四季

 異国の地での経験というものは、人の人生を豊かにし、それ以降の価値観も大きく変えることがある。
 よく海外に行ったことで、自分の国のここが劣っていると我が物顔で言い張るものがいる。
 それは絶対に間違った意見とは言えないかもしれないが、何事にも表裏があるように、いい面、秀でた面があれば、それと同時に悪い面、劣っている面があるのだ。
 結局、そうやって悪いところをただ論うのではなく、どうすればよくなるかと考えることこそ、その国にとっても、その人自身にとっても、真の意味での成長といえよう。

「クリスって、なんで日本に留学したい思ったの?」
「うーん、もちろんいっぱい理由ありますけれども、やっぱりアニメとか漫画の力はありますよね。」
 日曜の昼下がり、特に予定もなかった二人はリビングでテレビをつけながらまったりとしていた。
「やっぱりアニメかあ。」
「そうです。日本のアニメはすごいです。」
「へえ、そうなんだ。」
「日本のアニメすごいのみんな知ってますから。」
「すごい熱だね。」
「元気ですよ?」
「ああそうじゃなくて、熱心、分かる?」
「ああ、その熱だ。勉強になります。」
 そう言うとクリスは隣に置いてあったノートを取り出すとメモを取り始めた。
「え、そうやって毎回メモしてるの?」
「もちろん。授業で教わる日本語と、みんなが使う日本語って違うときあるでしょ。」
「ああ、それはそうかもね。普段はそんな正しい使い方しないもん。」
「だから、こうやってメモします。」
「そうなんだ。え、他には何か理由あったの?」
「ああ、あの、あれです、あれ。」
「あれ?」
「冬とか夏とか。」
「季節?」
「そう。なんか、言いますよね、四つで。」
「ああ、四季。」
「それそれ、それです。」
「四季って、どういうこと?」
「日本みたいに、こんなにわかりやすく季節、であってますか?」
「うん、季節。」
「その、季節が分かれてるところってありまんよ。」
「そうなの?」
「そうです。だって、equatorに近かったら熱いでしょ?」
「イク、何それ。」
「地球の、真ん中の、線。」
「えっと、ああ、赤道?」
「赤道、って言いますか。」
「そう。赤に道って書いて赤道。」
「はあ、そうなんですね。」
 クリスはまたメモを取る。
「まあでもそうか、逆に北の方だと寒いだろうし、そうか。」
「これであってます?」
 クリスはほのかにメモを見せた。
「あってるあってる。」
「おお、ありがと。」
「いえいえ。でもなるほどね、四季があるのが魅力なんだ。」
「そうですね。だから日本の人、季節で色んなことあるでしょ?」
「ああ、お花見とか海水浴みたいな?」
「そうそう、それです。」
「うーん、当たり前すぎて何とも思ってなかった。」
「なんでもそうですね。外から見たらいいってわかりますよね。」
「うん、そうだね。」
「だから私、季節限定、好きでしょ。」
「ああ、そうだね。」
「食べ物でも季節分かるのすごいですね。」
「うん、そうだよね。」
「どうしました、急に大きな声で。」
「ううん、なんでもない。」
 ほのかは少し、日本に生まれてきたことを誇らしく思うのだった。

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