエーリョ著の『アルケミスト 夢を旅した少年』。
私が愛してやまない作品の一つだ。
その古本屋になければ、あぁ今日は縁がなかったんだと退散し、あればあるだけ買い占める。
そうして、私の家と私の鞄にはいつも何冊かのアルケミストが置いてある状態になる。
まだアルケミストと出会ってない方で、私が是非仲人をしたいと思った方へ、おもむろにバックから取り出して、リボンを軽くかけただけのそれを渡すのが私の小さな愉しみなのだ。
テラソでは最近、本と本が繋がり、そして書棚の編集者の世界観が伝わる棚。文脈棚をはじめた。
その記念すべき第一回目の棚の中心に置かれるのが、先の本、『アルケミスト 夢を旅した少年』だ。
アルケミストを中心としてどのように意味の繋がった書棚を編集したのか、その裏物語を少しお話しさせていただきたいと思う。
芯:アルケミスト
パウロ・コエーリョ著.『アルケミスト 夢を旅した少年』
まず、この本のあらすじを一言でまとめるなら、
少年が夢をきっかけに旅に出て、様々な土地で出会いを積み重ねながら愛を知って帰ってくる物語。だと思っている。
人生に悩んだ時、自分に自信がない時、自分を生きたいともがいている全ての人に下手な自己啓発本よりもアルケミストをお勧めしたいくらい、小説を通して彼とともに「生きてて良かった」を感じるような作品だ。
ー現実・人・アルケミスト
作品のタイトルにもなっている「アルケミスト」は、錬金術師、という意味だ。
世の中の理に造詣が深く、(有名なのは鉄を金に変えたりする魔法使いのようなイメージだが)要は仕組みを理解して組成を変化させることのできる者のことを指す。
物語の中の少年は、旅を重ねるに連れてアルケミストに近づいていくのだが、実は現実世界の中にも少年のような旅路を重ねてアルケミストになっていった人間がいる。
そのうちの1人が、南アフリカ共和国元大統領のネルソン・マンデラだ。
彼は人生を通じてまさに「アルケミスト」になっていった人物だと思う。
南アフリカの有り得ないほど混乱した状態から、世界の組成を変えることに成功したリーダーの1人だ。
その流れで是非、野田智義・金井壽宏 共著の『リーダーシップの旅』も読んでほしい。はじめからリーダーな人間はおらず、段々と行動によってリーダーに成っていくプロセスが描かれている。
さらに、学術的な側によるならば、『行動探求』『中動態の世界』『善の研究』なんていう本もお勧めだ。
ー根底・理論・アルケミスト
科学や理論、哲学の観点からアルケミストを捉えてくれる。
特にこの『行動探求』なんかは、7段階あるうちのリーダーシップの最終形態がアルケミカルリーダーだと評しており、その『行動探求』を書いたアメリカの学者に最も大きく影響を与えたのは、日本人哲学者の西田幾多郎による『善の研究』なのだ。ここに東洋と西洋の繋がりが生まれるあたり、痺れる。
ー旅・環世界・アルケミスト
本を読んで、純粋に旅に出たくなる人はたくさんいると思う。
そんな人にはこんな時代だが行きたいところを夢に描いてほしい。
砂漠でも海でも自然でも都会でもなんでもいい。
土地を変えれば、自分も変わる瞬間を味わえるはずだ。
だからきっとみんな旅が好きなのだ。いつもと違う自分を味わいたくて。
旅をする中で、目を見張る瞬間も出てくるだろう。
世界はこんなにも面白かった、美しかった、ということを感じられる感覚、『センス・オブ・ワンダー』してほしい。
ー愛・帰還・アルケミスト
私は冒頭、これは少年が愛を知ってゆく物語だと言った。
なので、世界中の愛を知って帰ってくる物語を絵本も含めて集めてみた。
『かいじゅうたちのいるところ』モーリス・センダック作.
『星の王子さま』サン=テグジュペリ著.
『思い出の修理工場』石井 朋彦著.
『だってだってのおばあさん』さの ようこ作.
『ビロードのうさぎ』マージュリィ・W・ビアンコ作.
なぜ、これらの本が愛を知って帰ってくる物語なのか。
それは是非、実際に読んで感じてほしい。
さて、こんな形で、私を取り巻くアルケミストな世界をご案内してみた。
テラソに入って右手の壁沿いに文脈棚コーナーがあるので、機会があれば是非お立ち寄りいただけると嬉しい。1〜2ヶ月程度のペースで更新していく予定だ。
本当はもっとジャンルを繋げ、広げていきたいと思っている。
当館には漫画本の選定基準がまだないのだが、今から作っていくつもりだ。
このテーマであれば鋼の錬金術師も置きたいし、風の谷のナウシカも置きたかった。それはまた今度、別の文脈で。
私の世界観はこう繋がるが、他の方はどうだろうか。
それぞれの中にそれぞれの文脈がきっとある。
是非聞かせていただきたいし、是非、学ばせていただきたい。
書棚を通じて世界を共有していくのが、私はそれはそれは楽しいのである。
是非、皆さんの中にある文脈も教えてください…!
<追記>
もしもテラソにいらしていただくことがあり、もしも館長席に私がいたら、是非遠慮なく声をかけてください。
もし、まだアルケミストを読んだことがなくて読みたい方がいれば、是非、声をかけてください。
おもむろにリボン掛けのアルケミストが出てくるかも、しれません。
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