クルミ

痩せたい。それは人類共通の願望。
痩せたい理由は人様々。好きなあの人に振り向いてほしいから。好きな人などいなくてもモテたいから。身体に支障をきたすレベルで太ってしまったから。ただ実直に、痩せたいから。
理由などなんでもいい、皆痩せたという結論を手に入れたいのだ。
気にしてないように見える人や、端から見れば痩せる必要がないように感じる人ですらそうなのであるから、これは本当に人類の永遠の謎である。
特に、思春期の女子ともあれば、それはもう、最早義務付けられているのではないかと思うほど、口を開けば痩せたい、という言葉が溢れ出てくる。
美味しいもの、甘いもの、そんなものを放課後一緒につつき合い楽しみながらも、皆その裏では悩んでいるのである。

「はあ、どうしよう……」
放課後の教室、ほのかは絶望の表情を浮かべていた。
「大丈夫?」
「はあ、本当最悪。」
「どうしたの?」
「太った……」
ほのかからの告白を受けて、同じく絶望した表情を浮かべる彩世。
「それは、辛い……」
「分かってくれる?」
「もちろん!今日は樽井先生のところに行かないんだ、って思ってたけど、そりゃあそうなるよね。」
「分かってくれてありがとー。」
「なんか、樽井先生にそんなこと言ったら、悪気はないのに傷付けてきそう。」
「そう!あの人、フォロー下手そうじゃん?」
ここにいない樽井からすればいい風評被害であるが、実際にそう言われるリスクを思えばこそ、今日理科準備室に二人が来なかったことはよかったのかもしれない。
「実は私も、最近ちょっと。」
彩世もそうこぼす。
「え、彩世ちゃん全然痩せてるじゃん!」
「ううん、もう大変よ。私からしたらほのかちゃんだって。」
二人はそう言うと目を合わせて泣きあった。
「一緒に痩せよ?」
「うん、そうしよう。」
二人の目に火が灯った。
「しかし、ここでまたしても壁に突き当たる。
そう、どんな方法で痩せるかだ。」
「何をするかだよね。」
「うん。」
「運動、かなあ。」
「わかるけど、でも出来るだけ楽して痩せたい。」
「わかる!」
結局ダイエットを心がけてもここで壁にぶち当たるのである。
「じゃあ、間食を控える?」
「そう、ね。」
これは花の女子高生にとって死活問題とも言える提案である。
「そうだ、例えば間食するにしても、なんか身体にいいものに変えてみるとか?」
「ああ、いいね。」
「なんだっけ、クルミ?、とかそういうナッツ系、そういうのはいいんだって。」
「あ、なんか聞いたことあるかも。」
「あとは鶏肉とか?」
「うんうん。ササミだっけ?」
「多分、そんなの。」
「よし、今から行こう。」
「え、どこに?」
「とりあえず本屋さんで色々見て、そのあとスーパーに。」
「う、うん。わかった。」
「二人で、絶対痩せるぞ!」
「おおー!」
と、その頃、ふと見回りをしていた樽井が廊下からその会話を聞いていたが、もちろん教室に踏み入ることは出来なかった。

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