トマト

ひとしきりプレゼント選びに奔走した三人だったが、最終的に英一が選んだのは初めから目星をつけていたネックレスだった。
「いやあ、でも納得いくプレゼントが見つかって本当良かったね。」
ショッピングモールのベンチに座りながら、陽介は自動販売機で買ってきたコーラを飲んだ。
「まあ、俺たちは何もしてないけどな。」
勇樹も同じくコーラを飲みながら呟いた。
「それは、そうだけど。」
「そんなことないよ。二人が来てくれて本当に助かったよ。」
英一は心の底からそう言った。
確かに買ったものこそ初めから決めていたものだが、それもこれも二人が着いてきてくれたからこそ決心が着いたのだ。
「まあ、そう言ってくれるなら。」
「うん。でも絶対似合うよ、そのイニシャル入りのネックレス!」
「いや、俺たち二人とも英一の彼女さんに会ったことないだろ。」
「そうだけどさ。」
「いやいや、二人の気持ちが本当嬉しいんだ。」
英一は二人をなだめた。
「でも、こんなこと言ったらあれだけど、結構値段はしたろ。」
「まあ、安くはなかったかな。」
「バイトとかしてたのか?」
「ああ、実はね。」
「へえ、高校生でもバイトできるとこか。どこでしてたんだ?」
「うちの近所にある、昔からよく家族で行ってたイタリアンレストラン。」
「「イタリアンレストラン?」」
二人は口を揃えて驚いた。
「ああ、でもあれだよ、高級レストランって言うより親しみやすい感じの。」
「へえ、そうなんだ。」
「バイトとか大変じゃないの?」
「まあ、そうだね。でも昔から知ってる店だからすごいよくしてくれて、よかったんだ。」
「なんかそういうのいいな。」
「そうだねー。」
「え、二人ともバイトに興味あるの?」
「うーん、いつかはしたいかな。」
「興味無くはないけど、まあ誕生日プレゼントを送りたい恋人もいないし、俺も大丈夫だ。」
「悲しいこと言わないでよ。」
「ああ、ごめん。」
「そっかそっか。」
英一は苦笑いを浮かべた。
「そうだ、今度英一のバイト先に行こうよ。」
陽介からの純真な提案に思わず飲み物を吹きこぼしそうになる英一。
「え、僕のバイト先に?」
「そう。どう、勇樹?」
「いや、さすがに迷惑だろ。」
「え、迷惑?英一。」
「いや、その……」
「迷惑とも言いづらいもんだろ。」
「そうかなあ。」
「そうだよ。まあ、興味はあるけどな。」
「興味は、出るよね。」
英一は少し照れくさそうに言った。
「そうだな。え、学生でも行ける値段帯か?」
「うーん、学生だとさすがにかな。でも家族で行く分には、って感じ。」
「なるほど。ほら聞いたろ、俺たちじゃ行けないんだよ。」
「家族で行けばいいじゃん。」
「それはそうだけどよ。」
「おすすめのメニューはなんなの?」
「どんどん掘り下げるな。」
「うーん、トマトクリームパスタかな。シンプルなんだけど、一番美味しいんだ。」
「トマトのパスタか。いいなあ。」
「僕も食べてみたいかも。」
「さっきから行くことしか考えてないだろ。」
「いやあ、だって、もうパスタ食べたい口になってるし。」
「それなら、あそこ行くぞ。」
勇樹の指さした先にはイタリアンのファミリーレストランが。
「うん、なんか僕も食べたくなってきちゃった。」
英一も続いた。
「じゃあとりあえず今日はあそこで飯食って、次こそは……」
「九十九っちのバイト先に行く?」
「違うだろ、ボーリングに行くんだよ。」
「ああ、そうだった。」
三人は缶を捨てると、レストランへ向かうのだった。

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