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【シリーズ読書感想】『月とライカと吸血姫』

 今回のシリーズは『月とライカと吸血姫』。

 本編7巻+外伝1冊の計8冊のシリーズです。 

 BOOK☆WALKER読み放題対象。
 1〜5巻と外伝が対象です。
 なお、今月末(24年7月末)までなので、気になる方は早めにどうぞ。

 Kindle Unlimitedは1巻のみが対象です。


あらすじと、所感

 吸血鬼という異人もいる地球。
 米ソの宇宙開発競争をベースに、宇宙を目指す主人公たちを描いたシリーズ。

 ソ連をモデルにした共和国では、実験犬の代わりに人とほとんど変わりのない「吸血鬼」の少女を宇宙へ飛ばそうとしていた……。
 宇宙飛行士の訓練生の中でも、トラブルを起こして補欠になってしまった主人公が、彼女の面倒を見ることに。

 というストーリー。

1・2巻は文句なしに面白い。

 3巻で連合国(アメリカをモデルにイギリスも混ざる)側に視点が映り、主役交代。
 うーん、主人公たちの話が読みたいんだけど……と、読む手が止まる。

 しかも、だんだん文章やイラストが適当になっていって……。

 読む気力が、どんどん削がれていきました。

 というわけで、外伝は未読です。 

 とりあえず、「1巻は読んで欲しい!」そう思えるシリーズでした。



※ここからは正直、批評になります。
 苦手な方、読みたくない方はバック推奨です。

 ネタバレもあります。


なぜ、そこまで酷評を?

 なんでって、3巻までは文句なしに面白かったから。

 イラストレーターさんの画風も、小説の作風とすごく合ってる。

 なのに、なのに、途中からすごく適当になっていく!!

 小説も、イラストも。

 正直、ここから、「それなら、お前が書けば?」と言われそうなことを書いていく。

 でもね、違うの。

 わたしが読みたいのは、この作家さんとイラストレーターさんのコンビでの小説!!

 わたしが書いても意味ないわけ!!

 で、もう、「なんだってこんなことになったんだ!?」と頭を抱えたくなるくらい加速度的に酷くなっていく。

 本当に。

 その理由も最後でちゃんと考察する

 というわけで、詳細な感想、スタート。



で、結局、吸血鬼ってなんなの?

 主題が宇宙開発といっても、米ソ対立がモデルのため、結構国際政治的なストーリー展開になる。

 まぁ、それがメインストーリーになるのはしかたないと思う。

 でも、それ以外のストーリーが恋愛パートしかないのは違う。

 「吸血鬼と呼ばれる異種族がいるIF地球」が舞台。

 なのに、吸血鬼とはなんだったのか?

 という設定が一切されてない。

 「実験犬ライカの代わりに、異種族が飛ばされたらどうなるか?」という問いは面白いし、だから素直に1・2巻は面白い

 「彼らの故郷は月」と伝わっていて、実際に月に行って荒野だった。
 という、既存のストーリーでも「だから、吸血鬼も地球人だ、我々と同じだ」とメッセージを主人公が発するだけで、だいぶん印象が変わるんじゃないかな。

 IF世界の根幹部分なのに、フォローなしに放置はない。

 SFとしてはありえないと思う。

 物足りない。

 全部描き切らなくても、全く触れられなかったのは消化不良。
 SF読んだって気分にならなかった。



主人公、最終巻時点でアラサーですよね?

 宇宙開発を題材にしているため、しかたないとはいえ、主人公が一巻の時点で二十代前半。
 で、作中で6年以上すぎる。
 ってことは、二人が引っ付く時にはアラサーですよね。

