タケノコ

今日は土曜日、仕事は休みである。
市役所勤務の公務員は残念ながら高給ではないが、こうして土日祝日がしっかり休みなのがありがたい。
都会で就職をした友人などとたまの機会に飲み、仕事の話をしたりすると心底そう思うものだ。
サービス残業に休日出勤は当たり前、趣味に費やす時間もないという。
それもまた人生。自分の選択である。
休日という安心感からすっかり昼過ぎまで寝てしまった石嶺寛太は、まだ眠そうな顔をしながら布団の中でそんな一人語りを頭の中に浮かべた。

顔を洗い、水でも飲もうと台所に向かうと大きなダンボールを見つけた。
「そうだ、昨日ばあちゃんからタケノコが届いてたんだった。」
段ボールを開け、たくさんのタケノコを見ながら色々と考える寛太。
「せっかくの休みだし、料理するか。」
寛太はベッドの方に向かい、枕元に置いてあったスマホを手に取った。
「タケノコってどう食べればいいんだ。」
そう言いながらタケノコを使った料理のレシピを調べてみる。
数分ほどスマホをいじり、何を作るか決めた寛太は台所へ向かった。

「とりあえず土佐煮にしよう。」
スマホを立てかけ、レシピを見る寛太。
「ゆでたけのこから始めてるレシピが多いなあ。まあそうか、普通に売ってるタケノコってそんなもんか。」
仕方なく色々と調べ、タケノコの処理方法を見つけた寛太は下茹でするのだった。
下茹でしている間、スマホを見る寛太。
「タケノコご飯もいいなあ。まあでもまだタケノコたくさんあるし、とりあえず今日は土佐煮でいいか。」
とりあえずいい感じになったようだ。さてここからが本番である。
一度タケノコを取り出し、食べやすい大きさに切る。自分一人で食べるんだ、ここは大胆に大きめのサイズで。
醤油などで作った合わせ調味料と一緒に、タケノコをもう一度鍋の中に、解き放つ。
次は……まずいことになった。次の工程を確認して愕然とする。
さすがに鰹節は常備していない。あまりの出来事にショックを隠し切れない。
しかしそうも言ってられない。こうしてる間にも、タケノコはどんどん美味しくなっていくのだ。
自分一人で食べるんだし、そう自分に言い聞かせ、ここは鰹節なしで望む。

十五分くらい経っただろうか、いい感じに煮えてきたのが分かる。
私は鍋からタケノコを引き上げ、友人の結婚式の引き出物でもらった綺麗な器にタケノコたちを盛りつけた。
食卓に運ぶ。
「じゃあ、いただきます。」
 そういってタケノコに箸を伸ばそうとしたところで気づく。今日はせっかくの土曜日、こんな時間から飲んでもいいのである。
「確か……」
 そう呟きながら冷蔵庫を開けると、しっかりと冷えたビールがあるではないか。
「今日は休みだし、いいよな。」
 食卓までビールとグラスを運び、蓋を開ける。

 プシュッ

 どの音色よりも素晴らしいかもしれない。
 あ、いや、それは訂正しておこう。私たちの太鼓の次に素晴らしい音色だ。
 誰も聞いていないのは分かっているが、こうでもしないと、後で竜さんから、寛太、お前は太鼓をなめてるのか、とどやされるに違いない。
 まずはグラスを口元まで運び、中に入った黄金の液体を流し込む。たまらない。
 そしてお次は、いい色になったタケノコを口元へ運ぶ。まだ熱々と湯気が立っているタケノコを口に収める。幸せだ。

 石嶺はこうして、たまにはこんな休日もいい、と一日中飲み続けるのであった。

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