クッキー

「でもすっかり元気になったみたいでよかったよ。」
 俊作は大河が入れてくれたコーヒーをクッと飲んだ。
「いや本当に、ありがとう。」
 大河は深々と頭を下げた。
「頭なんか下げるなって。」
「いや、感謝してもしきれないよ。」
「まあまあ。」
「でも、こんなことにはなったけど、俺はやっぱり花華が好きだし、ふー姫が大好きなことには変わりないから、これからも応援していくよ。」
「おお。まあ、大河がそれでいいならいいと思うぞ。」
「ありがとう!」
「デカいって。隣の部屋に聞こえちゃうんじゃないか。」
「ああ、隣の人はまだ仕事に行ってると思うから、大丈夫よ。」
「まあそれならいいけど。」
「そんなことは置いておいてさ、今日は俊作にお礼がしたくてさ。」
「いや、お礼なんていいんだって。」
「まあまあそう言わずに。ちょっと待っててくれよ。」
「ああ、うん。」

 数日前の深夜、俊作のもとに大河から「すっかり元気になりました」という連絡が届いた。
 それならよかったと安堵する俊作に対し、大河はお礼がしたいから今度うちに来ないか、と誘ってきたのだった。
 そのときも俊作は断ったのだが、大河のあまりの押しの強さについぞ断り切れなくなり、こうして家に足を運んだのだった。

「じゃーん!」
 大河は何やら大きめの白いお皿を持ってきた。
「おお、ん?」
 その白いお皿にはたくさんのクッキーが並べられていた。
「クッキーだよね?」
「そう。」
「ええ、こんなに。買ってきたの?」
「いやいや、作ったんだよ。」
「え、作った?」
「そう。」
「誰が。」
「俺が。」
「え、大河が?」
「そうだよ。」
 大河はさも当然といった口調で答えた。
「え、なんかすごい売り物みたいに綺麗じゃない?」
 並べられていたクッキーたちは、スーパーで見かけるようなよくあるクッキーではなく、どちらかというとデパ地下で売られているような、少し高級なものに見えた。
「そんな褒められるとは、嬉しいなあ。」
 大河もまんざらではない様子だった。
「え、本当の本当に大河が作ったの?」
「だからそうだって。」
「いや、その、お菓子作りとかできたの?」
「うん。もう、小学生くらいからやってたかなあ。」
「ええ?すごいな。」
「いやいや、まあ、まずは食べてみてよ。」
「うん、いただきます。」
 俊作は一番近くにあった、至ってオーソドックスそうなクッキーを手に取り、口に運んだ。
「美味!」
 タイがお手製のクッキーは、既に口に運んだ時点から美味しかった。
「ありがとう。」
 先ほどよりもより一層照れた様子の大河。
「すごいな。」
「いや、それほどでもー。」
「女の子に作ってあげたこととかあるの?」
「ああ、それはまだ。」
「絶対喜ぶよ。」
「ありがとう。」
「あ、でも差し入れで持ってったりはするなよ。」
「それくらいわかるわ。」
 大河は大きな声でツッコんだ。
「もうちょっと食べていい?」
「もちろん。」
「はあ、うまい。」
 そう言いながら俊作は次のクッキーに手をかけるのだった。

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