リア充

普段ならそれほど外食することはなかったが、今日は勇作が夕方過ぎに帰ってくることが分かったため、珍しく家族三人で予定を合わせて外食に来ていた。
「とりあえず、以上でお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
父親が注文を終えると、店員はそう言って頭を下げてから厨房へと向かった。
「なんだかんだ言って、三人でご飯食べに来るのなんて久しぶりじゃないか?」
「ああ、うん。」
勇樹は適当に相槌を打つ。
「確かにそうかもしれないわ。ほら、それこそ俊作が帰ってきた時にみんなで、なんてことはあるけどね。」
「そうかな。」
勇樹はまた適当に相槌を打つ。
「どうした、元気ないのか?」
「え、いや普通だけど。」
「そうか。なんか素っ気ないなあ、って。」
「いや、自分で言うのもあれだけど、いつも大体こんなもんでしょ。」
「そんなことないわ。勇樹はいい子よ。」
「そうだ、いい子だ。」
「何の話だよ。」
勇樹は少し大きな声で言い放った。
「あ、もしかしてあれか、今日友達と予定あったりしたのか?」
「いや、そんなことないよ。本当、なんでもないから。」
「あら、そう?」
「うん。」
「もしかしてあれか、恋の悩みか。」
「え?」
「あれだろ、リア充ってやつだろ。」
「いやリア充って……今どきそんな言葉使ってる人いないから。」
「え、そうなのか?」
「うん、死語だよ死語。」
「はあ、時代の移り変わりは早いなあ。」
「そうねえ。」
すっかり自分の両親も歳を重ねたものだと、勇樹は思った。
「で、どうなんだ?」
「何が?」
「だから、恋愛の方だよ。」
「いや、なんもないよ。」
「何もないの?」
亜寿美が心配そうに聞く。
「なんもないよ。」
「好きな人もいないの?」
「うん、いない。」
「えー、高校生の頃なんて恋愛一直線になっちゃうものでしょ。」
「それは人によるから。」
「なんか言いづらいことがあるのか?」
神妙な面持ちをする勇作。
「いや、なんもないって。あの、こんなこと言いたかないけど、ただモテないだけだから。」
「そうなのか。」
勇作は悲しそうな顔をした。
「勇樹がモテないわけないわ。大丈夫。」
亜寿美はなぜか謎の励ましをしてきた。
「やめてよ、変な空気になるから。大丈夫だって、毎日楽しいから。」
「それなら、いいんだけどな。」
「じゃあ陽介くんは、どうなの?」
「陽介もいないと思うよ。」
「あらそうなの。」
「うん。」
「じゃああの子は、英一くん。」
「英一は、いるけど。」
「へえ、そうなのね。いいわねえ。」
「青春してるなあ。」
二人はなぜか少しにやけていた。
「いやでもあれだぞ、決して焦ることではないからな。」
「そうよ、それはそう。」
さっきまでにっこりしていたにも関わらず、二人は突然真顔でそう諭し始めた。
「別に焦ってないよ。」
「そうか、それならいいんだ。」
「ごめんね、変なこと聞いちゃって。」
「いやいいって。」
「まあ、いつかそういう人が出来たらその時はこう伝えるんだ。亜寿美さん、僕と付き合ってください、って。」
「もう、勇作さんたら!」
それは二人の場合だろ、というツッコミは胸の奥にしまい、勇樹は席を立った。
「どこ行くんだ?」
「普通にトイレ。」
「ああ、そうか。」
「いってらっしゃい。」
「はいはい。」

「恋人ねえ。」
個室に腰をおろすと勇樹はそう呟いた。
もちろん人並みには異性に興味こそあったが、いざ自分のこととなると全く想像がつかなかった。
そういえば兄である俊作も高校生の頃に彼女がいたという話を聞いた。そして、英一にももちろん彼女がいる。
別に今すぐどうしたいという訳では無いが、少し英一に話を聞いてみようかと、がらにもなくそんなことを思うのだった。

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