ゴリラ

「ゴリラって全部B型らしいね。」
 おはよう、の後に続くとは到底思えないセリフを聞いてさっきまでの眠気はどこかへ行ったようだ。
「昨日テレビでやってたの?」
「そうそう、まっつんも見た?」
「いや見てない。でもその話は聞いたことある。」
「全員B型だと絶対に大変だと思うんだよ。」
 陽介は悩ましげな表情を浮かべてそう言った。なぜそんなことを言うのか、なんとなくわかったが一応問うてみる。
「なんで?」
「だってみんなが自分勝手なんだよ?」
 予想通りだ。あまりにも予想通り過ぎてびっくりしてしまう。
「言いたいことは二つある。まず、血液型で性格を決めるな。」
「あれ、あ、まっつんもB型だったっけ?」
「そうだよ。」
 B型はどうにも不遇である。自分勝手だとか、性格が悪いだとか、他の血液型に比べて不当な扱いを受けることが多い多い。その反面、AB型はどうだ?AB型です、というだけでまさかの天才扱い。この差には納得がいかない。
 もしかすると、この血液型の人はこういう行動をとりやすいとか、こういう思考回路になりやすいという科学的根拠も少しはあるのかもしれない。しかし、大半はそうではない。皆、この血液型はこの性格だ、と洗脳されているのである。
「でもB型ってだけで自分勝手だとか、性格悪いって言われるのは納得いかん。B型はスリザリンじゃないぞ!」
「スリザリン?ああ、ハリーポッターの?」
「そう、ハリーポッターに出てくるクラスの一つ。他の三つのクラスから嫌われてるけど、スリザリンの卒業生には実際に悪い奴が多い。だから嫌われてる。そういう明確な根拠がある。でもB型はどうだ?ほかの血液型より極端に犯罪者が多かったりするのか?違うだろ。」
 俺はなおも熱弁をふるう。
「そもそもスリザリンは、学校という教育機関における区分の一つだから、もしかしたらそのクラスでは偏った教育がされているという可能性も捨てきれない。しかしB型は、あくまで血液の区分に過ぎない。もしかしたらこの血液分子は人の性格にこう作用しやすいとかそういう話もあるかもしれないが、」
「もうやめて!わかった、僕が悪かった。」
「分かったならいいんだ。それに俺も今日、一つ分かったことがある。」
「何?」
「こうやってアンチB型をその都度説得すれば、そのうちB型の地位が向上する。」
「いやそんなことしたらB型の悪評がまた一つ増えるだけだと思うよ。」
 それもそうか、と陽介の言葉に納得させられる。やはりB型は不遇である。
「言いたいことの二つ目って何?」
 完全に失念していた。
「そうだった、いやもし仮にB型の人が自分勝手だとしても、なぜそれをゴリラに適用する。」
「そりゃあゴリラと人間って98パーセントくらい遺伝子が一緒なんだよ?それはもう、人間じゃん。」
 本物のバカである。その2パーセントの違いを分かってない。
「ゲームのローディング中の98パーセントとは話が違うんだぞ。その2パーセントこそが人間たる、ゴリラたる所以なんだよ。」
「なんかさっきから話が難しすぎて全然わかんないわ。」
「だからそもそも生き物の進化というのは、」
「もういい、もういいってば。」
 陽介が珍しく強めに俺を制する。
「せっかく説明してるんだから最後までちゃんと聞けよ。」
 陽介がはあ、とため息をつく。
「もう、一人で話を進めないでよ。会話はキャッチボールなんだから。自分勝手だな。」
「誰がB型だ!」
「そんなこと言ってないから。大体そんなに
血液型のこと気にするなんて繊細過ぎ。もしかして、AB型なんじゃない?」
 そう言われると、悪い気はしない。

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