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「暴雪圏」佐々木譲

以前紹介した「制服捜査」の続編だ。
「制服捜査」はおまわりさんになった元刑事、川久保巡査部長が権限を越えて事件を捜査、真実を明らかにするという短編集。
閉鎖的な村で起こる事件を、その根っこにある闇とともに明らかにする傑作短編集だった。

そんな名作の主人公が再登場する本作、今回は長編小説だ。

そもそもタイトルの暴雪圏というのが、まさに状況を表していて面白い。
今現在、自分は埼玉に住んでいるのだが、関東なんて数年に一度くらいしか、ああ雪が降ってるなぁ、積もるなぁという時はない。
なので舞台となる北海道の雪がどんなものか想像がなかなかできなかった。
ただこのタイトル、暴風圏の雪版だ!!と思うとえらい災害なんだな、とイメージができたし、その中で同時に事件が起こると言うシチュエーションにわくわくが止まらなかった。

世にある災害系の物語、小説や映画さまざまあるけれど、どれも災害とそれから逃れる人々ってだけでドラマになるのに、事件・ミステリーの要素をいれるのすごいよね。
災害系だけでも面白い、ミステリーだけでも面白い、しかも1たす1が、1と1じゃなくてちゃんと2にも3にもなる最高の組み合わせなのだ。
いつか食べてみたいと思っている夢のメニュー、とんかつ定食のご飯がかつ丼に匹敵する豪華さなのだ。

勝手に分析なのだが、まず災害環境の中では誰も命の保証がされていないし、閉鎖的な環境と限られた人数で事件が起こるというシチュエーション。
本来なら力を合わせなければならない人々の中に犯罪者がいる。
いつ災害で命を落とすかもしれない緊張感に、犯罪の緊張が上乗せされる、ジェットコースター。
面白くないわけがないのだ。

本作、主人公は川久保巡査部長とはなっているのだが、基本的には複数人の視点が入れ替わりながら進んでいく。
雪で閉鎖した地域で、小さなことなら不倫、大きなことだと殺人など、のっぴきならない事態に置かれた人々が描かれる。
彼らがどうしようもない状況の中で、慌てふためき破滅に向かっていく物語だ。

群像劇は人々が最終的にひとつの結末へと集約していくのが、読んでいて快感を得られる要素だと思う。
すべてが川久保巡査部長の元にやってきて、終焉を迎える。
それがすごい快感だったよ。

謎解き要素は少なかったが、分厚さを感じないぐらい面白いサスペンスだった。
映画化して欲しいな。
雪の撮影大変そうだけど。

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