インソムニア

何の変哲もない、よくある休日。特に目的があるわけではなかったが、ほのかはクリスを誘って街の方まで買い物に来ていた。
「せっかく誘ったのに、迷いに迷った挙句なんにも買わなくて、なんかごめんね。」
「ダイジョブよ。全然、誘ってくれてありがとうね。」
「そう言ってもらえてよかった。じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
何気ない会話をしながら駅に向かって歩いていると、突然クリスの話し声が消える。
ほのかが後ろを振り向くと、何やら道の横にあるお店の中を熱心に覗くクリスの姿が。
「クリス、どうしたの?」
「あれ見てください!」
クリスが指さす方を見ると、大きなパフェを食べる小学生くらいの男の子と、それを笑顔で見守る両親らしき姿。
「幸せそうだよね。」
ほのかはうっとりとした表情でそう呟いた。
「そうですけど、あれ、すごい美味しそうです!」
「え、そっち?」
ほのかは思わず驚いた。
「はい!ワタシ、甘い好きです!」
「ああ、そうだよね。」
ほのかはよくチョコレートを美味しそうに口に運ぶクリスの姿を見ていた。
「あれ、食べる、ません?」
「うん、そうだね。せっかくだし食べてこうか!」
二人は意気揚々と店内に入っていった。
席に通されメニューを見ると、そこには色々な種類のパフェが。
「すごい、いっぱい。」
「うわあ、どれにしよか、迷うですね!」
「どれも量多そう。全部食べ切れるかな。」
「甘いものは別腹、日本ではそうでしょ?」
不安そうなほのかを誇らしげな表情を浮かべながら励ますクリス。
「そう、だよね。」
「ワタシ、このチョコレートパフェにします!」
「おっけー、じゃあ私はこのいちごパフェにしようかな。すみませんー!」

それから二十分と経たずに二人は巨大パフェとの激戦を制し、食べきったのだった。
「ふう、食べちゃった。」
「ね、甘いものは別腹、ですです?」
「そうだね、クリスの言う通り!」
そんな話をしてると、近くから子供のくしゃみをする音が。
「あ、ほら、さっきの子だ。」
ほのかがくしゃみの聞こえた方を見ると、ちょうどお店に入る時に見かけた親子の姿が目に入った。
「ホントですねー。」
「風邪かなあ。あ、そういえば、ひとつ聞きたいことあったんだ。」
「なにですかー?」
「風邪をひくってキャッチアコールド、っていうでしょ?」
「うんうん。」
「でもハブアコールドとも言うでしょ?その違い、それってなんなの?」
「うーん……日本っぽくと、catch a coldの方は、風邪ひいた、って感じで、have a coldは、風邪ひいてる、みたいですかね。」
「ああ、じゃあハブアコールドは、ひいてる状態、みたいな?」
「うんうん!そんなかもです!」
「なるほどね、なんか分かったかも。」
「例えば、I have insomniaとか。」
「インソムニア?」
「あれ、ほのか、映画好きですね?」
「まあ、うん。でもごめん、わかんない。」
「おお、すみません。面白いので是非!」
「うん、見てみるね。で、意味は?」
「あのなんでしたっけ、眠れなくなるやつです。」
「眠れなくなる……あ、不眠症?」
「そうです!」
「へえ、勉強になった。でも……」
「でも?」
「なかなか使わないかも。」
「そうですね!」
そうして二人は笑いあった。

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