 ちょっと、読んでてキツイかなーと。

 どんな過酷な状況でも、高校生がラノベの主人公になるってそういうことだったり。

 別にシリーズの途中でひっついても良くないすか?
 カップル成立しても続くシリーズは、新文芸だけど実際あるわけで。

 ついに想いを交わした二人に試練が! っていうスタイルでいいじゃないですか。
 盛り上がるじゃないですか。

 最後に付き合わなくても……と思わざるをえない。

 特に、3巻で視点が変わるわけで。

 その前にカップル成立していいと思う。

 だって、「え、あの二人の話が読みたいのに、なんで? なんも決着してないのに別視点ってどうなの?」って思ったから。

 でも、2巻でひっついていたら、「あの二人の話じゃないのは残念だけど、次のサブ主人公も楽しみだなー」と切り替えてもっと楽しめたと思う。

 しかも、宇宙開発のスケジュールが忙しくなって、月に行く前の休暇で決着なんだよね。

 それ以前に、3・4巻の間。
 広報活動で二人、世界中を旅してるのよ。

 しかも、あらぬ仲って誤解されているわけで。

 「お付き合いされているみたいだけど、吸血種と人間を同じ部屋ってのはありえないので失礼ですが別室を用意しました」とか言われたり、
 「え? ダブルベッドで一室じゃダメなんですか!? 今から手配します!!」みたいな勘違いされてもいいわけ。

 お互い意識するよね?

 それに、吸血種への差別にもはちゃめちゃに直面するよね?

 主人公、対外的には放置しかできない。
 でも、ヒロインに対してもなぁなぁで放置するか?

 違うよね?

 3・4巻は視点が違うから書かれてないけど、そういうことが想定されるわけで。

 書かれてないけど。

 だからこそ、読者も想像できるようなエピを書いておくべきだ思うんだよね。
 それを補完するのが外伝かもしれないけど、正直外伝まで読む気力体力がなかった。

 だんだん、文章が雑になっていくから……。



ストーリーラインが迷子

 ストーリー構想があんまりないんだなーと思う。

 「実験犬ライカの代わりに、異種族が飛ばされたらどうなるか?」からスタートして「米ソが協調する未来はどうだろう?」以外がない。

 恋愛パートも「最終的に二人が引っ付く」というあやふやなものしかない。

 他のキーストーンがストーリー上に置かれていない感じ。

 これは、作家さんが悪いんじゃなくて、編集さんもサポートすべきって問題だけど。

 兎にも角にも、メインストーリー「宇宙開発」とサブストーリー「恋愛」以外の深みがなくて、どんどん迷走してしまった印象。

 4巻まではそれで読み切れたのに、5巻から急にひどくなったと思う。

 ストーリーラインがはっきりしすぎてて、「はい、そろそろ犠牲者が出るね」「協力して月目指して、成功するんだよね」って想像できすぎる。

 2国の開発陣の間に軋轢が走るみたいなイベントさえない。

 本当に成功するの? っていうドキドキがない。

 宇宙開発の監修とかが入った反面、物語としておざなりにされている。

 小説なんだから、ストーリーの方が大事じゃない?
 実際の科学とか監修は、それを補強して深みを出すためのもの。

 1巻に「ストーリーの都合で科学的な部分は正確ではない」と後書きで書いてらっしゃったじゃん。

 そういうこと。



宇宙開発の流れが遅いなら、次世代にいっちゃえばいい

 3巻で主人公交代してるんですよね。

 主人公交代の前歴と、それで読者がついてこれたんなら。

 しかも、最終巻時点で一人子どもがいるし、主人公カプにもできそうなんですよね。

 なら、次世代を主軸にするストーリー展開はアリだと思う。

 そこすっ飛ばして、三代とか四代あととかでもいい。

 ちゃんと誰がどうなったか、うまく説明するなら。
 (ここでの「うまく説明」は文章での説明ではなく。誰も説明文なんか読みたくない。例えば、写真を描写、主人公がその前で敬礼「曽祖母である彼女は偉大な人だった。自分も宇宙飛行士に選抜されるように毎日お願いしている」というような描写としての説明)

 科学力が育って、遺伝子学も進めば、「吸血鬼とは」という疑問も解消しているかもしれない。

 というか、宇宙での実験が当たり前になって、それでも差別がなくならず、遺伝子学でもタブー視されて進展がない。

 だけど、これは解決すべき問題だ。

 というようなストーリー展開とか。

 まぁ、ハヤカワJA文庫とかの領分だと思うけど、ガガガ文庫、なんかそっちにカチコミに行きたがってるんだから、いいよね。



正直、商業イラストとしてはキツくないですか?

