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「ポイズンドーター・ホーリーマザー」湊かなえ

人間関係が存在しない知的生命体がもしいたら?と思った。
この本を読み終えてふっと思ったのかこれだった。

人はみんな誰かのこども。
息子で娘、結婚すれば夫か妻になり、子供が出来れば親になる。
男なら父親・女なら母親。
同じ親から生まれた人とは兄弟・姉妹となり、合わせて家族と呼ばれる。
共同体の中に身をおけば、知り合いが出来てその中に友人が出来る。
さらに進めば親友だ。
恋愛感情が生まれ、成就すれば恋人となる。

で?
人間関係が存在しない知的生命体からしたら「で?」とならないか?
恋人や夫婦は少しわかりやすい。
種の存続の為の性交の相手だ。
でも家族とは?兄弟とは?友人とは?
人という種の存続が本当に大事なら、国家などの統制期間が赤ん坊を”飼育”すべきだ。
そうすれば、幼児虐待死など発生しないし、教育にムラができることもない。
適性を見て、共同体を構成するメンバーを集めればいいし、性交相手もDNA解析の結果で決めればいい。
なぜ上述したような関係が必要なのだ?
「そんな関係を結んで、うんうんそれで?、で?」なんて思うかもしれないなぁと。
反論するよ。
この関係性がこころを安らかにしてくれる、豊かにしてくれる素晴らしいものだよと。
でもこの関係性によって起こる悲劇もあるよね?と言われると、、痛い。

でもそうなんだ。
我々は様々な関係性がなければ生きていけない。
それがいかにあやうく、醜悪なものであっても。

本作は心をえぐる名手、湊かなえの短編集だ。
主人公はすべて女性、女性たちが友人・母・娘・異性、などなどの関係性の中で負の感情に翻弄される作品がつまっている。
作中でたびたびおこる視点の切り替えも見事だ。
そして相変わらずお上手なのが、登場人物たちが落ちる奈落が、遠い向こうの話ではなくまるで自分の足元にあるように見せる感じ、これが秀逸。

今回ミステリ的な手法はあまり感じなかった。
あるにはあったと思うが、人のいやーな感じが濃すぎてそれどころではありませんでしたわ。
くわばらくわばら。


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