㊗️直木賞「ともぐい」
孤高の漁師・熊爪の生き方を軸に、彼を取り巻く者たちと自然界の理を俯瞰した筆跡で綴る。
「凄いモンを読んでしまった!」というのが第一の感想。
小学生の頃ハマった動物文学の巨匠・椋鳩十作品のハード版といえるかも。
直木賞受賞効果なのか、市民図書館では150人待ちの本作。そんなに待つなら購入した方が良いと思いつつ、息子に高校の図書室で借りてこさせた。
熊が山中で人を襲い、人里にも下りてきたニュースが続いた昨今。熊のリアルな描写が怖すぎる、なんてタイムリーな作品かと受賞に納得した。
人里離れた場所で一匹狼のように暮らす主人公・熊爪は、正に野生で野性。人間なんだけど熊みたいというか、普通の人間のようには生きられないような、とにかく特殊。
そんな男が伴侶に選んだ陽子も、常人とはいえない変な女。
読んでる時は「何処がええねん?」な陽子だが、奇人熊爪ならば仕方ないのかな。いや奇人だからこそ、同じ匂いのする陽子を求めたのかもしれないと読後の感想。
門矢商店の旦那・井之上良輔がどんな商売をして裕福なのか、何故熊爪を手厚くもてなすのか?
はっきり言及されていないのは少しモヤるが、世俗人良輔が熊爪を羨ましく思い、憧れていたのは終盤明らかになる。
ここの奥さんも変な人だが、世の中にはこんな夫婦も珍しくないのかもしれない。
著者の筆力が秀でており、あまりにもグロテスクな描写のため飛ばし読みした箇所もある。
未知の世界の物語のせいか、その力技で一気に読み進められてしまうが、主人公が凄すぎてその他の登場人物の背景が淡白に感じられた。
が、それも計算でバランスが取れていて良かったのかな。
動物に関する記述も多いが、私が最も愛着を持ったのは熊爪の相棒・茶色い犬。主要キャストなのに名前がないからこんな呼び方になるが、これも動物と人の区別なのか?
しかしラストをしめくくるこの犬の存在は、血の臭い漂う本作における唯一の明るさだと私は思う。
(そーいえば、中瀬ゆかり女史もラストが良いって言ってたよーな)
熊爪に最期まで寄り添ったこの犬の描写。唯一この場面にだけ、私は涙しながらわが家の呑気な愛犬に目をやった。やっぱり熊より犬がいいわ。
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