 ライトノベルとしては致命的だと思うんだけど、イラストがやばい。

 すごい手抜きになっていく。

 まず。

 前提として。

 ものすごく、作風とイラストがマッチしていると思うのね。

 宇宙を目指す青春感というか。
 それが、キラキラしたイラストの画風とめちゃくちゃ合ってる。

 1巻の表紙を見た時点では「イラストレーターさんよく探してきたなー」って思った。

 でも。

 5巻あたりからひどくなりすぎ。

 下書きに色をとりあえず置いただけになる。

 線から塗りがはみ出てるし、構図も「とりあえず暗めにして誤魔化せばいいのに、なんでそのまま?」みたいな。

 しかも、影の塗りが「一回丸ペンで描いただけ」になる。
 表紙でさえ、「それ影からはみ出てるんだけど、なぜ消さない?」っていうのがある。

 影からはみ出てる部分の修正なんて、消しゴムでもう一回なぞるだけ。

 どんだけこのイラストにかける時間がないの!? って。

 趣味で描いているアマチュアでも、「完成」としてこれをSNSにあげたりしない。
 制作途中としてならあり得るけれど……。

 第一、イラストレーターさんとしても、このレベルのイラストを掲載するって忸怩たる想いというか、マイナスの感情がゴッリゴリに溜まると思う。

 なんで、こんなことになってるんだ? って。

 イラストレーターさん自身の作品だから最終責任はそこにあると思うけど、これでオッケーを出した編集さんも大概では、と。

 考えうるのは、メディアミックスによるスケジュールの激化というか、編集さんがそっちの仕事で忙しすぎて、作家さんやイラストレーターさんへのフォローが疎かになったのかなと。

 アニメ化入って、スケジュールがキツくなりすぎたのではと勘繰ってしまう。

 ガガガ文庫ってそこらへんどうなの?

 例えば、イラストレーターさんが交代したラノベシリーズ三つ知ってるけど、そのうち2つがガガガ文庫。
 しかも、もう1つはイラストレーターさんが亡くなったからの交代だし。



文章も、雑に

 正直、その辺りから文章も合わなくなってきて辛かった。

 慣用句とか台詞の言い回しに、なんというか拒絶反応?

 そういうレベルで。

 これはもう、「合う、合わない」という世界の話だと思う。

 でも、3巻までは楽しめたし、面白かったんだけど。

 本当に、自分でも。

 なんで?

 って感じ。

 編集さんが交代とかした?

 まぁ、2巻でも「あとがきの後に3巻のプロローグ」という挑戦的な構成だったり。
 「いや、後書き読まない派が読まないじゃんそれ」みたいな、「読者のこと考えよ?」というのはあったけど。

 6巻から、ト書きみたいになる。

 4巻までは全然感じなかったのよ?

 本当に。

 1巻とか、「冷戦が絡む宇宙開発という重めのテーマを、短めの軽い文体で読ませる」と素直に感嘆したもん。

 何があったの? って感じ。

 まず、直接の原因としては「現在形」が連打されるのね。

 そして、状況描写じゃなくて、状況説明が重なる。

 多分、ここら辺は「宇宙関連の監修に力を入れた」っていうのが影響していると思う。

 科学的な論文とかの文体が侵入して、小説としての描写を侵食している感じ。

 最終巻に至っては、「これ、会話、噛み合ってなくね?」までになる。

 1巻の作風で!!!!

 ラストまで読みたかった!!!!!  



ガガガのSF路線が毒

 心の切なる叫びはこれくらいかな。

 最後まで、1巻を書いたときの作家さんのままで!

 読みたかった!!!

 じゃぁ、なんでこういうことになったのか?

 まず、ライトノベルって売れなくなってるんですよ。

 王道なファンタジー系のやつが特に。

 今のトレンドって「異世界」か「恋愛」なの。

 で、ガガガ文庫、どっちもド直球には取り入れてない。

 ドツボだってわかってるんだろうね。

 「恋愛」に関しては『負けヒロインが多すぎる!』『ミモザの告白』あたりがその枠と見做されてもいいんだろうけど、ちょっと違うと思う。

 なんというか、ラノベの今の「恋愛」って昔の「ラブコメ」とは違うし。
 『とらドラ!』なんかとは一緒にできないじゃん。

 わたし、「異世界」も「恋愛」もどっちも読まないんでジャッジできないけどさ。
 表紙の感じがまず違うんで、そこら辺は意識して外してんだなーと思う次第。

 で、じゃぁ、ガガガ文庫はどういう戦略を立てて、売ろうとしているか。

 その一つに、SF路線があると思うのね。

 『人類は衰退しました』は成功したじゃん?

