ジョーカー

「わあこれ、懐かしい。」
「まだそんなに経ってないはずなのに、もうすっかり昔のことのような気がしちゃうよね。」
 陽乃と涼は、何気なく見つけた小学校の頃の卒業アルバムを見返していた。
「そうそう、こんなこともあったね。」
「うわあ、これ涼ちゃんじゃない?」
「どれどれ?あ、本当だ、私だ。」
 そこには入学してまだすぐの頃の涼の姿。
「ちっちゃくて可愛い。」
「ええ、そうかなあ。」
「可愛いよお。この写真なんて、もしかしたら今の楓ちゃんくらいじゃない。」
「ああ、でも確かにそうかも。」
 そんな話をしながら、ページをめくっているとガチャっという音と共に扉が開いた。
「楓、ノックくらいしなさい。」
「ねえねえ、陽ちゃん何してたの?」
 やはり涼のことなどお構いなしだ。
「今はね、二人で小学校の卒業アルバムを見てたの。」
「そつぎょーあるばむ?」
「そう。小学校を卒業した時にもらった、写真とかがいっぱい載ってる本。」
「へえ、そーなんだ。」
「楓も幼稚園卒園した時にもらってたよ。」
「ふーん。」
 実の姉ということもあり、どうにも涼に対しては塩対応である。
「楓、宿題は終わったの?」
「うん、終わったもん。」
 少しふくれっ面で答える楓。
「ねえ、陽ちゃんあそぼ。」
「うん、いいよ!」
「ごめんね、自分勝手で。」
 涼はそう謝ったが、陽乃からすれば迷惑なぞ、そんなことなど全く思っていなかった。
「ううん、全然全然。じゃあ、何しよっか。」
「うーん、トランプ。」
「トランプ?いいよー。」
「じゃあトランプ取ってくる。」
 そう言うと楓は走って部屋を出ていった。
「トランプで遊んだりするんだ。」
「うん。うちゲームとかあんまり持ってないし、だから週末とか家族四人でトランプしたりするのよ。」
「へえ、仲いいね。」
「楓がやろうって言いだしたら最後、やるしかないのよ。」
 涼は少しため息交じりに呟いた。
「次女って本当にすごいわね。お姫様状態よ。」
「そうなんだ。」
 思わず笑ってしまう陽乃。
「持ってきたよー。」
「わあ、ありがとう。じゃあ、何するの?」
「まずは、ババ抜き!」
「ババ抜き、いいねえ。」
「陽ちゃん、ババ抜きって知ってる?ババ抜きっていうのは隣の人のカードを取って、おんなじ数字だったら捨てるの。でね、最後までジョーカーを持ってたら、ダメなの。」
 得意げにババ抜きのルールを教える楓と、満足そうな表情でその様子を眺める陽乃。
「陽ちゃん、聞いてた?」
 ぽわーんとした表情の陽乃を見て、一喝する楓。
「うん、聞いてたよ。ルールは分かったよ。」
「じゃあ……お姉ちゃん、配って。」
 どうやらトランプを切るには楓の手はまだ小さいらしく、うるんだ表情で涼の方を見ながら楓は頼んだ。
「こういうときだけお姉ちゃんって呼ぶんだから。」
 そんな微笑ましい光景に陽乃は思わずにやけてしまった。

「ふふーん、また私の勝ち!」
 最後のペアが揃ったのか、楓は得意げな表情でカードを捨てた。
「わあ、楓ちゃん本当に強いね。」
「そうでしょー!」
「じゃあはい、そろそろ終わろっか。」
「えーんまだやるのー。」
「もう遅くなってきたし、陽乃も帰らないとだから。」
「陽ちゃん、帰っちゃうの?」
 うるんだ瞳で見てくる楓。ノックアウト寸前の陽乃。
「う、ん……ごめんね、もう帰らなきゃ。」
「うん。また遊びに来てね。」
「うん、絶対また来るね!」
「じゃあ……最後に一回しよ?」
「楓―?」
「まあまあ。じゃあ最後に一回だけ、しよっか。」
「やったー!お姉ちゃん、お願い。」
「はあ……」
 結局、もう五回くらいやるまでは、解放されないのだった。

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