アレンジ

「本当に許せない。」
 大学からの帰り道、大河は怒りをあらわにした。
「なんだ、どうした。」
 俊作はなだめるように言った。
「いや本当許せないことがあってさ。」
「え、もしかしてまたアイドル関連の話じゃないだろうな。」
「それじゃあない。」
「ああ、そう。」
「うん。俺はどんなことがあってもふー姫を推すのをやめないぜ。」
 大河は親指を立ててそう言った。
「おお……よかった。」
「うん!」
「まあそれはそうとして、何に対してそんなに怒ってんだよ。」
「いや実はさ、昨日の夜テレビ見てたら、お手軽アレンジレシピを紹介、みたいな特集がやってたんだよ。」
「ああ、あるなあ。」
「なんか、レトルトのカレーとか冷凍食品を使ったお手軽アレンジレシピ対決、みたいなので、芸能人とか料理人が料理してたんだよね。」
「うんうん。」
「あれが許せなくてさ。」
「なんで?」
「俺も料理するの嫌いじゃないからこそ言いたいんだけど、全然お手軽じゃないの。」
「ああ、そういうことね。」
「なんか、そんなの普段家に置いてないだろ、っていうようなもの使ったりしててさ、それはどうなの?って思って。」
「分からなくはないな。」
「お手軽ってどこからどこまで言うのよ。」
「曖昧な表現だよな。」
「それが腑に落ちなくてさ。」
「なるほどな。」
「でもって、そこまで手間暇かけるよりそのまんま食った方が絶対美味しいからね。」
「それは分からないだろ。」
 俊作は笑いながらツッコんだ。
「いや、絶対そうなんだって。」
「なんでだよ。」
「美味しいから既に愛され続けてるの。」
「まあ、そうだけど。」
「それにさ、レトルトとか冷凍食品のお手軽アレンジレシピって言葉も既におかしいのよ。」
「だからお手軽じゃないってことだろ。」
「いやそうじゃなくて。」
「じゃあどういうこと?」
「いや考えてみてよ、レトルト食品とか冷凍食品っていうのはそもそも手軽に食べられるのが魅力なんだよ。」
「ああ、まあそれは確かに。」
「もう既にお手軽なのに、変なことをすることでお手軽じゃなくなってるのよ。」
「お手軽じゃなくなってる。」
「そう。」
 大河は強く頷いた。
「まあでも、どうでもいいんじゃないか。」
「え?」
「いや、気に入らないなら見なきゃいいんだ。」
「それは、そうだけどさ。」
「娯楽なんて溢れてる、自分の好きな物摂取してる方が精神衛生的にもいいだろ。」
「まあ、うん。」
「参考になるなと思う人は参考にすればいいし、気に食わない人は見なけりゃいい。」
「まあね。」
「そういうもんだよ。いちいち目くじら立てない方が、気楽だぞ。」
「うん、そうね。」
「そうそう。」
 俊作は大河の方をポンポンと叩いた。
「なんか馬鹿らしくなったわ。」
「だろ。」
「うん。え、今日暇?」
「おお、暇だぞ。」
「じゃあ俊作の家行っていい?」
「ああ、いいけど。」
「俺が腕によりをかけて手料理ふるまうよ。」
 大河は自分の腕を叩いた。
「お、アレンジレシピ?」
「うん。まあ、お手軽じゃないけどな。」

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