 あぁいう「これまでのSFノベルスでは取り上げられないものを、ラノベとして出版する」という、SF路線。

 この証拠としては、ガガガ大賞の募集要項のジャンルに「SF」って明らかに表記していること。

 そして、24年3月出版の『ソリッドステート・オーバーライド』の帯にハヤカワの文字があること。
 「ガガガ文庫はハヤカワさんちのシマにカチコミをかける気か?」って。

 わたし、たいてい帯は取っておくんだけど、これは捨てたなー。

 だって、下品じゃん。

 なんでも読む雑食としては、ハヤカワさんも小学館さんも好きなわけ。
 なんか、そーゆー書き方は冷めるよ。

 でもね、ガガガ文庫のこのSF路線。
 わざわざ、ハヤカワの名前を出しちゃう理由。

 ハヤカワ文庫JAで、ハヤカワさん、ラノベよりのSFも内包しちゃった。

 だから、「他のSFノベルスにできないラノベよりの……」という戦略は難しいものになってしまう。

 で、何が言いたいかというと。

 この戦略の中で、『月とライカと吸血姫』はダメになっていったんじゃないか、と思う。

 まず、試作的な試みが2点あるのね。
 「後書きの後に次巻のプロローグを入れる」
 「監修を入れる」

 どちらも先に触れたけど、「後書きで読むの辞める人、結構いるから、読み飛ばされるでフツーに」だし、「監修入れたせいで文体が崩れた上に、ストーリーがおざなりになった」わけ。

 で、一番の毒はアニメ化。

 SF路線があったから、ガガガ文庫、『月とライカと吸血姫』のアニメ化、推しちゃったんじゃない?

 ゴリ推ししちゃったんじゃない?

 アニメ化するなら、その放映に合わせて新刊をとかさ、色々スケジュールがあるわけじゃん。

 それで、5巻からぐだぐだになって、原稿もギリギリでちゃんと推敲されず、イラストレーターさんにも時間がなかったんじゃない?

 って思うわけ。

 そう思う理由としてはね、他のガガガ文庫のアニメ化作と違って、『月とライカと吸血姫』の登録数は877。

 わたしの経験的には、四桁いってないと「え? アニメ化したんだ!?」って感触になる。

 アニメ化された他シリーズの1巻の登録数はこんな感じ。

『アイゼンフリューゲル』865
『AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~』3044
『妹さえいればいい』2449
『俺、ツインテールになります。』1155
『GJ部』1586
『コップクラフト』1666
『ささみさん@がんばらない』2078
『されど罪人は竜と踊る』1502(ガガガ文庫のみ)
『七星のスバル』412
『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』1366
『弱キャラ友崎くん』2464
『人類は衰退しました』3274+3510
『とある飛空士への追憶』4731
『変人のサラダボウル』649
『負けヒロインが多すぎる!』942
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』8917

 同じく四桁いってないシリーズの考察しとく?
 『アイゼンフリューゲル』 Fate系。根強いファンがお金を落とすので、他の読者はあんまり関係ない。
 『七星のスバル』 2015年のMMORPGものって、『ソードアート・オンライン』にあやかろうとして、ヒットしなかったオチでは?
 『変人のサラダボウル』 ガガガ文庫、アニメ化実績のある作家さんをアニメ化しがちくない?
 『負けヒロインが多すぎる!』 アニメは今期からなので、すぐに四桁いくと思われ。

 読メの登録者数だけではなく、巻数も違うんだよね。
 他は、10巻以上のシリーズが多いんだけど。

 『月とライカと吸血姫』や『七星のスバル』は8巻で終わり。
 うん、打ち切られたといっても差し支えない……。

 ガガガ文庫の戦略に振り回されて、犠牲になったシリーズなんだなー……と。

 思う次第です。

 あー!!!
 もう!!!!

 3巻までの興奮で最後まで読み切りたかった!!

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